第三十二話 ラウの驚くべき才能と決戦の下準備
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ラウに外で待ってろと頼まれてから半刻ほど経った頃、彼が部屋から出てきた。
その眼光には凄まじい怒りが宿っており、険しい表情は、息子から聞いた話の凄絶さを無言で物語っていた。
何があったのかと事情を尋ねると、ラウは少し黙って天を仰ぎ、深い沈黙に落ちた。
溢れ出しそうな感情を懸命に整理し、決意を固めているのだろう。
やがて、彼は真っ直ぐに私の目を見た。
「ゴメン、ユエ。オレノ群レノ、問題。今、イエナイ……」
カタコトながら、今の精一杯の意志を伝えてくる。
その揺るぎない眼差しを見て、私はそれ以上の追及をやめた。
「わかった」
一言だけそう答える。
心配ではあるが、無理に聞き出すことが彼のためになるとは限らないからだ。
すると、ラウはさらに言葉を継いだ。
「ユエ、マエ、武術ノ本……オレニ、オシエル! オネガイ……オネガイ、シマス!」
彼は私の目の前で、地面に額を擦り付けるように土下座をしてきた。
その必死な姿に、私は確信した。
技術のすべてを注いで、彼を強くしなければならないと。
「いいでしょう。私の持てる技術のすべてで、あなたを強くしてあげましょう」
そう伝えると、彼はガバッと勢いよく顔を上げた。
そこから昼過ぎまで、私はラウに特訓を施した。
まずは「武術の本」に載っていた基本的な型を教え、同時にその動作が持つ物理的な意味を解説していく。
なぜその型をとるのか、どのような力学的結果が起こるのか。
現代科学の視点から、論理的に、丁寧に。
「もっと重心を低くしてください。そうです。その体勢なら軸が安定し、衝撃を受けた際に力が効率よく分散されます。……そう、その調子!」
理論の後は実践だ。
「私が攻撃します。受け止めてください。――いきますよ!」
私は身体強化をかけ、ラウに向けて鋭いかかと落としを繰り出した。
ズドン!
地面にヒビが入るほどの衝撃。
私たちはキメラであり、高い再生能力を持っている。
多少の負傷はすぐに治るだろうと判断し、あえて手加減を抑えて打ち込んだのだが、ラウはそれを余裕で耐えてみせた。
「今の感覚を忘れないでください。全身を使って衝撃を緩和するのです。正面から来る圧力を逃がす防御姿勢は……」
一通り防御を叩き込んだ後、次は「体内の魔力を使った身体強化」の指導に移る。
だが、ラウは魔力の扱いに関してはあまりピンと来ていないようだった。
もともと魔法を使わない種族ゆえ、魔力を使う技術が未発達なのだろう。
「ラウ、私の両手を取って。……そう、そのまま目をつぶって」
私はラウの手に自分の魔力を流し込み、彼の体内を強制的に巡らせた。
直接体験させるのが一番早い。ラウの体がピクッと反応する。
「ワカッタ! ヤル!」
そう叫ぶなり、彼は今の感覚を即座に再現してみせた。
やはり、こうした野生的なセンスは天性のものであるらしい。
私はアナライズ・メガネを調整し、彼の体内の魔力循環を視覚化してみる。
すると、驚くべきデータが映し出された。
「……あれ? なんだ、これ……魔力の他に、エレメントの反応が……」
それは火の属性反応だった。
どうやらラウは、無意識にエレメント系の魔力を引き込んでいる。
私が以前使った雷や氷の属性魔法は、本来高度な制御が必要な技術だ。
それを指導もなしに自然に扱えるということは、彼には火の属性に対して圧倒的な適性があるのだろう。
それどころか、彼は外部から魔力を効率よく吸収し、淀みなく全身に巡らせている。
次の瞬間、彼の拳に強烈なエレメントが凝縮された。
ラウはそのまま、その拳を近くの巨岩に叩きつけた。
ドカン!!
轟音と共に、岩が粉々に砕け散る。
「ええっ……!?」
私が驚愕していると、ラウは平然とした顔でこちらを向き、催促してきた。
「マリョク、ツカイカタ、ワカッタ! ツギ!」
……恐ろしい戦闘センスだ。
伊達に過酷な森で魔猿のボスを張ってきたわけではないということか。
私は、目の前で覚醒しつつあるキメラの才能に、ただただ圧倒されるばかりだった。
あと、2話は、21時までに、まとめ中しばらくお待ち下さい。




