第三十八話 ラウが無事帰還!能力大幅向上
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戦いが終わってしばらくしてラウが戻ってきたが、彼は姿を見せるなり、私の目の前で深々と頭を下げた。
「すまん、ユエ! お前が作ってくれた服……台無しにしてしまった。本当、に……ごめんなさい!」
まるでひれ伏すような体勢で、必死に許しを請うてくる。
2メートル近い超絶男前が、その恵まれた体躯を折り畳むようにして震えている姿は、客観的に見れば奇妙な光景でしかない。
確かに、私の最高傑作だった服がボロボロになったのはショックではある。だが、それ以上にラウが無事に戻ってきてくれたことが何より嬉しかった。
「大丈夫ですよ。それより、よく無事で戻ってきてくれました。私はそれが一番嬉しい……」
言いかけた瞬間、ある違和感に気づいた。
……あれ、ラウの話し方がカタコトではない。
あまりに流暢に喋っていないか?
本人はパニック状態で気づいていないようだが、姿が変わっただけでなく、知能までもが飛躍的に向上しているようだ。
「ラウ、そのまま直立してください。今からあなたを徹底的に分析……失礼、診断します」
私はスチャ、とアナライズ・メガネを掛け、彼の全身をくまなく解析していった。
「ひっ……! そ、そんなに怒ってるのか、ユエ……!?」
ラウは私の鋭い視線を激怒と勘違いしたのか、ビクッと肩を跳ねさせて硬直している。
私はその怯える巨漢を無視して、視界に浮かぶ数値を食い入るように見つめた。
これは……驚いたな。魔核の数値が向上しているだけではない。火のエレメントが魔核と均一に混ざり合っている。
「魔核が属性変化している……!? 後天的に属性が付与されるなんて、ルナ時代の知識でも聞いたことがない現象だ」
通常、魔核の属性は先天的な遺伝で決まるのが常識だ。
大量に魔力をかき集めた際、エレメントを無意識に吸収し、魔核の中で何らかの奇跡的な化学反応が起きたのかもしれない。
私がデータを前にひたすら独り言を呟いていると、背後から小さく震える声が聞こえた。
「……父、サン……っ!」
ラウの息子――ノアが、まだ慣れない言葉を懸命に紡ぎながら父親めがけて走り寄っていく。
ラウが戦っている間に、私が名付けをし、セドリックに頼んで少しずつ言葉を覚えさせておいたのだ。
ノアも父親と同様に物覚えが非常に良く、教えたことを即座に吸収しようとしていた。
ラウは弾かれたように顔を上げると、愛おしそうに腕を広げてノアを受け止めた。
見た目は14歳ほどに成長した少年を、今のラウは羽毛でも扱うかのように軽々と抱き上げる。
「父、サン……父、サン……!」
ノアは何度もそう呼びかけながら、父親の首にしがみついて声を上げて泣きじゃくった。
ラウは「ああ、ノア……怖かったな、もう大丈夫だ」と、自分自身の劇的な変化など一顧だにせず、大きな手で何度も息子の背をさすっている。
そんな親子の様子を眺めながら、私はふと気になったことを口にした。
「ラウ。ノアは……その子は実年齢で言うといくつなんだ?」
ラウはノアを片腕でしっかりと抱いたまま、私に申し訳なさそうな、それでいて誇らしげな笑みを向けた。
「……こいつが生まれてから、9回の冬を越した。9歳だ。……なぁ、ノア。もう泣くな、な?」
ラウが優しく語りかけると、ノアは涙でぐしゃぐしゃの顔を父親の胸に埋めて、コクコクと頷いている。
なるほど、中身はまだ9歳の子供なのか。
9歳にして私と背丈が変わらないどころか、追い抜かれそうになっているなんて。
(一応、私も変化した時に168cmまで伸びたというのに……この差は一体何なのだろうか。泣きたい)
私はこの親子の邪魔をしないよう、そっと家の中へ戻ることにした。
ふと横を見ると、近くにいたセドリックが顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、「よかったです、本当によかったです……!」と号泣している。
私は彼の手を引き、一緒に家の中へと連れて行った。
その後、私は家の中でラウから改めて事情を詳しく聞き出すことにした。
語られたのは、あまりに凄惨な群れの最期だった。
信頼していた右腕の裏切り、人間に引き裂かれた妻の死、そして異形と化した元長による蹂躙……。
ラウが語るたびに、横で聞いていたセドリックが拳を握りしめ、目尻を熱くしている。
すべてを話し終えたラウは、どこか憑き物が落ちたような、けれど深い悲しみを湛えた瞳で私を見た。
「ユエ……勝手な願いなのは分かっている。だが、あそこに残された仲間たちを、そして妻を……せめて、丁寧に弔ってやりたいんだ」
断る理由など、どこにもなかった。
私たちはすぐに準備を整え、魔猿たちの住処へと向かった。
かつてラウが愛し、守ろうとしたその場所は、今は静まり返った死の残骸が積み上がる地獄と化していた。
ラウの案内で、私たちは冷たくなった仲間たち、そして――最期まで息子を守ろうとして散った、ラウの妻のもとへと辿り着く。
ノアは母親の遺骸を前にして、また声を上げて泣いた。
ラウは言葉を失い、ただ静かにその場へ膝をついた。
私は、ルナ時代の知識に刻まれた安息の術式を静かに起動させた。
光の粒子が舞い、無惨に荒らされた彼らの骸を優しく包み込んでいく。
土に還る彼らの魂が、どうかこの地獄のような記憶から解き放たれ、安らかな眠りにつけるように。
セドリックが流す涙も、ラウの震える肩も、ノアの慟哭も。
そのすべてを、私はこの胸に刻み込んだ。
すべての弔いを終え、手厚く葬った墓標の前に立ったラウは、深く、深く頭を下げた。
「ありがとう、ユエ。……恩に着る。これで、俺たちもようやく……前を向ける」
振り返ったラウの表情には、もう殺意や後悔に支配された暗い影はなかった。
失ったものはあまりに大きい。
けれど、今の彼には守るべき息子がいて、支えてくれる仲間がいて、そして何より――帰るべき新しい家があるのだ。
夕闇が迫る中、私たちは住処を後にした。
背後に残した過去に別れを告げ、私たちは明日という未来へ歩き出す。
早めの投稿。今日は、お仕事おやすみなので、少し多めに書くかもです。21時までに投稿予定。
追記:大事な部分抜けてたので修正しました。




