第六十九話 ヘリックス・フルコース、あるいは至高の懐柔
※お知らせ。隣接する国同士の首都があまりにも近すぎるので少し調整予定です。度々申し訳ありません。
ストーリーに、大きな影響は、御座いません。そのまま読み進めて下さい。詳細は、あとがきに書いてあるので、確認おねがいします。
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
日は暮れ、あたりは急速に闇に包まれていく。
いくら精鋭揃いのギルド調査団とはいえ、道なき道を切り拓き、警戒を緩められない夜の帝国跡地を徒歩で帰すのは流石に忍びない。
アルヴィンたちの様子を見るに、少なくとも背後から刺すような手合いではないと判断した私は、彼らを宿泊棟へと案内することに決めた。
案内したのは、つい先日ゴーレムたちに増設させたばかりの予備客室だ。
計20名という大人数だが、ゴーレムたちの規格化された建築精度のおかげで、収容能力に不安はない。
急な宿泊となったため、私は慌ててミラたちに準備を頼み、厨房へと向かった。
「セドリック、君の腕の見せ所だよ。手伝ってくれるかな?」
「もちろんでございます、ユエ様。最高のおもてなしを調えましょう」
私の執事であり、頼れる助手でもあるセドリックが、静かに、だが力強く頷く。
今夜のメインは、我が村の誇る魔牛だ。
これは今後の商談に向けた、文字通りの最終プレゼンでもある。
ノアと協力してゲノムレベルから美味しさを追求し、品種改良を重ねた野菜と果物。
そして、緻密な計算で導き出した黄金比のスパイス。
これらをフルコンボさせた特製ソースを、丁寧に焼き上げた魔牛のステーキにたっぷりとかける。
酸味の中に柑橘の芳醇な香りが立ち上り、適度なスパイスが鼻腔を刺激する。
(……もう野生の魔牛なんて、二度と食べられなくなりますよ?)
心の中で不敵に笑いながら、私は凪の観測手のメンバーの前に料理を並べた。
「さぁ、召し上がれ。ヘリックスブランドの真髄、見せつけてあげます。」
目の前に並んだ、輝くような肉料理を前に、アルヴィンたちはゴクリと唾を呑み込んだ。
「……本当に、これほど豪華な料理をいただいても良いのか?」
「もちろんです。売る商品の味を知ってもらわないと困りますから。私たちのプライドを懸けた逸品、ぜひ味わってください!」
私が胸を張って豪語すると、彼らは恐る恐る、だが抗いがたい誘惑に負けるように肉を口へ運んだ。
直後。
全員の思考が停止したのが分かった。
一拍置いて、彼らは我を忘れたように皿に食らいついた。
一瞬…。
文字通り一瞬で皿は空になり、ハッと我に返った彼らは、今度は「無くなってしまった」という事実に、絶望的な眼差しを空の皿に向けている。
リーダーのアルヴィンを見ると、なんと感動と喪失感で目に涙を浮かべていた。
「皆さん、安心してください。まだありますから」
私が笑って告げると、ミラたちが次々と次の料理――魔牛のビーフシチューや、肉汁溢れるハンバーグを運び入れる。
彼らは歓喜の声を上げ、満足ゆくまで食べ尽くした。
「アルヴィンさん、いかがでしたか?」
食後、私が尋ねると、彼は魂が抜けたような顔で絞り出すように答えた。
「……俺は、何というものに出会ってしまったんだ。一生の運をここで使い果たしたのではないかと思うほどだ。魔牛だけじゃない、君たちが作ったソースも野菜も、人生で一番美味い食事だった……。この商談ができて、本当に、本当によかった!」
絶賛の嵐は止まらない。
その後、魔法のような清潔な風呂、快適すぎるトイレ、そして低反発マットを用いた雲の上の寝心地を誇るベッド。
1日の、いや、これまでの過酷な調査行の疲れを癒やす設備を提供し、彼らを深い眠りへと誘った。
翌朝。
昨日までの険しい顔が嘘のように、憑き物が落ちたような清々《すがすが》しい表情で彼らは並んだ。
これからまた道なき道を歩いて帰るはずの彼らだったが、その足取りは昨日とは比べものにならないほど力強い。
「また来ます。……必ず」
去り際、アルヴィンが力強くそう言った。
それはギルド長としての挨拶ではなく、一人のファンとしての本音に聞こえた。
森の奥へと消えていく彼らの背中を見送りながら、私は確信に近い感触を得る。
(……うん、完璧だね)
胃袋と睡眠、そして「ここには安らぎがある」という強烈な既成事実。
今後の取引において、主導権はこちらが握ったも同然だ。
カームの英雄を最高のお得意様にした一晩は、最高の感触と共に幕を閉じた。
【設定変更に関する大切なお知らせ】
物語の整合性を高めるため、これまでの描写を一部修正いたしました。
ギルドの拠点について: これまで「ギルド本部」としていた記載を、**「ギルド支部(境界の町フロンティア)」**へと書き換えました。
距離感の調整: ギルド長たちが滞在する「町」から「ヘリックス村」までの距離や描写を、より物語のスケール感に合わせた内容に微調整しております。
今後の展開をよりダイナミックに楽しんでいただくための修正となります。引き続き、ユエたちの物語をよろしくお願いいたします!
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今日は、これで最後です。つづきは、またあした。




