第六十四話 蒼氷の観測者と、異形の箱庭
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【ジーク視点】帝国跡地・北側上空
現在、俺は数人の精鋭メンバーと共に、帝国跡地の上空を飛んでいた。
空からの観測は地上を行くより遥かに安全だ。
だが、この空域には稀に――いや、かなりの高確率で「厄介な先住民」が姿を現す。
「……チッ、また来やがったか!」
下方から、案の定、数羽の魔鴉が舞い上がってきた。
漆黒の羽に赤紫の魔力を纏わせた、知能の塊のような連中だ。
毎年のことながら、こいつらは縄張り争いや狩りのために飛んでくるのではない。
知能が高いゆえに、俺たちの機動を先読みし、面白半分でからかいに来るのだ。
俺は執拗に突っかかってくる魔鴉を高速の旋回で躱しつつ、帝国跡地の中心部へ向けて一気に加速した。
「ん? なんだ……あの煙は」
中心部付近から、細く白い煙が立ち昇っているのが見えた。
森林火災か、あるいは野営の火か。
俺たちは警戒を最大限に引き上げ、近くにある崩落した遺跡の屋上に音もなく降り立った。
「なっ……なんだ、あれは……!」
眼下に広がる異様な光景に、思わず息を呑んだ。
地上では、見たこともない黄金のゴーレムたちが、整然と建物を造り、道を整備している。
その動きには一切の無駄がなく、まるで巨大な精密機械の部品のようだ。
さらにその横には、到底信じがたい光景が広がっていた。
本来なら人を襲うはずの魔物たちが、小屋の中でおとなしく管理されている。
よく見れば、高級肉として知られる魔牛やクワックチキンの姿もあったが、どれも俺の知る種よりどこか柔らかい印象を受ける、未知の変異種のようにも見える。
「闇組織の実験場か……? いや、だが、それにしては……」
周囲を見渡せば、魔猿と亜人の青年が熱心に特訓に励み、小さな子供が笑いながら走り回っている。
他にも数人の人間、そして傍らには――あの凶悪な鬼熊を白く染め上げたような巨獣までもが、まるで飼い犬のように寛いでいた。
殺伐とした闇組織の拠点とは程遠い。
直感だが、ここは何か別の、もっと不可解で異質な場所だ。
今の人数で不用意に接触するのは危険すぎると判断し、俺たちは一旦引き返すことにした。
……帰り道、またあの鴉どもに散々ちょっかいを出され、神経を削られたのは言うまでもない。
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【北の国・蒼氷の国カーム:境界の町フロンティア】
「……何だと? 人が、魔物と共に暮らしているだと?」
ギルド長室。俺の報告を聞いたアルヴィン・クロムウェルは、深い困惑を隠せない様子で問い返してきた。
「はい。まるで村のような体を成しており、そこには亜人も人間も、それどころか魔物までもが共存していました。到底、正気を疑うような光景でしたが、この目ではっきりと確認しました」
「……ジーク、お前の目は疑わん。どうやら、最近の森の異変は、その場所が中心にありそうだな」
アルヴィンの瞳に、英雄としての鋭い光が宿る。
帝国跡地の深部――精鋭ですら一週間は要するあの死地に、文明を築く者がいる。
それが人類にとっての希望か、あるいは新たな災厄の芽か。
それを見極めるのが彼の役割だ。
「よし、俺が直接出向いて実態を確認してみよう。……もし、奴らがこの地に災い成す種を撒く存在であれば、その場で討伐する。ジーク、すぐに精鋭を集めろ。調査隊を編成し、強行軍で深部へ向かうぞ」
「はっ!」
蒼氷の国カームが誇る凪の観測手が、ついに動き出した。
ユエたちが村の名を何にするか微笑ましく考えている裏で、北の最強戦力が、平和な日常の扉を叩こうとしていた。
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