少女も終わり、始まる
高校三年、冬。
ついにこの日がやってきた。
今日は大事な日。なんたって大学入学共通テスト本番だ。
寝る間も惜しんで勉強してきた。たまに、本当にごくたまに、欲に負け、休憩時間と称して大好きな少女漫画を読んでしまったときもあったけれど。なんとか今日この日までがんばってこれた。
苦手な数学も古典も、というか勉強自体苦手だ。それでも机に向かって解いてきた。中指にできたペンだこや目の下のクマがその証拠。過去問を何周したか、もうわからない。
あぁ、神様、お願いします。
どうか今までの努力が実を結びますように。
そう心の中で祈り、浅い眠りについたのが、昨夜の話。
今朝起きてみたら、なんとびっくり、天気が荒れに荒れているではないか。この先の人生を左右する分岐点のひとつとも言える、大事な受験日に限って、近年稀にみる大雪。まじでどうなってる?
辺り一面、銀世界。そう例えたら趣深く聞こえるかもしれないが、右を見ても左を見ても、白、白、白。暴力的なほどに真っ白だ。方向感覚が狂ってしまう。
地面に雪が高く積もり、公共交通機関は大パニック。徒歩にしても、雪が固まり滑りやすい。
ねぇ、神様、まじ? 本気と書いてまじ?
今日は「滑る」とか使っちゃいけない日だって知ってる? 知ってるよね? なのにこんなことしちゃうの? ひどくない!?
昨日うまく寝つけなかったこともあってかどうしようもなく腹立たしい。
防寒対策をばっちりしてきても、風邪を引いているような寒気がする。
まず試験会場にちゃんと着けるか心配だ。
不安を煽るように雪は降り続ける。目も開けられない。
ものすごいストレス。イライラしても仕方がないのはわかってる。わかっているけれど、頭で理解するのと心が落ち着くのはまったくの別問題だ。
おい、雪! 私が今日のためにどれだけ努力してきたと思ってんだ! 緊張でどうにかなっちゃいそうなのにストレスかけんな! 受験にも滑ったらどう責任取ってくれるんだああああ!!
雪に八つ当たりするアホは、わたしくらいだろう。口に出さないだけ我慢したほうだ。いっそどこかに吐き出してしまえたら楽になったのだろうか。
ため息をつきながら一歩踏み出した、そのときだった。
――キキィー!!
突然、耳をつんざいたのは、甲高い音。
不吉な予感がよぎった。受験に関してではない。それだったらまだよかった。よくはないが……よかったと思ってしまったのだ。
荒れ狂う吹雪をかき分けて、一台の車が迫ってきていた。
ハンドルが言うことを聞かず、ブレーキを踏んでもなお、暴れ馬のようにあらぬ方向へ突っこんでいく。
歩道にいる、わたしのほうへ。
悲しくもわたしの予感は当たってしまった。
公式と単語を詰めに詰めこんだ脳内が、冬景色みたく真っ白になる。
クラクションの音。タイヤが擦れる音。誰かの悲鳴。どの音もわたしに向いていた。
喉に痛みが走る。そこでようやく自分が叫んでいることに気づいた。
バクバク、バクバク、心拍数が上がっていく。血がめぐる。身体が震える。熱いのか、寒いのか、もはやわからない。
あ、やばい、これ。わたし……終わった。
車が目の前まで来ている。
逃げなきゃ。でも足が竦んで動かない。動かせない。避けられない。
まるでこれが運命だと決まっているかのように。
――ドンッ!!
全身に強烈な衝撃が襲った。
白かった世界が一瞬にして赤く染まる。
痛い。寒さや苛立ちなんかどうでもよくなるくらい、痛い。
あんなにもうるさく跳ねていた心臓の動きが、だんだんと鈍くなっていく。
視界が不透明にぼやけていく。雪のせいだけではないのだろう。形容しがたい恐怖を感じた。
待って。
誰か。誰か、助けて。
手を伸ばすことも、声を出すことすらままならず、意識が遠のいていく。
わたし、このまま死んじゃうのかな。
いやだな……。
心残りは山ほどある。
受験勉強をしてきた努力が水の泡。家族や友だちにはもう会えないし、卒業旅行もキャンパスライフも叶わない。見たい漫画やアニメもたまっている。
あの少女漫画の続きも読めていないのに!
『白銀姫~プラチナプリンセス~』
大好きな漫画家の待望の新連載。
楽しみすぎて、第一話だけ待てずに読んでしまった。
『シンデレラ伝説』とやらがキーとなるラブロマンスものだった。受験が終わったら、すぐに続きを堪能すると決めていた。
アイラというヒロインがこれから誰とどんな恋愛をしていくのか、見届けていくのが今後の生きがいになる……はずだったのに。
こんな最期ってある?
わたしけっこういい子にしてきたつもりだよ? それでこの仕打ち? なんで?
昨夜あれだけ祈ったにもかかわらず、微塵も神様には届かなかったらしい。
神様なんてクソくらえ。




