表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された俺、エルフの賢者と融合して究極のキメラになる〜禁忌魔術で、滅びた帝国を勝手に復興させてもらいます〜  作者: 神蛇紫苑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/70

第三話 滅びの帝国の孤独な老猿 【前編】

ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。



外に出た瞬間、肺に流れ込んできたのは、驚くほど澄んだ空気だった。


かつて君臨くんりんしていた帝国は影も形もなく、視界を埋め尽くすのは崩壊した石造りの街並みと、天を突くほどに巨大化した魔晶石ましょうせきの群れ。


(……この感覚。エルフの知識が、周囲の状況を自然と分析していく)


私は、空気中にただよう魔力濃度を肌で感じ取った。


かつてこの地をおおっていたはずの、生物を即死させるほどの高濃度汚染は、数百年という歳月をかけて「結晶化」することで固定され、安定している。


さらに、私が目覚める直前――姿が安定した際、周囲に残っていた致命的な魔力のほとんどを、この「キメラ」の体が触媒しょくばいとなって吸収してしまったようだ。


「これなら……。魔晶石のそばさえければ、生物が十分に活動できる環境まで浄化されていますね」


あの絶望的な召喚しょうかんの日から、少なくとも数百年の月日が流れた。文明はほろびたかもしれないが、世界は死に絶えてはいなかった。


なげいていても始まりません。まずは、安全に夜を越せる場所を探すとしましょう」


静寂せいじゃくに沈む廃墟はいきょを、カツン、カツンと乾いた足音が叩く。


探索を始めて数刻。私は崩落をまぬがれた、比較的保存状態の良い石造りの建物を見つけ出した。内部には当時の生活の残滓ざんしが、ほこりこうむりながらも息を潜めている。


「……ここなら、雨風をしのぐには十分でしょう。少し整えれば、当面の拠点として機能しそうです」


鈴を転がすような清らかな声が、無人の室内に溶けていく。


私は、他に利用可能な資材や水源がないかを確認するため、再び外の探索へと繰り出した。


白銀の髪を揺らし、金色のつのが魔晶石の微光を反射する。


背後では、尻尾しっぽである白蛇しろへびの頭が絶えず周囲を走査そうさし、私の脳内に視界を提供し続けていた。


その時だ。


――グゥゥ……。


低い、地鳴りのようなうなり声が、瓦礫がれきの向こう側から響いてきた。


本能が警鐘けいしょうを鳴らす。


だが、その声は私に向けられたものではない。


どこかえた捕食者の執着しゅうちゃくと、追い詰められた獲物の絶望が混ざり合っていた。


「……見過ごせ、と言うには、私の『中身』はまだ人間寄りすぎるようです」


私は音もなく壁をり、跳躍ちょうやくした。


視線の先では、幽尾猫ファントム・テイルが、今まさに一頭の老いた魔猿マナ・プライメイトを引きこうとしていた。


「そこまでです」


言葉と同時に、右手をかざす。


エルフの知識が、よどみなく術式を編み上げた。


「――『アイスウォーリア』」


大気がてつき、地面から結晶のような氷壁が突き出した。


突進していた幽尾猫ファントム・テイルが激突し、にぶい音を立てて弾き飛ばされる。


魔物がひるんだその刹那せつなわたしは指先を突き出し、さらに高位の魔力を練り上げる。


「次は、少し痛いですよ。……『ライトニング』」


手加減はした。だが、放たれた青白あおじろ雷光らいこうは魔物の鼻先でぜ、石畳を粉々にくだく。


圧倒的な力の差――。


野生の生存本能が勝てぬとさとったのか、幽尾猫ファントム・テイルは数回低く唸ると、そのまま脱兎だっとのごとく森の闇へと消えていった。


私はすぐに魔猿マナ・プライメイトへと向き直り、歩み寄る。


「大丈夫ですか? 怪我を見せてください」


しかし、死にたい老魔猿マナ・プライメイトは、助け主であるはずの私を、き出しのきば威嚇いかくした。


その瞳には、異形のキメラである私への、根源的な恐怖と拒絶が宿やどっている。


「……ああ、そうでした。落ち着け、私……。今の姿は、彼らにとっては化け物そのものでしたね」


わたしはあえて数歩下がり、ゆっくりと両手を挙げて敵意がないことを示した。金色の猫目がおだやかに細められる。


数分もの沈黙の末、老魔猿マナ・プライメイトはようやくその肩から力を抜き、警戒を解いた。


わたしは弱り切ったその体を、しなやかな腕で抱え上げた。


先ほど見つけた拠点へと運び込み、近くの森でんだ薬草を、エルフの知恵を借りて調合ちょうごうする。


その作業の最中、不意に、脳裏のうりに一筋の記憶がひらめいた。


「……そうだ。彼女の備えに、確か」


空間をくように「アイテムボックス」を起動し、漆黒しっこく虚空こくうから一本の小瓶を取り出した。


エルフの時代に精製せいせいされた、高品質な回復薬。


「少しにがいかもしれませんが、我慢してください」


瓶の中身をしみなく与えると、老魔猿マナ・プライメイトの深い裂傷れっしょうはみるみるうちにふさがっていった。


だが、閉じた傷口とは裏腹うらはらに、その呼吸は依然いぜんとして浅い。


「……やはり、老いそのものをやすことはかないませんか」


外傷は消えても、枯れかけた生命の灯火ともしびまでは戻らない。


わたしは、静かに眠りについた老魔猿マナ・プライメイトかたわらに腰を下ろした。


窓の外では、巨大な魔晶石の柱が、数百年という時間の重みをたたえて赤紫に輝いている。


かつての日常も、かつて愛した物語も、ここにはない。


けれど、このぬくもりだけは確かだった。


わたしは、明けることのない夜を共にするように、静かに看病を続けることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ