第十一話 セドリック視点 この世に生命を授かった瞬間
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この世に生を享けたその瞬間、私の視界に映ったのは、白銀の髪をなびかせた美しくも異形の主だった。
私の魔核には、抗いようのない絶対の法が刻まれている。
目の前の存在こそが私を創造した主であり、その命こそが私の世界のすべてであると。
だが、生まれたばかりの私を見る主の瞳は、射抜くような冷たさと忌まわしさに満ちていた。
後に主から聞いた話で、それは仕方のないことだった。
私という存在の「素材」となった魔獣は、主にとってかけがえのない友の命を奪おうとした不倶戴天の敵だったのだから。
たとえ私にその記憶がなくとも、主の怒りを受け入れるのは私の宿命だ。
魔核に刻まれた戒めは、どんな扱いを受けようとも主に従えと命じている。
その後、主は繭と自身の守護を命じ、深い眠りに落ちた。私はただ、石像のように佇み、闇の中で主の安らぎを守り続けた。
翌朝、主は目を覚まし、私たちは繭を連れて安全な拠点へと移動した。
到着した拠点の、埃を被ったボロボロの椅子。
主はそれを軽く叩いて腰を下ろすと、脈動する繭を見つめながら何かを深く思考し、時折、私に視線を向けた。
その眼差しが、ふと和らいだ。
「今日から、私の名は月」
鈴を転がすような声が響く。そして、私に向き直ると、新たな福音を授けてくださった。
「そして、貴方にも名前を。……そうですね、セドリック。守護と忠誠を意味するその名が、今の貴方には相応しい」
その瞬間、私の中で何かが決定的に変化した。
霧がかかっていた意識が鮮明に晴れ渡り、ただの「魔法生物」だったはずの魔核に、確かな自我の灯火が宿ったのだ。
私は初めて、自分という個体を、この世界に存在する「セドリック」という生命として認識した。
ユエ様が再び休息に入られた間、私は命じられた通り、周辺の警戒と食料の調達に奔走した。
帝国の街が森へと還ったその場所には、未知の生命が溢れていた。
私は、鋭い鉤爪を器用に動かして蔦を編み、即席の背負いカゴを作り上げる。
どれが食べられるかという知識はなかったが、本能に従い、瑞々《みずみず》しい果実や山菜を詰め込んでいった。
すると、背後の茂みから何か飛び出してきた。
それは兎のような魔物だった。それを一撃で仕留め、草の紐で腰に括り付ける。
さらに森の奥に進むと飛ぶことを忘れた球体のような鮮やかな色をした鳥たちがいたので、音もなく忍び寄り狩り取った。
その後、崖の付近に辿り着いた時、奇妙な植物を見つけた。
白く細長い葉。根元は球体状に膨らみ、そこには雪のような白い結晶がこびりついている。
周囲の岩壁にも、同じような白い層が帯状に広がっていた。
なぜかそれが気にかかり、私は数本を抜いて持ち帰ることにした。
拠点に戻ると、ユエ様は石のテーブルに突っ伏し、何やら呪文のように「しお……」と呟きながらうなだれていた。
私は恐るおそる、机の上に成果を並べた。
次の瞬間、ユエ様の目の色が変わった。
「――ッ!」
椅子を蹴るような勢いで立ち上がったユエ様は、私の両肩をガシリと掴んだ。
その力は、細身の体からは想像もできないほど凄まじい。
(……失敗したのか? 毒草でも混じっていたのか?)
ユエ様の激しい剣幕に、私は死を覚悟した。
主の逆鱗に触れたのだと、戦慄が背筋を走る。
だが、ユエ様が口にしたのは、心からの歓喜と称賛の言葉だった。
「素晴らしい、貴方は天才ですか!?」
怒りではなかった。
そのことに安堵したのも束の間、目の前で膝をつき、拳を天に突き上げながら「神は私を見捨てていなかった」と絶叫する主の姿に、私は言葉を失った。
帝国の英知を継ぎ、異世界の理を操る気高き主。
そんなお方が、たった数本の草を抱えて狂喜乱舞している。
(……このお方は、もしかすると……少し、変わっておられるのかもしれない)
私は、主のあまりの奇行に、自我を芽生えさせて初めて「引く」という感情を覚えたのだった。
今気づいたけど・・・セドリック・・君・・・。服着てないよね!(安心して下さい。ケモミミの人型ではないのでもふもふな獣人タイプです。なので、服着てなくても大丈夫なはず。)
可哀想なのであとで、服を製作するシーン追加で、考えます。orz




