095 護衛依頼56
カンパと“探求する熊”は、猛獣がヒルんだスキに逃げ出し、草ムラの中を走って行く。そんな中、“探求する熊”が言う。
「……お前たち、“復讐するオオカミ”と“異形なるウサギ”を助けるために」
“異形なるウサギ”ってだれだよ……
カンパはもう、アキラめた顔をする。
「…………とりあえず、その、ナンとか精霊のせいでずっとつけてきたのか? 猛獣に襲われるかもしれないってのに」
カンパの言葉をまたカミしめるような沈黙の後に、“探求する熊”は語りだす。
「……その通り。ただもう1つ……伝えたいことがある」
「伝えたいこと?」
「……そう、あの4本脚の兄弟のことだ」
カンパが、
“4本脚の兄弟”とはあの筋肉ネコのことなのか?
と思っていると、“探求する熊”が続ける。
「最初に会ったとき、あの“4本脚の兄弟”の“脚のない兄弟”に対する執着は異常だと言ったと思うが……」
カンパは、
“脚のない兄弟”は……ヘビ?
と思いながら、討伐隊が盗賊たちと対峙していた時、丘の向こうに偵察に行った時のことを思い出す。
確かにそうだ。
あの時もあの筋肉ネコは、デカヘビに異常に執着していた。
“探求する熊”が話を続ける。
「……不思議に思っていた。なぜ執着するのか。……そうしたら、ようやく納得のいく答えに思いいたった……」
今度はカンパが黙っている。“探求する熊”の、話の続きを待っているのだ。
「……あの執着は……母親の子を思う気持ち……そのものではないか……」
【カンパ】
母親の……
子を思う気持ち……
それを聞いたとき、言葉にしがたい感情が、想いが、あふれてくる。
それは子が
母親を思う気持ちと
どれくらい違いがあるのだろう?
オレにはそれが、いったいどんなものなのか、検討もつかない。しかしオボロゲな、幼いころに見上げていたあの面影が……浮かんでくる。
ハカり知れない程の、優しい眼差し……
そう考えると……あの筋肉ネコも母親で……かわいい子供がいて……
?
子供はどこに?
オレに、“探求する熊”がその答えを告げる。
「……あの“4本脚の兄弟”の……母親の子は……おそらく“脚のない兄弟”の腹の中」
“腹の中にいる”とは、つまり食われたということ。確かにそう考えると、いろいろな筋肉ネコの行動が納得できる。
1つは、盗賊たちの集合場所に現れたこと。たまたまその場に現れたデカヘビを追って来たから、あんな場所に盗賊とデカヘビとデカネコが集結したんだ。
1つは、デカヘビに執着して、ずっと追いかけてきたこと。デカヘビが生きていたときはもちろんのこと、死んでからも武装した兵士がそれを取り囲んでいるにもかかわらず、アイツは何度も向かってきた。
1つは、デカヘビの腹を食い破ろうとしていたこと。同じく武装したオレたちがいるにもかかわらず、アイツは荷車の上のデカヘビの腹を食い破ろうとしていた。
……
自身の危険を問わず、
決してアキラめようとはしない
……
母親の子を思う気持ちとは……
それほどまでのモノなのか……
心の中に積み上がるモノが、声となって口から出て行く。
「なあ、“熊”じいさん」
明確な形とならないそれはそのまま、疑問という声になる。
「……オレたちが、アイツにしてやれることってなんだ?」
そんなオレの切なる疑問が投げられた時、
「……ぉお~~いぃ……カンパ~~……」
遠くの方からメンドくさいヤツの声が、このメンドくさいタイミングで聞こえてくる。
……でも、あいつが迎えに来るなんて、少し意外だ。
構わず“熊”じいさんが言う。
「“脚のない兄弟”の腹を裂いてやってはどうだ? アヤツの代わりに、な」
オレは考える。
オレが戻ってそれをお願いする余裕はあるか?
ハダリー隊長がそれを許してくれるだろうか?
そしてあの軍務卿がそれを許してくれるだろうか?
アイツの子は本当にそこにいるのか?
もしいなかったらどうなる?
はたしてそれは……
オレがしてやりたいことなのか?
そうこうしている内に、正面の草陰からサンゴ色の髪が見えてきて、
「……カンパ~……」
と、緊張感のない間延びした呼ぶ声が届いてくる。そのアイツを指して、“熊”じいさんが言う。
「……それはそうと……“異形なるウサギ”が来るな……」
オレはそう言う“熊”じいさんの言葉に、強い違和感を覚える。だってあのマヌケ顔のアイツが、“異形なるウサギ”だってよ。
「アイツが“異形なんとか”だって? そりゃ、いったいどういうことだよ」
「……“大いなる精霊”がそう言った。……言葉にするのは難しい……が、見た目と本質が異なる……」
「見た目と本質……。それってつまり、どういうことだよ」
「……それはお前が自分で知り、感じることだ。なぜならワシの見たヴィジョンが、お前の正解とは限らん……」
“熊”じいさんがそこまで言ったとき、
「カンパ!」
あの女が顔の見えるところまで来た。だからオレは、すかさずソイツに言う。
「回れ右!」
「へっ?」
「筋肉ネコ野郎が来てんだよ。いいから後ろを向け!」
「へっ?」
アイツは追いつけない、戸惑いの声を上げつつも後ろを向く。
「そしたら走れ!」
すれ違いながらオレが言うと、
「へっ?」
アイツは戸惑いつつも、走り出す。オレは、アイツがウマイ具合に言うことを聞いてくれたことにホッとしつつも、この後自分がどう動くべきなのかを考える。そんなオレに、アイツが話しかける。
「……ねぇ、カンパ。」
今は忙しい。
「空から何かが見てない?」
サマツなことには構ってはいられない。
「ゼッタイ、ナンかいると思うんだけどな」
ましてや、ワケの分からないヤツのワケの分からないことになど構ってはいられない。




