第六十六話 オーバーテクノロジーの衝撃。隠者の末裔(?)と北の最強ギルド
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森を駆け抜け、拠点の境界線上で私たちは「来訪者」と対峙した。
武装した集団を前に、私は凛とした声を張り上げる。
「止まってください! あなたたちは何者ですか? これ以上の侵入は、敵対行為と見なします!」
私の隣でラウが鋭い視線で相手を射抜き、背後では純白の巨躯を持つノエルが静かな威圧感を放つ。
先頭にいた大柄な男が、部下たちを制して一歩前に出た。
「待て、俺たちは争いに来たわけじゃない! 近頃この森で不審な動きがあったため、調査に来ただけだ」
男はそう言うと、自らの武器を地面に置き、敵意がないことを示した。
「俺は北の蒼氷の国カームから来た。ギルド『凪の観測手』を率いるギルド長、アルヴィン・クロムウェルだ」
堂々たる名乗りだったが、私はあえて冷淡に返した。
「……すまない。私は世俗に疎いもので、その名を聞いても判断ができない。外の世界を知っている者に確認を取るので、少し待ってもらえるかな?」
「な……っ、英雄アルヴィン殿を待たせるというのか!?」
背後の部下たちが色めき立ったが、アルヴィンはそれを片手で制し、「構わん、賢明な判断だ」と深く頷いた。
その隙に、私は何気ない動作で虚空へと手を伸ばした。
何もない空間が水面のように揺らぎ、そこから真鍮のような重厚な金色に輝く球体を取り出す。
「な……空間収納だと……!? しかも、あの魔道具は何だ?」
アルヴィンの背後で、魔法に精通しているであろう魔導師の男が驚愕に目を見開いた。
大陸でも希少なはずの空間魔法を、詠唱も予備動作もなく発動させた私に、彼らの視線が突き刺さる。
私が取り出したドローン型探査機『ヴァルキリー』を空中に放つと、それは重力を無視してピタリと空中で静止した。
キィン、と澄んだ起動音が響く。
直後、金色の球体の表面に刻まれた複雑なルーン模様が、鮮やかな青白色に発光した。
ルーンの光を纏った外殻が、中心核を守るように上下左右、360度へと複雑に回転を始める。
魔力を推進力へと変換し、静かにホバリングしながら周囲をスキャンするその姿は、まるで意思を持った機械仕掛けの瞳のようだ。
その未知のオーバーテクノロジーに、アルヴィンすらも息を呑むのがわかった。
私は気にせず、ヴァルキリーが空間に投影した鮮明なモニター越しに、拠点に残ったシェリルへ映像を飛ばした。先程のやり取りを軽く説明し、男の正体を問う。
「シェリル、聞こえる? 映像を見て。――この男、知っているかな? 『凪の観測手』のギルド長を名乗っていて、今は武器を置いて敵意がないと示しているところなんだけど」
モニター越しに私が簡潔に状況を説明すると、シェリルが絶句したような声を上げた。
『……っ! ちょっとユエ、冗談でしょ!? その人は大陸でも有名な英雄よ。ギルドも間違いなく本物。……信じて大丈夫だわ、私が保証するわ。っていうか、そんな人を待たせてるの!?』
シェリルのお墨付きをもらい、私はようやく周囲に潜ませていたゴーレムや豹型ゴーレム《サーチャー》たちに警戒解除の合図を送った。
いつの間にか自分たちの背後にまで迫っていたゴーレムの気配に気づき、アルヴィンたちが戦慄を覚えたのは言うまでもない。
「失礼しました、確認が取れました。立ち話も何ですから、私たちの拠点へ案内します」
拠点に到着した瞬間、『凪の観測手』の面々は言葉を失った。
「おい、見ろよ……白い鬼熊も驚きだが、あそこにいるの、魔牛じゃないか!?」
「待て! クワックチキンまでいるぞ! なんであんなにおとなしくしてるんだ!?」
家畜小屋を指差して騒ぎ出す部下たちを、アルヴィンが「失礼だぞ、静かにしろ!」と一喝する。私は彼らを一番広い食事処へと案内した。
「それで……私たちに、何を聞きたいのですか?」
私の案内に従い、席に着いたアルヴィンが率直に問いかけてくる。
その眼差しは鋭いが、先ほど目の当たりにした『ヴァルキリー』や詠唱破棄の空間収納に対する畏怖が、隠しきれずに混じっていた。
私は嘘と真実を混ぜた経緯を語った。
「私はユエ。……私たちの先祖は、大昔に大災害が起きた際、地下へと逃れました。それから長い時を地下で過ごしてきましたが、ようやく地上の魔力汚染が収まったと判断し、出てきたのです」
外の世界の情勢や、アルヴィンという英雄の名すら本当に知らない私の反応。
それが、先ほど披露したオーバーテクノロジーの異質さと結びついたらしい。
(……なるほど。大災害を逃れ、これほどの魔導技術を独占したまま地下で守り続けてきた隠者の末裔か。だからこそ、外界の常識から完全に切り離されているというわけか)
アルヴィンが一人で納得したように深く頷く。
どうやら私の「無知」が、逆に「世俗に汚れていない、歴史の表舞台から消えた高貴な隠者の血筋」という強力な信憑性を与えてしまったようだ。
さらに彼は、家畜たちのことに強い関心を示した。
「先祖代々、温厚な個体を交配させて家畜化した魔物です。ちょうど、これらを外で販売して、生活資金を得ようと考えていたところなんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、アルヴィンの目が鋭く輝いた。
「……その話、俺たちに協力させてくれないか? もしこの家畜を安定供給できるなら、カームで最高の販売ルートを用意しよう。君たちが不当な扱いを受けないよう、ギルドが責任を持って手配する」
願ってもない提案だった。
これなら身分証の問題もクリアできるし、カームの英雄が後ろ盾なら闇組織も迂闊には手を出せないだろう。
(シェリル、せっかく変装アイテムを作ろうと思ってたけど、お役御免になりそうだよ……)
私は心の中で苦笑しながら、アルヴィンとがっしりと握手を交わした。ヘリックス村の特産品が、外の世界へ羽ばたく瞬間だった。
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