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異世界召喚された俺、エルフの賢者と融合して究極のキメラになる〜禁忌魔術で、滅びた帝国を勝手に復興させてもらいます〜  作者: 神蛇紫苑


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第十話 「私の名は『月‐ユエ‐』、塩は命」【後編】

ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。


小一時間ほど、休憩をとったあと、セドリックに周辺の食料調達を任せ私は、まゆが羽化するまでの時間アイテムボックスの中身を確認することにした。


今の私にとって貴重な「整理」の時間。


「さて……私の『財産目録』を改めて確認しておきましょうか」


意識を内側へ向け、「アイテムボックス」の深淵しんえんにアクセスした。


そこは時間が凍結された、私だけの宝物庫。


まずは魔法薬のストック。


エルフ時代の私が仕事で使い古していた、様々な試験薬と回復薬や魔力増幅薬が整然と並んでいる。


「ふむ……無駄遣いをしなければ、1年はちそうですね」


当時の私は、研究室と現場を往復する多忙な身。


必要な道具や資料はすべて持ち歩く主義だった。


いや、主義というよりは、単なる「極度の面倒くさがり」だった。


自宅の本棚に手を伸ばす数歩すら惜しんで、手当たり次第にアイテムボックスへ放り込む。


その結果、中身はもはや移動図書館か、国立研究所の倉庫といった様相ようそうていしていた。


「昔の自分のせっかちさに、これほど感謝する日が来るとは思いませんでした」


苦笑しながらリストをなぞる。


当時の最先端技術を記した研究レポート、禁忌きんきの魔導書、果ては他愛もない雑学本まで。


それらは、数百年が経過したこの荒廃した世界において、何物にも代えがたい「知の武器」となるはず。


次に道具の確認を始めると、私の金色の猫瞳が歓喜に揺れた。


「おや……これは。魔道具開発用の一式が揃っているではありませんか!」


精密な刻印ペン、属性抽出器、微細加工用の魔法炉。


ボロボロのテーブルの上にそれらを並べると、エルフ時代の「ルナ」としての職人魂が、静かに、だが熱く再燃するのを感じる。


「これだけの設備があれば、ここにない道具も、この廃墟はいきょの素材から新たに作り出せそうですね……」


私は満足げにほくそ笑んだ。


しかし、期待に胸を膨らませてさらに「生活用品」のカテゴリーを掘り起こした瞬間、私は深いため息と共にうなだれる……。


「……期待はしていませんでしたが……、見事に仕事一色ですね。調味料の『ち』の字もありません」


アイテムボックスは時間が止まる空間。


もし、あの頃に塩や砂糖の一袋でも放り込んでいれば、当時の鮮度のまま取り出せたはずだ。


だが、中から出てくるのは、徹夜明けに備えて放り込んでいた予備の服数着と、仮眠用の布団数組、そして身だしなみを整えるための化粧品や洗面道具一式。


「お風呂セットがあるのは、文化的な生活を送る上で最高に嬉しいのですが……」


私は力なくテーブルに突っ伏した。


石造りの冷たい感触が頬に伝わってくる。


「ああ、塩……せめて岩塩の一欠片ひとかけらでもあれば……」


豪華な魔導具や貴重な古文書よりも、今は一握りの調味料が恋しい。


私は全知全能に近い「キメラ」の体と、帝国の英知を抱えながら、切実な食生活の現実に、ただただ打ちひしがれるのだった。


アイテムボックスの整理を終え、私が「塩……」とうわ言のようにつぶきながら机に突伏つくふしていた、その時です。


バサリ、と重みのある音がして、セドリックが帰還した。


その手には、鋭い鉤爪かぎづめを持つ獣の指で器用に編み上げたのであろう、草製の背負いカゴが握られています。


中には色とりどりの山菜や果実、木の実があふれんばかりに詰め込まれていました。


さらに彼の腰には、獲物である数羽の鳥と、うさぎに似た小型の魔獣がぶら下がっています。


「ユエ様、これだけで足りますでしょうか。他に御入り用のものがあれば、すぐにでも」


セドリックがテーブルにそれらを並べ、淡々と問いかけてきます。


私はうつろな目でその食料の山を眺めていましたが、山菜の束の中にまぎれ込んだ「ある植物」を目にした瞬間、全身に電流が走りました。


「……セドリック。これ、どこで採ってきましたか?」


私は震える手で、その細長い葉を持つ草を拾い上げました。


セドリックは私の尋常じんじょうではない様子に、「毒草でも混じっていたのか」と一瞬身構え、困惑しながらも答えます。


「……東の方角、がけの付近です。岸壁がんぺきの影に群生しておりました。もしや、口にしてはならないものでしたか?」


「逆です! よくやりました、セドリック!」


私は椅子の蹴飛けとばさんばかりの勢いで立ち上がると、彼のたくましい両肩をガシッとつかんで揺さぶりました。


「これは私が今、何よりも欲していたものです! 素晴らしい、貴方は天才ですか!?」


興奮のあまり至近距離でまくし立てる私に、セドリックは面食めんくらったようでしたが、怒りではないと知り、ホッと胸をで下ろしたようです。


彼が採ってきたのは、「ソルトハーブ」。


これまたミルキーツリーに負けず劣らず安直あんちょくな名前ですが、その名の通り、根に塩分を蓄える性質を持つ万能植物です。


乾燥させて粉にするだけで、純度の高い塩の代わりになる……まさに砂漠のオアシスならぬ、廃墟はいきょの調味料。


さらに言えば、この植物が群生しているということは、近くに海があるか、あるいは塩湖、もしくは良質な岩塩が採れる地層が眠っている証拠なのだ。


「ああ……神は私を見捨てていなかった……! 」


私はあまりの喜びに、その場に両膝を突き、天をあおいで力いっぱいのガッツポーズを決めた。


視界の端で、セドリックが「主様が壊れた……」と言わんばかりに少し引いているのが見えましたが、今の私にはそんな些細ささいなことはどうでもいい。


「塩。塩がある。それだけで、私はこの世界で生きていける……!」


白銀の髪を振り乱し、ソルトハーブを宝物のように抱える私の姿は、帝国の英知を継ぐ者というよりは、ただの「食い意地の張ったオタク」そのものでした。


ですが、QOL(生活の質)の向上こそが、今の私にとって最大の魔導研究なのだ。



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