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二度目の人生、愛されない私は静かに消えたいのに  作者: もも子


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9/11

王太子の断罪と、奪還される宝物

「……セレスティア、ここで待っていなさい」


アルフレッド殿下は、私の額に愛おしそうに口づけを落とした。

その瞳には一瞬だけ甘い温度が宿るが、私から視線を外した途端、冷酷な王太子の顔へと戻る。


「私のために……危ない真似はなさらないでくださいませ」


服の袖をキュッと掴む私に、殿下は愛おしさに耐かねたように目元を緩め、私の手を優しく包み込んだ。


「心配いらない。……あんな奴ら、俺の手を汚す価値すらないのだから」



その夜、月明かりすら届かない伯爵邸の裏門。


ジュリアンは苛立たしげに懐中時計を見つめ、暗闇の先を睨みつけていた。


「ちっ……あの女、遅いぞ。母親の遺品に釣られて必死に走ってくるかと思ったが」


「まあまあ、ジュリアン様。城を抜け出すのに苦労しているのでしょう」


寄り添うミレーヌがくすくすと嘲笑う。

その背後には、闇に紛れて刃を忍ばせた数人の暗殺者たちが潜んでいた。


「来さえすれば、(ひと)突きだ。王太子に裏切られた失意の末、男と駆け落ちしようとして殺された……完璧なシナリオだ」


ジュリアンが歪んだ笑みを浮かべた——その瞬間。


バサバサバサッ!!


「なっ……!?」


頭上から降り注いだのは、暗闇を裂くような殺気と、静寂を破る甲高い金属音だった。

潜ませていた暗殺者たちが、悲鳴をあげる暇もなく次々と崩れ落ちていく。


「な、なんだ!? 誰だ……っ!」


「——我が国の法を犯し、王家の客人に刃を向けようとは。ずいぶんと威勢が良いな、ノルディック公爵家次男」


暗闇の中から静かに歩み出たのは、漆黒のマントを翻すアルフレッド殿下だった。

その背後には、重装備を固めた王家直属の近衛騎士団が整然と立ち並んでいる。


「で、殿下……!? なぜ、ここに……っ!」


腰を抜かしたジュリアンは、後ずさりしながら声を出した。

ミレーヌも顔を蒼白にし、震える手でジュリアンの服を掴む。


「セレスティアは来ないぞ、ジュリアン。……お前たちの浅はかな罠など、すべてお見通しだ」


「ち、違います殿下! これは……あの女が俺を呼び出したのです! 駆け落ちしようと……!」


「黙れ!!」


地響きのような殿下の怒声が、夜の静寂を切り裂いた。

冷酷な瞳が、まるで虫ケラでも見るかのように二人を見下ろす。


「お前たちが前世で……いや、これまでセレスティアに重ねてきた悪行の数々。彼女の実母の遺産横領、公爵家資金の不正流用、そして彼女に対する暗殺未遂……すべての証拠は揃っている」


「ぜ、前世……? 何を仰って……」


意味を理解できず呆然とするジュリアンを無視し、殿下は冷ややかに手を挙げた。


「捕らえよ。伯爵邸の義母もだ。地下の捜索を開始し、亡き伯爵夫人の遺品を一つ残らず回収しろ。……一粒の埃すら、あの奴らに触れさせるな」


「はっ!」


「放せ! 放せ! 俺は公爵家の人間だぞ! セレスティア、あの女を呼べ! セレスティアあああっ!」


見苦しく叫びながら連行されていくジュリアンと、泣き叫ぶミレーヌ。

殿下は不快そうに視線を外すと、近衛兵が伯爵邸の隠し部屋から回収してきた「小さな木箱」を受け取った。


箱を開けると、そこにはセレスティアの実母が残した、幼い彼女への手紙と美しいペンダントが、大切に保管されていた。


「……守ったぞ、セレスティア」


木箱を愛おしそうに抱え直すと、アルフレッド殿下は一刻も早く愛しい彼女のもとへ戻るべく、光の射す王城へと馬を走らせた。

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