第二十五話 友の大事な家族のために。もう一度生きるチャンスを。
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【ユエ視点】
血の匂いを頼りにラウを追っていたその時、ヴァルキリーを介してアナライズメガネに緊急アラートが走った。
随行していたフギンからの割り込みメッセージだ。
「これは……!?」
網膜に投影されたのは、血にまみれた幼い魔猿を抱き、泣き叫びながらこちらへ走り向かうラウの姿。
同時に転送されてきたバイタルデータは、その幼い命が今まさに消えようとしている深刻な事態を示していた。
映像の中のラウの狼狽ぶりから、その魔猿が彼にとってかけがえのない存在であることは痛いほど伝わってくる。
私は足を止め、すぐさま迎護の準備を整えた。
ほどなくして、視界にラウが飛び込んできた。
彼は私を見つけるなり、崩れ落ちるようにして縋り付いてきた。
「ユエ、オレノコ! オレノコ! タスケテ、クダサイ! タスケテクダサイ!」
言葉を覚えたばかりの彼が、必死に絞り出した敬語。
この魔猿はラウの子供……。
私はすぐさまアナライズメガネで詳細な解析を開始した。
だが、結果は非情だった。
(……ひどすぎる。もう、薬でどうこうできる段階を越えている)
体内組織の損傷が激しく、通常の治癒魔法や回復薬では到底間に合わない。
私はラウの目を見つめ、残酷な事実を告げなければならなかった。
「ラウ、落ち着いて聞いてください。この子はもう、回復薬で治る段階を越えています……。このままでは、助かりません」
ラウの身体が絶望に激しく震える。私はその絶望を遮るように、言葉を継いだ。
「ですが、一つだけ方法があります。……ただし、これには貴方の許可が必要です。この子を助けるには、貴方に施したのと同じ術を使うしかありません」
私はあえて厳しい声で、その代償を突きつける。
「それを使えば、この子は二度と、普通の魔猿としては生きていけません……。姿も、本質も変わってしまう。それでも、助けたいですか?」
迷っている時間は一秒もなかった。
ラウは腕の中の我が子を一瞬だけ見やり、すぐさま私の目を射抜くように見つめ返した。
「オネガイ! オレノコ……オネガイ!」
その力強い叫びに、私の覚悟も決まった。
私は周囲のマップを検索し、この付近で最も魔力濃度の高い魔晶石の脈動を突き止めた。
そこへ駆け寄ると、迷うことなく自らの手首を切り、溢れ出す血で地面に複雑な魔法陣を書き殴っていく。
「ラウ、子供を魔法陣の中央に!」
指示に従い、ラウが震える手で我が子を安置する。
私は、かつて自らに、そしてラウに施した時と同じように、己の片腕を躊躇なく切り落とした。
「ユエ! ナニスル! 血、血ガ!」
鮮血を撒き散らす私の痛々しい姿に、ラウが悲鳴を上げる。
無理もない。彼は自分がどうやって救われたのか、その真実を知らないのだから。
私は切り落とした己の腕を、子供の欠損した部位へと添え、ラウに静かに微笑みかけた。
「心配いりません。……見ていてください」
瞬く間に切り口から肉が盛り上がり、腕が再生していく様を見て、ラウは声も出ない様子で目を見開いている。
完全に修復が完了したタイミングを見計らい、私は歌うような節回しで、命を紡ぐための術式を解き放った。
激しい魔力の光が溢れ出し、魔法陣が唸りを上げる。
その傍らで、ラウはただ一心に、祈るように我が子を見つめ続けていた。
今日は、これで、終了です。つづきは、明日書きます。おやすみなさい。




