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少女は王都へ行く



突然ですが、わたし、王都へ向かっています!



シンデレラ様の告別式に参加するため、パンの定期便を終えた翌日に村を出発した。村長さんはわたしをいたくかわいがってくれて、別れ際、子ども用のエプロンをプレゼントしてくれた。またいつでもおいで、と見送る表情はとてもやさしく、ちょっと泣きそうになっちゃった。

隣の村で商人の荷車に同行させてもらい、ひたすら南下していくこと三日。荷車のゴール地点である町で下車し、そこから約半日かけて歩いていくと、ついに王都が見えてきた。


ひときわ立派な外構が、道を塞ぐように建つ。

検問所らしき門で、騎士の制服を着た門番の厳しいチェックをクリアすると、ようやく中へ入ることができる。



「ルリ、長旅お疲れ様。ここが王都だよ」


「うわあ! これが、王都……!」



念願の王都、初上陸!


石畳の道には当たり前のように馬車が走り、レンガ造りの建物が連なる街並みには裕福そうな恰好の人々が行き交っている。

今まで暮らしてきた村とはまるでちがう。ふたつみっつ先の時代までタイムスリップしてしまったかのようだ。

すれちがう人もみんな楽しそう――



「はあ……つらい……」


「明日か……シンデレラ様の告別式……」


「参列できるのはうれしいけど……」


「うぅ……おわかれしたくないよぉ……っ」



――じゃない! 誰も笑ってない!


告別式を明日に控え、喪に服す王都はどんよりと哀愁に満ちている。

よく見ると暗いのは顔色だけでなく、服装も黒や白、灰色など控えめな色味を身につけていた。

王都の華やかさにはそぐわない、ひどく慎ましやかな生活。毎分あちこちから幸せの逃げる音が聞こえ、空にひとつまたひとつと雲がかかっていく。

検問が厳しかったのも、告別式の影響だったのだろう。



「いつもはもっとにぎわってるんだけどねぇ……」



どうしよう! ガルさんの元気も吸い取られてる! 最近空元気じゃなくなってきたばかりなのに!



「が、ガルさん! ガルさんのパン屋さんはどちらなんですか!?」



早く教えて、とわたしがせがむと、ガルさんは困ったように薄ら笑う。呆れ半分に返事をしながら、曇り空の下を進んでいった。


王都の中心部から外れた下町の一角。市場で混みあった道を抜けた通りに、幅の狭い二階建ての建物があった。

食パンの形をした看板がぶら下げられている。そこには短い文が掘られてあった。ガルさんとの勉強会で習った国語を思い出しながら読んでみる。



「ガ……ガ……ブ、リ……?」


「正解! あれがあたしの店『ガブリ』だ!」



パン屋、ガブリ。

キャッチーな名前のお店は、絵本から飛び出してきたようなかわいらしい雰囲気があった。

カスタードクリームを塗ったような壁に、こんがり焼き色のついた煙突付きの屋根。大きな四角い窓からは、奥行きのありそうな薄暗い室内が見える。

閉店中の札をかけられた扉が開かれると、あのおいしそうな匂いが香った。



「どうだい? うちの店に来た感想は」



ガルさんは部屋の明かりをつけ、自慢げにお店を見せびらかした。

普段はパンが並んでいるであろう店内は、わたしのよく知る町のパン屋さんそのもので、はじめて来たとは思えないほど居心地がいい。実家のような安心感とはまさにこのこと。



「もう好きになっちゃいました!」


「ガハハッ! 気に入ってくれてよかった!」


「お店はいつごろ営業再開するんですか?」



ガルさんは荷物を置き、旅の疲れのたまった体をぐっと伸ばし、うなり声を上げながら悩む素振りを見せた。



「うーん、そうだねえ……明後日あたりかな」


「明後日……。告別式が終わったら、ですか」



今日と明日、たった二日間で心身を休められるだろうか。ただでさえ明日は告別式があり、安らぎとはほど遠い時間を過ごすことになる。

わたしの勉強会のために予定より長く店を空けていたことは重々承知だけれど、もう少し休んでもいいんじゃないかと思ってしまう自分がいる。これは甘えだろうか。

でも何をするにしても体が資本だし、働くならなおさら健康をおろそかにしてはいけない。『ガブリ』のパンはガルさんにしか作れないのだから。



「ガルさん、わたしは……」


「大丈夫だよ」



みなまで言うなと、ガルさんはわたしの頭を掻き撫でた。



「あのな、ルリ。うちは王家御用達なんだ。エラ――シンデレラ様が好きだったパンを、買いに来たい人はいっぱいいる。みんなの気持ちにできるだけ応えてやりたいんだよ」



ガルさんの決意は固い。

そういうところもガルさんらしいなと思う。


誰よりも気持ちを理解できるからこそ、できることがある。

自分のことよりも他人のために、がんばろうとしている。

相変わらずやさしくて、かっこいい。

自慢の家族。



「ルリも手伝ってくれるかい?」


「うん、もちろん! わたしもがんばる!」



ガルさんがそう言うなら仕方ない。止めないよ。わたしもついていく。

ガルさんの支えになることが、わたしの役目。わたしが今、すべきこと。そう信じて。



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