第三十五話 【ユエ視点】ラウの決戦
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森の奥から響き渡る激しい打撃音は、大地を揺らし、空気を絶え間なく震わせていた。
その中心で、今まさに命を懸けた死闘が繰り広げられている。
私は、遠く離れた拠点から魔眼を介して戦場を凝視し、その一部始終を一瞬たりとも逃さず捉えていた。
「ラウ……」
魔眼が捉える光景は、あまりに凄惨だった。一面に転がる同族の死体。そして、ラウが慈しむように抱きしめていた、あの亡骸。
彼女はきっと、ラウにとってかけがえのない存在だったのだろう。
遠隔で見ている私でさえ、胸が張り裂けそうな思いだった。
だが、感傷に浸っている暇はなかった。
「……何だ? あの胸のあたりの光は?」
魔猿の胸の中央付近が、異様に発光している……。
異変を感じ、能力を一点に集中させると、視界がぐにゃりと歪んだ。相手の体内を直接透視したような、奇妙な感覚に陥る。
(うわっ、これも魔眼の能力の一つ!? 実に興味深……い、じゃない。脱線は私の悪い癖だな)
意識を無理やり現実に引き戻し、再び解析に集中する。その光の正体は――。
「魔核が光っている……? まさか、人工魔核っ!?」
人工魔核。魔晶石を主体に複雑な術式を組み込み、ホムンクルスの核や、肉体の強制強化を目的として作られる禁忌の技術。
かつての帝国では、捕獲した魔獣を強力な生物兵器へと改造するためにも使われていた代物だ。
つまり、あの魔猿は人為的に変異種へと作り変えられたのだ。しかし、元からある天然の魔核に、無理やり人工魔核を増設したせいか、魔力の循環が完全にオーバーフローを起こしている。
「……だから、あんなに不自然に発光しているのか。魔力暴走の一歩手前だ」
体中から魔力結晶が突き出しているのも、溢れ出した魔力が内側から肉体を侵食し、結晶化している証拠。あの個体は、もう長くは持たないだろう。
しかし、その異常な強敵を相手にするラウの戦いぶりは、私の想像を絶していた。
「……すごい。なんて戦闘センスなんだ……」
ラウは相手の動きに合わせ、驚異的な速度で攻撃スタイルを切り替えていく。
合気道の要領で巨体の突進を受け流したかと思えば、中国拳法のように鋭い打撃を叩き込み、流れるようなプロレス技で首根っこを捕らえ、回転の勢いそのままに地面へ叩きつけた。
(……まさか、私が以前教えた基礎を、実戦でここまで昇華させている!?)
相手に反撃の隙を一切与えない。その技術は、戦いの中でリアルタイムに洗練され、研ぎ澄まされていく。
一方的な展開に、最初は余裕を崩さなかったあの巨体の魔猿に焦りが走る。奴は窮鼠猫を噛むかのように、卑劣な目潰しを仕掛けた。
ラウが怯んだ一瞬を突き、致命的な打撃を叩き込もうとする魔猿。
だが、視界を奪われたはずのラウは、それを正面から完璧に受け止めた。魔猿が驚愕に目を見開く。
……気づかなかったのだ。ラウの背後から、第三の眼を持つ蛇の頭が冷徹に自分を監視していることに。
一旦距離をとった魔猿は、恐怖に顔を歪めながら何かを叫んでいる。その間に、ラウの潰された目はキメラ特有の凄まじい再生能力で完全に修復されていた。
それを見た魔猿の恐怖は、ついに狂気へと変わった。
奴は踵を返し、近くの魔晶石の柱を拳で砕き割ると、その破片を鷲掴みにしてニヤリと笑った。そして、あろうことかその魔晶石の塊を、バリバリと咀嚼し始めたのだ。
「……っ! まさか、あれは……!」
その光景には見覚えがあった。以前遭遇した、あの猫型魔獣の変異種の時と同じだ。
魔晶石を直接摂取し、自身の魔核を暴走させてさらなる力を引き出す禁じ手。目の前の魔猿は、パキパキと骨の軋む不気味な音を立て、さらなる醜悪な異形へとその身を激しく歪ませ始めた。
それは、自らの肉体を崩壊させながら力を絞り出す、命を前借りした絶望的な変異だった。
いったん。投稿します。ちょっとまだ何度か修正を繰り返すかもです。残りもなるべく早く書きます。21時までには、2話書き上げます。




