母の温もりと、永遠の誓い
城の部屋で待つ時間は、永遠のように長く感じられた。
爪を噛みそうになるのを必死でこらえ、窓の外の闇を見つめ続けていると、静かに扉が開いた。
そこに立っていたのは、どこにも傷を負っていない変わらぬ姿のアルフレッド殿下だった。
その腕には、小さな木箱が大切そうに抱えられている。
「殿下……!」
無事な姿を目にした瞬間、膝の力が抜けそうになり駆け寄る私の身体を彼がしっかりと受け止めた。
「ただいま、セレスティア。……約束通り、お前の宝物を取り戻してきたよ」
殿下は優しく私をソファーへ座らせると、小さな木箱を私の膝の上にそっと置いた。
震える手で蓋を開ける。
そこにあったのは、幼い頃に母がいつも首にかけていた、繊細な意匠の翡翠のペンダント。
そして、私宛てに綴られた懐かしい温かな筆跡の手紙だった。
『愛するセレスティアへ。あなたがこれを読んでいるということは、私はもうあなたの側にいられないのでしょう。けれど忘れないで。あなたは私の最高の宝物。どうか、あなたを心から愛してくれる人と出会い、幸せになってね』
「お母様……っ」
手紙を抱きしめ、ぽろぽろと涙が溢れ出した。
前世の私は、「誰の特別にもなれなかった」「お母様以外、私を愛してくれる人なんていなかった」と思い込んで死んでいった。
けれど違ったのだ。母は最後まで私を愛してくれていたし、そして今——。
「セレスティア」
殿下が私の前に膝をつき、溢れる涙をその温かな指先で優しく拭ってくれた。
「俺は、お前の母上のようにはなれないかもしれない。……俺の愛は重く、狂気や執着に満ちていて、お前を恐怖させることがあるかもしれない。だが……」
殿下の瞳に、切なさと、二度目の人生をかけて紡いできた真摯な情熱が宿る。
「お前が生きる世界を、今度こそ温かなもので満たしたい。俺の残りの命も、魂も、すべてお前だけに捧げる。俺の傍で……幸せになってくれないか」
「殿下……」
涙で視界が歪む。
かつて「消えたい」と願った私の心には、もう悲しい冷たさは残っていなかった。
「私……生き直したいです。殿下の深い愛に包まれて、殿下と一緒に……これからの時間を歩んでいきたいです」
そう告げた瞬間、殿下の表情が感極まったように歪んだ。
「……セレスティア……っ!」
彼は私を折れそうなほど強く引き寄せ、唇を重ねてきた。
前世の絶望も、死の寒さも、すべてを溶かし去ってしまうような、熱く、切なく、そしてどこまでも甘い口づけ。
「二度と手放さない……絶対に、お前を幸せにする」
耳元で囁かれる誓いの言葉に、私は胸を満たす愛おしさを噛み締めながら、彼の背中にそっと手をまわした。
かつて誰からも愛されないと諦めていた私は、今、世界で一番愛されて、新しい未来へと歩み始めたのだった。




