第五十六話 介入――絶望を切り裂く
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【ユエ視点】
拠点の庭で、鴉型のゴーレム・ウォッチャーの最終試験を行っていた時のことだ。
投影された映像の端に、ただならぬ動きが映り込んだ。
ズームをかけると、数キロ先の森で、数十人の人間が巨大な変異鬼熊に追い詰められているのが見えた。
だが、様子がおかしい。
襲われている彼らは一様に生気を失い、まるで何かに操られるかのように、無謀な突撃を繰り返させられている。
私はシェリルに操作を預けると、自身の魔眼を凝らし、遠方の光景を視認した。彼らの胸元に、かつての魔猿の元長と同じ禍々《まがまが》しい光が脈動している。
「……人工魔核。それに、体に奴隷化の術式だと!?」
救うためでも、高みを目指すためでもない。
ただ使い潰すためだけに刻まれた、あまりに稚拙で残酷な術式。
技術を研鑽せず、対象への敬意も欠いたその在り方に、私は静かな、けれど底知れない怒りを覚えた。
同じ命を扱う術式を弄ぶ者として、この無残な設計は到底容認できるものではなかった。
「ラウ、出るよ。全力だ」
【奴隷視点】
「あああ、誰か……誰か助けて……っ!!」
霧深い森に、届くはずのない叫びが消えていく。
抗えぬ命令に縛られ、巨大な絶望へと立ち向かわされる。
もう限界だ、そう誰もが瞳を閉じたその時だった。
突如、空を裂いて巨大な影が降ってきた。
ドゴォォォォン!!
猛然たる着地音と共に現れたのは、見たこともない姿をした魔猿だった。
体長は3メートルほど。
頭部からは威風堂々とした4本の角が天を突き、強靭な身体には黒虎のような模様が走っている。
その魔猿は、咆哮ひとつ上げなかった。
ただ、静かに、そして鋭く鬼熊へと踏み込む。
獲物を奪われ激昂した鬼熊が、丸太のような前足を振り下ろすが、その魔猿はそれを柳のようにしなやかな動作で受け流した。
「ガ、アアア!?」
驚愕に目を見開く鬼熊。
4本角の魔猿はそのまま、4メートルを超える巨体を軽々と持ち上げると、柔の理を以て豪快に投げ飛ばした。
「……え?」
呆気にとられていると、背後から凛とした、けれど春風のように温かな声が届いた。
「もう大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
振り返れば、そこには言葉を失うほどに美しい人が立っていた。
金色の2本の角と、腰から伸びるしなやかな蛇の尾。
その黄金の瞳に見つめられた瞬間、心の奥底にこびりついていた恐怖が、すうっと消えていくのを感じた。
背後では、空気が震えるほどの地響きが鳴り続けている。
あの魔猿が魔力を纏わせた掌打を叩き込み、鬼熊の巨体を一瞬で制圧していく。
それは荒々しい暴力などではない。
洗練を極めた、美しい武術そのものだった。
「ラウ、その辺にしてください。それ以上やると、再起不能になってしまいます」
美しき主が名前を呼んで静かに制すると、森の王であったはずの鬼熊は、借りてきた猫のように丸くなって震えていた。
『モウ少シ、俺ノ相手ヲシテ欲シカッタンダケドナ……』
「喋った……!?」
あの恐ろしくも強い魔猿が、流暢な言葉を発したことに腰を抜かしていると、美しい人はさらに驚くべき提案をした。
「その子は保護して連れて帰ります。……それから、あなたたちも。よければ、私たちの拠点へ来ませんか? ゆっくり休んでから、お話を聞かせてください」
拒否する理由など、どこにもなかった。
見捨てられたはずの自分たちに差し伸べられた、あまりにも温かな救いの手。
私たちは縋るような思いで、この美しくも不思議な人たちの後を追った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ついに介入したユエとラウ。
**「二人の登場がかっこよすぎる!」「ラウの武術にしびれた!」**と感じていただけましたら、
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