第六十話 楽園の礎、あるいは食卓の改革
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
翌日、私は鬼熊を包む繭を、新設した品種改良室の専用ポッドへと移送した。
ラウやノアの時とは違い、羽化までにかなりの時間がかかっているようだ。
術式のミスを疑ってアナライズ・メガネで何度も再走査したが、数値に異常は見られない。
「やはり、初の天然変異種をベースにしたのが原因かな……」
変質し、肥大化した変異魔核を再構築するには、それ相応の「再定義」の時間が必要なのだろう。
予測不能な事態に備えつつ、私は経過を観察することにした。
さて、今日の本題は「食糧問題の根本的解決」。
つまり、家畜の品種改良だ。
この世界には、馬のような移動用の家畜はいても、食用家畜という概念がほぼ存在しない。
生物は一様に魔物であり、本能的に凶暴だからだ。
一般人でも狩れる一部の小型種を除けば、良質な肉や卵は専門のギルドが命懸けで狩猟してくる最高級品。
流通は極めて限定的で、およそ効率的とは言えない。
「……今後、さらに仲間が増えることを考えれば、狩猟頼みの食生活ではいつか限界が来るからね」
外で訓練に励むラウたちの姿を視界に入れる。
人外、ホムンクルス、そして改造人間となった元奴隷たち。
これほど多くの食い扶持を抱えながら、かつての私たちが享受していた食卓を維持するのは至難の業だ。
帝国時代の私であれば、望むだけで最上の魔獣の肉が銀皿に供された。
さらに言えば、もう一つの前世――悠月としての記憶にある地球の食事も、私を悩ませる。
あの世界には、溢れんばかりの食材と、それを美味しく食べるための洗練された技術があった。
厳選された牛の芳醇な脂の甘みや、毎朝当たり前のように届く新鮮な卵。
それらを知っている私にとって、今の「ただ焼くだけの硬い野獣の肉」という食生活は、耐え難い欠乏でしかないんだ。
ならば、この地を自給自足可能な、食の楽園にするしかない。
【 第一次・家畜最適化計画 】
手始めに、セドリックが以前捕獲した鳥型魔物クワックチキンを対象にする。
見た目は愛嬌があるけれど、天敵には全力で特攻をかます過激な鳥だ。
個体選別: ラウに協力してもらい、群れの中から攻撃性の低い個体をピックアップ。
ホルモン解析: アナライズ・メガネで、アドレナリン等の分泌が極端に少ない個体を特定する。
ゲノム編集: 穏やかな性格を決定づける遺伝子配列を抽出。
ここで、キメラ魔術を応用して開発した新たな術式を起動する。
「『コード・オプティマイザ(ゲノムの最適化)』――実行」
私の血による強制変異ではなく、既存の遺伝子情報を最適化・固定化するだけの、低負荷な術式だ。
目の前で、複数のクワックチキンが小さな繭に包まれていく。
これで、あの地球で馴染み深かった鶏のように、人間を襲わない大人しい個体が誕生するはずだよ。
【 幻の高級肉を求めて 】
次に、沼地に生息する魔牛熊鰐。……名前が長いから魔牛と呼ぼうか。
トナカイのような角を持つ牛の頭、熊の胴体、ワニの尾。
天然のキメラのような姿だけれど、その肉質は帝国時代の宮廷料理や、悠月時代に憧れた最高級の和牛をも凌ぐ可能性を秘めている。
しかし、水中に逃げるのが早く、怒らせるとカバのように恐ろしいこの魔物も、私の術式で徹底的に家畜用へ最適化していく。
「美味しいステーキのためだ、少しだけ我慢してくれよ」
そんな作業を一週間ほど繰り返した。
拠点のラボにはいくつもの繭が並び、自給自足の基盤が整いつつあった、その時――。
ラボの奥から、地響きのような力強い鼓動が伝わってきた。
「……来たか」
ついに、あの鬼熊の繭が羽化の時を迎えたんだ。
私はシェリルやラウを呼び、期待と少しの緊張を胸にラボへと急いだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
【お知らせ】世界観・設定のアップデートについて
いつも本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。神蛇紫苑です。
物語がいよいよ9万文字を突破し、拠点運営とストーリーが一段と深まる局面を迎えました。
そこで、今後のさらなる盛り上がりと、より一貫した世界観をお届けするために、現在設定や用語の一部アップデートを計画しております。
【アップデートのポイント】
魔物や重要アイテムの呼称のブラッシュアップ
(ユエの知的な側面や、帝国の歴史をより反映した名称へと調整します)
変異種や術式に関する定義の再整理
(「天然」と「人工」の違いなど、物語の核となる設定をより明確にします)
【 今後の進め方について】
現在、新しい名称や詳細な設定を鋭意検討中です。
今後の最新話から少しずつ新しい設定を反映させつつ、過去の回についても順次、違和感のないよう修正を行っていく予定です。
「ユエが自身の膨大な知識を整理し、改めて定義を付け直している」……そんな風に、物語の進化を楽しんでいただければ幸いです!
【追記:現在修正作業は、4月23日次点で全話調整完了しました。】
いよいよ物語は、沈黙を破り「あの繭」が羽化を迎える第六一話へと突入します。
より深く、よりカッコよく進化していく本作を、引き続きよろしくお願いいたします!
**「悠月とルナの食へのこだわりが最高!」「品種改良された魔牛のステーキ、食べてみたい!」**と、拠点の「楽園化」にワクワクした方は、
ぜひブックマークと、下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に**染めて応援をお願いいたします!
皆様の評価という「最高のスパイス」が、ユエの創作意欲をさらに燃え上がらせます!
つづきは、21時まで、いつもは、最低全部で3話なんですけど、今日は、お仕事休みなので、アイディアがまとまれば数話追加予定です。ただ、リアルタイムで話考えてるので、ちょっと投稿時間が、不定期なのは、ご了承ください。




