第五十七話 新生への律動
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
拠点に帰還すると、セドリックがいつものように穏やかな仕草で出迎えてくれた。
「ユエ様、おかえりなさいませ。……おや、そちらの方々は?」
「セドリック、すみませんが、まずは彼らを浴室へ案内してあげてください。皆、心身ともに限界です」
連れて帰った人々は、不完全な人工魔核による強制再生で傷こそ塞がっていたが、その瞳は絶望に摩耗しきっていた。
高度な治療より、今は清潔な環境と安らぎが必要だ。
彼らのケアを万能なセドリックに任せ、私は庭へと向き直る。
そこには、ラウが組み伏せている巨大な変異鬼熊が横たわっていた。私はアナライズ・メガネの焦点を合わせ、その巨体を精査し始める。
「……ひどいものですね」
体表を突き破り、異常なほど生え揃った魔水晶。
内部構造を透視すると、この個体には人工魔核の反応はなかった。
人為的な改造ではなく、この地の高濃度な魔力汚染を蓄積し続けた結果生まれた、天然の変異種だ。
「天然魔核が肥大化し、過剰なエネルギーを排出しきれずに崩壊寸前……。相当、苦しかったでしょうに」
解析を進めるほどに、この個体の悲劇が浮き彫りになる。
激痛で冬眠すらできず、魔核の誤作動で生じた飢餓感に突き動かされ、毒である魔晶石を食らい続ける死への悪循環。
だが、この天然の変異魔核を解析したことで、私の確信は深まった。
人工物は肉体との不協和音で醜く歪むが、長い年月をかけて適応しようとした天然の変異魔核には、まだ「進化」の余地が残されている。
「今までの私なら、この規模の変異を御すのは困難でした。けれど、今の私なら……可能です」
私はラウに合図を送り、虫の息となっている鬼熊の前に立った。
魔力の循環を整える。かつてのように自分の一部を大きく削る必要はない。研鑽を重ね、洗練された今の術式なら、指先から滴る数滴の鮮血――私という「核」を分け与えるだけで、その理を書き換えられる。
「……始めましょうか」
春の柔らかな日差しが差し込む庭で、新たなキメラ化の儀式を開始する。
指先から零れた真紅の雫が、鬼熊の胸へと吸い込まれた瞬間、世界が眩い光に塗り潰された。溢れ出した光の帯は、瞬く間に鬼熊の巨体を編み上げ、それはやがて巨大な繭の揺り籠へと姿を変えていく。
半透明の膜の内側で、新たな生命の鼓動がドクン、ドクンと力強く、静寂を震わせるほどに響き始めた。それは死を繋ぎ止めるための延命ではない。歪んだ進化を正し、真なる姿へと導くための、新生の律動だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
死の悪循環を断ち切り、新たな命を紡ぎ始めたユエ。
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皆様の応援が、ユエたちの歩みを支える一番の魔力になります!つづきの2話は、21時までに投稿予定です。




