表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された俺、エルフの賢者と融合して究極のキメラになる〜禁忌魔術で、滅びた帝国を勝手に復興させてもらいます〜  作者: 神蛇紫苑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/70

第二話 銀髪、金角、白蛇の尾

ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。

―・・・・・―


深い闇の底から、泡が浮き上がるように意識が戻ってきた。


だが、その意識は、これまでの「俺」という輪郭りんかくを失っていた。


脳内に、濁流だくりゅうのような情報が流れ込んでくる。


予約したグッズのビニールがれる音と、冷たい石の床でとなえた血を吐くような詠唱えいしょう秋葉原あきはばら雑踏ざっとうの匂いと、古い羊皮紙ようひしの匂い。


相反あいはんする二つの記憶が、強引に一本の糸へとり合わされていく。


(……ああ、そうか。私は……)


私は、魔法生物兵器「キメラ」の実験体にされるために呼び出された異界の魂。


そして、あの銀髪の女性が最期にけた、未完成の術式「魂の融合」の結末。


「……っ、ふ……あ……」


こぼれた声に、自分でも驚いた。


濁りのない、鈴を転がすような清涼感のある響き。


かつての自分の声でも、彼女の声でもない、透き通った新しい調べだった。


なにか、謎の柔らかい物体の中に居るようだ。


私は、物体の内側を破いて、外にい出た。


ゆっくりと上体を起こす。


視界に入った自分の腕は、エルフのような透き通る白さを持ちながら、中性的でしなやかな強さを感じさせた。


「ここは……」


あたりを見回し、私は言葉を失った。


そこは、かつての「召喚しょうかんの間」の無残な廃墟はいきょ。何百年という歳月をかけ、高濃度の魔力が結晶化した赤紫の「魔晶石ましょうせき」の柱が、そこらじゅうから牙のように生えそろっていた。


そして、おそらく自分が入っていただろう赤紫色のまゆが、魔法陣があった場所の中央に鎮座ちんざしていた。


私はふらつく足取りで、近くにある巨大な魔晶石の柱へと近づいた。


鏡のようになめらかな結晶の表面に、今の「私」が映し出される。


「これが……私……?」


そこにいたのは、背中にまで届く白銀はくぎんの髪をなびかせた、息を呑むほど美しいエルフの相貌そうぼうを持つ人物だった。


だが、そのひたいからは、魔力を凝縮ぎょうしゅくしたような二本の金色の角が、鋭く天を突いている。


さらに、金色の虹彩こうさいに縦長の瞳孔どうこうを宿した猫のような瞳が、暗闇の中でらんらんと輝いていた。


ふと、背後に確かな「重み」を感じて振り返る。


腰のあたりから伸びていたのは、うろこの一枚一枚が真珠のように輝く、白い蛇の頭がついた尻尾しっぽだった。


蛇は私の意思に呼応するように、静かに、そして滑らかに鎌首かまくびをもたげている。


(……っ!?)


その瞬間、脳内に未知の視覚情報が直接流れ込んできた。


前を向いているはずなのに、背後の景色が鮮明に見える。


蛇の頭部が捉えている、自分自身の背中と、背後にある廃墟の瓦礫がれきの山。


それは、鏡越しに見るような不自然なものではない。


まるで、後頭部にもう一つの眼球が埋め込まれたかのような、あるいは全方位を監視するセンサーを手に入れたかのような、圧倒的な「全方位視界ぜんほういしかい」。


蛇が首を振れば、それに合わせて私の意識も、背後の死角をめるように走査そうさする。


基本の姿はあの白銀の髪の女性エルフ。


しかし、召喚の場に転がっていた魔物の要素を、術式が強制的に接合してしまったのだ。


「……前も、後ろも……すべて、見えるのですね」


自分の声が廃墟に響く。


丸縁まるぶちメガネを失った視界は驚くほどクリアで、何キロも先の廃墟のディテールまでが見て取れる。


その上、死角すら存在しない。


かつてオタクとして知識を蓄えていた自分は、この神話の生き物のような姿を見て、恐怖よりも先に「究極の個体」としての機能美に、美しさを感じてしまった。


記憶の中にある数百年の空白。消えた召喚者たち。


私は震える指先で、自身の金の角に触れた。


結晶の中に映る金眼の「私」と、その肩越しにこちらを覗き込む「白蛇」。


二つの視点で見つめ合う奇妙な光景の中で、私は自分という存在が、もう後戻りできない場所へ至ったことを悟った。


全方位から押し寄せる異質な視覚情報と、自身の変貌に息を呑んでいた私は、ふと肌をでる夜気のような冷たさに我に返った。


「……あ」


魔晶石の鏡に映る自分は、白銀の髪に金の角、そして白蛇の尾。


その神々しいまでの姿を包むものは、何一つとしてなかった。


かつてのオタクとしての理性が、遅まきながら悲鳴を上げる。


18歳の男子としての羞恥心しゅうちしんと、エルフの女性としての潔癖けっぺきさが混ざり合い、頬が急速に熱くなるのを感じた。


「落ち着け、私……。まずは服、服です」


私は、意識の深淵しんえんにある彼女の知識を手繰たぐり寄せた。


指先を空間に滑らせ、特定の術式を脳内で描く。


すると、虚空が水面のように揺らぎ、漆黒の空間が口を開けた。エルフの彼女が持っていた固有スキル「アイテムボックス」だ。


「良かった、機能していますね……」


安堵あんどにじませ、中を探る。


保管されていたのは彼女の私物ばかりだったが、その中からなるべく装飾の少ない、男性の旅装に近いパンツスタイルの服を選び出し、素早く身を包む。


すこし、大きい気がする。まぁ、良いだろう。


ただ、靴だけはどうしても、機能性重視とは言い難いヒールタイプのブーツしか見当たらなかった。


「……背に腹は代えられません、か」


カツン、と硬質な音を立てて足を踏み出す。


慣れない高さに一瞬たじろいだが、キメラとして強化された体幹が、驚くほどのバランス感覚でそれを補正した。


身なりを整え、私は数百年もの間、静寂に沈んでいた遺構いこうの出口へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ