第五十一話 ソル・インヴィクタス(不敗の太陽)
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同時刻、とある街の地下深く。
湿り気を帯びた石造りの空間に、激昂した男の怒号が突き刺さった。
「……まだ見つからないのか! あの女は! 死体でもいい! とにかく見つけろ!」
部下を怒鳴りつけ、苛立ちを隠そうともしない男――カイル・ソル・レヴァント。
数日前、人工魔核を移植した実験体の魔猿が突如として暴走。数人の部下を食い殺し、帝国跡地の奥深くへと逃亡した。
その後の調査で判明したのは、背筋が凍るような事実だった。
「仕組まれていた、だと……?」
組織の魔道具師たちが総出で、数日を費やしてようやく解読した魔核の深層術式。
そこには、完璧な完成品を装った凄惨な呪いが、極めて高度に隠蔽されていた。
一定時間が経過すると制御を離れた魔力が暴走し、被験体の肉体を内側から突き破って、禍々《まがまが》しい魔力の結晶が体表に噴出する。
さらに、外部から魔力を過剰摂取すると術式が反転し、肉体変異を引き起こす仕掛けだ。
一時的に爆発的な強化を見せるが、直後に肉体は負荷に耐えきれず自壊する――。
(あの女……我々の飼い犬を演じながら、これほどの小細工を!)
当初は単なる使い捨ての道具だと思っていた。
だが皮肉にも、その罠の精緻さこそが、シェリルという女が組織の誰よりも優れた技術者である証明となってしまった。
「あそこは魔力汚染で変異した魔物が蠢く死地だ。重傷を負ったあの女が、無事でいられるはずがない……くそッ、惜しいものを失った!」
カイルは手近なワインボトルを床に叩きつけた。
鋭い音と共に赤い液体が飛び散り、部下たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
なぜ、こうも上手くいかない。
800年前、帝国は魔力暴走を引き起こし、大陸中に甚大な影響を及ぼすほどの汚染をもたらした。
その責を各国から問われ、帝国の王族はことごとく処刑された。
死に物狂いで逃げ延びた先祖が、いつか黄金の帝国を再興させるべく創設した組織、それがこの『ソル・インヴィクタス』だ。
ようやく跡地の調査が可能になった今、先祖が遺した資料から生物兵器を量産し、覇道を突き進む。その直前で、一人の女に足元を掬われたのだ。
「……チッ。あの女を失ったのは痛手だが、代わりはいくらでもいる」
カイル・ソル・レヴァントは荒い息を整え、冷酷な眼差しを部下たちに向けた。
「来年までに、必ず完璧な人工魔核を完成させろ。……行け!」
「「はっ、承知いたしました!」」
逃げるように去っていく部下たちの背を見送りながら、カイルは暗い地下室で一人、帝国跡地の方角を睨みつけた。
「我が一族の悲願……貴様らのような下民に、邪魔はさせん」
その拳は、屈辱と野心で白く震えていた。
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