6.父の病状
コーデリアはエルパーカー領へ向かう馬車の中でひとしきり泣いた後、ライアン王子の事は忘れる事にした。今まで恋の熱に浮かされていたが、徐々に本来の自分を取り戻していった。そして父の病気が心配だった。
屋敷に着くと護衛達が荷物を運び、侍女も荷物の引き継ぎをしていた。コーデリアは馬車がもう一台止まったのに気付いた。近づくとモルガナと男性が立っているのが見えた。
男性は背が高く、肩近くまで伸びた濃い茶色の髪を耳にかけ、眼鏡をかけている。誰だろうと見ていると、背をこちらに向けて立つモルガナが微かに震えている事に気付いた。
コーデリアは足早に近づき、二人の間に入った。そして守るようにモルガナの前へ立った。
「どちら様でしょうか?私はコーデリア・エルパーカー。貴方は?」
「はじめまして、私はドミニク・ネルソン。モルガナの兄です。妹を馬車でここまで連れて来ました。」
ドミニクはカチッとした軍服のような服を着て、コーデリアに丁寧に挨拶を返した。
「モルガナ嬢のお兄様でしたか、失礼致しました。」
コーデリアは二人に改めて挨拶をし、先程の震えは見間違いだったかと考えた。
「コーデリア嬢、聞いた話とは随分と違いますね。これだけ素敵な女性なら王都でも目立つでしょう。噂になっても仕方ないですね。」
コーデリアはスラックス姿でモルガナの前に凛々しく立っていた。その様子を見て感心したように頷いた。
「ドレスが派手だとか、噂されていた様ですね。私は気に入って着ていたのですが、似合わなかったのでしよう。」
まだ思い出すと胸が痛む。ふと、顔色が悪く静かなモルガナに気付いた。
「モルガナ嬢、気分でも悪いですか?部屋を用意しますので、ゆっくり休んで下さい。」
コーデリアはモルガナを気遣い、戻ってきた侍女エリーに指示をして部屋へ案内させた。
「…ありがとうございます。」
モルガナは侍女エリーについて行った。その様子をドミニクは冷ややかな目で見ていた。
「エルパーカー伯爵にはお見舞い申し上げます。私は今日はこれで帰ります。伯爵とサイラス子爵には後日改めて挨拶しますとお伝え下さい。」
ドミニクがコーデリアとの距離を詰め、顔を覗き込んだ。コーデリアは眼鏡が似合う整った顔をしているなと、見つめてしまった。
「またお会いしましょう。次は是非二人で。」
ドミニクは微笑み、コーデリアの返事を待たずに、馬車に乗った。
「ドミニク子爵は女たらしだわ。きっと。」
コーデリアは男にはもう騙されまいと、屋敷へ向かった。
*****
屋敷では兄サイラスが父の病状を説明してくれた。父は顔色が悪く眠っていた。
「最近、疲れがとれないと言っていたから心配していたんだが、突然倒れたんだ。その時に血を吐いている。医者は疲労ではないかと言っていた。安静が一番だそうだ。」
「そう。ただの疲労だと良いけど。そういえば、ドミニク子爵にお会いしたわ。モルガナ嬢を送ってきたの。また日を改めて挨拶にくると言っていたわ。」
「そうか。実はドミニク子爵が今回の医者を紹介してくれたんだ。手配が早くて助かったよ。」
「そうだったのね。お礼を言わないと。あ、モルガナ嬢、体調が悪い様だったので休んでもらってるわ。兄様、行ってあげて。」
「え、そうなのかい。分かった。」
コーデリアは兄が慌てて部屋を出る様子を微笑ましく思った。
*****
その後、エルパーカー伯爵は回復せずに1週間が過ぎた。眠っている事が多く、段々と痩せてきて皆はとても心配した。しかし、医師は様子を見ましょうとのことだった。
そんな時、コーデリアにミスト・クラーク侯爵令嬢からお茶会のお誘いが来た。お断りしようかと思ったが、クラーク侯爵家は代々王宮医師長を担っており、父の病気について相談してみようかと考えて兄に相談した。
コーデリアは再び王都へ行く事となった。




