第十四話 昨日の夕刻からなにも食べていない。異世界食材で、いざクッキング
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セドリックの執事姿を十分に堪能し、眼福にあずかっていた私でしたが、ふと窓の外を見て我に返りました。
日は傾き、太陽が地平線の彼方へ沈もうとしています。
「おっと、いけない……もうこんな時間ですか」
呟くと同時に、私のお腹が情けなく「グ~ッ」と鳴ってしまいました。
昨日の死闘から何も食べていない。それはセドリックも同じはずです。
繭の様子を確認しましたが、まだ羽化の気配はありません。
「よし、今のうちに食事の準備を済ませてしまいましょう」
セドリックにかまどの火起こしと食器の捜索を命じ、その間に即興の献立を組み立てることにしました。
手早く、かつ満足度の高いメニュー――今夜は「異世界シチュー」に決定です。
まずはセドリックが採ってきた山菜の選別。
見た目は黄色いゼンマイ、味はブロッコリーに近い『ブロールー』。
人参の味がする紫色の実、『キャロスター』。
そして、青いカブのような見た目ながら食感と味はジャガイモそのものの根菜と、ツタに実るタマネギ味の実。
(エルフの植物知識と地球の料理法……これにミルキーツリーを加えれば、完璧なルーが作れるはず!)
次にメインのお肉を確認し、私は思わず目を見開きました。
ウサギ型の魔獣の隣に、見た目はオウムとニワトリを混ぜたようで、色彩豊かな球体のように丸い鳥が横たわっていたからです。
帝国時代でも「幻の珍味」と呼ばれていた魔鳥『クワックチキン』。
肉質は霜降り牛、味は極上の豚肉。
しかし時速100キロ超で転がり、大砲並みの威力で体当たりをかましてくる危険生物。
(セドリック……よくこれを無傷で捕まえられましたね。やはり、漆黒と薄紫の美しい毛並みの下に隠された身体能力は伊達ではありません)
感心しつつ、調理開始です。
まずは野菜を均等に切りそろえて鍋で煮込み、次に肉の下処理。
私は大きめの肉がゴロゴロ入っているのが好みなので、大胆にカットしてセドリックに炒め役を任せました。
その間に、調味料の生成に取り掛かります。
ミルキーツリーの果肉を魔法で一気に乾燥させ、微細な振動で粉砕して小麦粉の代替品を作成。
次に、オレンジ色の熟した実(生クリームタイプ)に穴を開け、刻んだソルトハーブを投入します。
氷魔法で冷やしながら超高速で撹拌すれば、即席バターの完成です。
鍋にバターを溶かし、粉末を炒め、そこに未成熟の白い実を注ぎ入れました。とろみが付いてきたところで指示を出します。
「セドリック、お肉を投入してください!」
炒めた肉と特製ルーが合わさり、拠点内にお世辞抜きで暴力的なまでに美味しそうな香りが立ち込めました。味見をすると、ソルトハーブの塩気がミルクの甘みを引き立て、文句なしのホワイトシチューになっています。
「完成です! さあ、食べましょ……」
ふと隣を見ると、燕尾服を見事に着こなしたセドリックが、口角から一筋のよだれを垂らして鍋を凝視していました。漆黒の猫耳が心なしかピクピクと動き、期待に満ち溢れています。
「ふふ、お腹空きましたよね。待たせてごめんね……」
そう声をかけようとした、その時でした。
部屋の隅で赤紫に明滅していた繭が、パキッ……と、ひときわ大きく震動し、ついに羽化の産声を上げたのです。
やっとご飯が食べれると思ったのに・・・まだまだお預けです。




