2.王妃のお茶会
王宮で王妃主催のお茶会が開かれた。広い庭園にはテーブルが置かれ、着飾った令嬢達が華やかに集まった。
コーデリアは胸元に大きなリボン、左右にもリボンの付いたドレスを着て颯爽と現れた。高身長な為、席に着くまでどうしても目立つ事となった。令嬢達が扇で口を隠し、ヒソヒソと話す。
(あのドレスを見て頂戴。リボンが派手ね。私の母の時代に流行ったと聞いたわ。)
(背が高いのに随分と可愛らしいドレスね。)
(ふふ。何処の田舎者かしら?)
コーデリアは自分が注目されている事に気づいたが、高身長のせいだと思った。しかし、ヒソヒソと自分を見ながら囁かれるのはいい気がしない。モルガナを見つけて声をかけたが聞こえなかったようでサッサと行ってしまった。今日は席が自由のお茶会なので、席が余るまで様子をみている事にした。
「こんにちは。もしかして王妃様のお茶会は初めてなのかしら?」
声をかけられ振り返ると、ゆるくウェーブした金色の髪が腰まである美しい令嬢がいた。水色を基調としたドレスには花々のレースが施され、コーデリアが見ても分かる、とても洗練された美しさだった。
「はい。お茶会自体が初めてで、要領を得ません。私はコーデリア・エルパーカーと申します。」
ドキドキしながら答える。
「やっぱり初めましてね。私はミスト・クラークと申します。初めましての方にはなるべく声をかけているの。よろしかったら一緒のテーブルに座りませんか?」
クラーク家と言えば、三代侯爵のひとつだ。コーデリアは言われるがまま席についた。
お茶会が始まり、コーデリアはミストと楽しく話をした。そのうちお茶会は進み、王妃様へ挨拶の順番が回ってきた。
「この度はお招きいただきありがとうございます。コーデリア・エルパーカーと申します。」
「コーデリア嬢、お会いできて嬉しいわ。貴方、エルパーカー夫人と似て高身長なのね。あの方も颯爽として素敵な方だったわ。ドレスのリボンも流行ってたわね。懐かしい。」
「母をご存知なのですね。私が幼い頃に亡くなりましたので、母の様子が聞けるなんてとても嬉しいです。」
「彼女はこんなに素敵な娘を残したのね。誇らしい事でしょう。今日は楽しんで頂戴。」
王妃は優しく微笑んだ。
コーデリアが礼をして立ち去ろうとすると、王妃の後ろから人影が現れた。金色の髪にブルーの瞳、見た事のない美しい顔立ち、気品のある立ち姿に息を呑んだ。ライアン王子だった。周囲から小さな悲鳴が上がる。
「母上、こちらのお嬢さんをお借りしても宜しいですか?」
「いいでしょう。コーデリア嬢、婚約者がいないのならば、息子のライアンに少し付き合ってあげて頂戴。」
「はい…?」
コーデリアの返事にライアンはニコリと笑み、手を差し出しエスコートした。周囲からは何事かとザワめきが起こる。王妃のテーブル近くに座っていたモルガナは怪訝な顔をしていた。
ライアン王子の噂は田舎のコーデリアにも伝わってきていた。20歳になる美しい第二王子は婚約者を探していて、何人かの令嬢とお付き合いはしたがまだ見つけられていないとの事だった。
ライアン王子はコーデリアをお茶会から離れた所にある東屋へ案内した。美しい装飾の施された屋根付きの素敵な場所だった。侍従が紅茶とお菓子を用意してくれた。いつの間にか東屋の外に侍女エリーも待機していた。
「突然すみません。貴方と静かな場所でお話しをしたかったものですから。」
ライアン王子の優雅な話し方、微笑みが眩しい。
「いえ、あの。私、コーデリア・エルパーカーと申します。…何か、私に御用ですか…?」
緊張で声が裏返りそうだ。
「本当に話してみたいなと思っただけなんです。驚かせてすみません。素敵なドレスですね、どちらで仕立てたのですか?」
「あっ、こ、これは母の形見のドレスです。…この度のお茶会に出席するのにドレスを悩んでいたところ、こちらが良いのではとすすめられまして…」
「リボンがよくお似合いです。とても可愛いらしい。」
ライアン王子が美しく微笑んだ。
「は?」
思いがけない言葉に硬直した。
「あ、…あり…がとうございます。」
可愛いと最後に褒められたのはいつだったか。コーデリアは顔が赤くなり緊張は最高潮に達した。その後、何をどう話したか覚えていない程だった。
*****
コーデリアはいつの間にか侍女エリーに連れられ別邸に帰ってきていた。ドレスを脱ぎ、部屋着に着替えてソファに倒れ込んだ。
「…信じられない。ライアン殿下と二人でお話したなんて…。」
侍女のエリーが興奮気味に話す。
「とても素敵な方でしたね。次は王宮の温室に誘われるなんて凄いです!様々な国の花が咲いていると有名ですよ。」
「そうよね。本当に誘われたのよね。心臓がもたないわ。…息苦しくて声が出しづらいの。どうしよう。」
「コーデリア様、恋でございますね。」
「恋?!これが…そうなのかしら?」
ライアン王子を思い出し顔が赤くなった。言葉がもつれて、胸がキュと苦しくなる。こんな事は初めてだ。コーデリアは恋を実感せざるを得なかった。




