第二十六話 命をつなぐ揺り籠
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術式が、完了した。
かつてラウを救った際の術式は、今思えば危うい賭けだった。
今回はその反省を活かした改良版を適用している。
この改良型術式であれば、魔核の暴走を98パーセントという極めて高い確率で制御下に置くことができる。
ラウの時は無我夢中だったが、本来は人工魔核を用いたこの手法こそが正解なのだ。
あの時のラウが命を繋ぎ、キメラとして適合できたのは、今更ながら本当に奇跡だったと言わざるを得ない。
今回の術式には、私の悠月としての記憶――地球の現代科学の断片的な知識を、ルナの持つ高度な魔導理論で再構築した技術を組み込んでいる。
別の異世界の概念を取り入れたことで、キメラ化の安全性は劇的に向上した。
悠月自身は専門家ではなかったが、そこに含まれていた「ヒント」は、ルナの知識と結びつくことで強力な相乗効果を生んだのだ。
(とはいえ、まだ改良の余地はありますね……。魔力のバイパス経路の構築効率が、想定よりコンマ数パーセント低い)
頭の中でデータを整理しつつ、私は目の前の結果に安堵の息を漏らした。
術式を終えた子供の魔猿は、無事にキメラ化の初期段階である「繭」の状態へと移行している。
アナライズ・メガネ越しに映るバイタルサインは、ラウの子供の命が、今度こそ確実に繋ぎ止められたことを示していた。
「……ラウ、もう大丈夫ですよ。この子は助かりました」
繭のそばで、壊れ物を扱うように優しく、けれど力強く抱きしめていたラウ。
私の言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた彼の全身から、どっと力が抜けていくのがわかった。
「ユエ、アリガト! アリガト!」
彼は顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らし、嗚咽を漏らしながら、何度も何度も感謝の言葉を繰り返した。
「ラウ、まだ繭になったばかりです。中身が安定するまでは動かさないでくださいね。それとここは森の中ですから、他の魔物が近づかないよう警戒を怠らないで」
私が念を押すと、ラウは涙を拭い、力強く頷いて周囲を警戒し始めた。
その傍らで、私はセドリックに通信を入れる。
「セドリック、聞こえますか? 至急、拠点で繭を受け入れる準備をお願いします。不測の事態により、本日の探索は一時中断です」
ヴァルキリーを介して指示を飛ばすと、私は繭の状態を刻一刻と監視し続けた。
完全に安定するまで、あと数時間。
私たちは静寂に包まれた森の中で、新たな同胞が目覚めるための揺り籠を、二人でじっと守り続けた。
21時までには、残り2話更新予定です。




