094 護衛依頼55
「オレはまだ……復讐を果たしていない!」
そう決意するカンパの前で、立ち上がった猛獣が目の前の少年を見すえる。
負けじとニラみ返すカンパの視線は、背丈のある猛獣に合わせて自然と見上げる形になる。カンパをのぞき込む黄金色の瞳は、食うか食われるかの世界で何百何千とエモノを屠って来た者のスゴみがある。
そしてその巨体からほとばしる威圧感が、カンパの全身に突き刺さる。欠けたキバの分だけ和らいだものの、気を張っていないとすぐにでも逃げ出してしまいたくなりそうだ。
猛獣は静かに、横に歩きだす。ゴチソウを前にどこから食べようか、といった感じで、攻める所を探しているようだ。
カンパも相手に対して心もとない木の盾を掲げ、足を取られないよう、慎重に足を運びながら猛獣との距離を保つ。なので両者の距離は、猛獣1.5匹分は離れている。
そして猛獣は
片脚を上げて止まった
……と、カンパが思っていると
上げた脚を素早く地面に着けて後ろ脚を引きつけ、
後ろ脚をケって跳躍、
カンパに向けて両脚のツメを伸ばしながら飛んでくる!
「そんな届くわけっ……」
……まだ距離はあったはず。
しかし筋肉ネコの巨体は“昼”の光をさえぎるほど、伸びてくる。
「ッくそっ!」
カンパはそう吐き捨てるのもおしい時間軸の中で、草ムラからより遠くの草ムラの中へと、突っ込むように横に飛ぶ。
しかし、猛獣の反応は早い。移動する目標に合わせて、ツメを伸ばしてくる。カンパは背中に爪の気配を感じながらも、それをかわしきる。
追撃は?
すぐに起き上がりながら、振り返るカンパ。目の端でとらえるは、最大限に開かれた猛獣は口――ほとんど垂直に開かれた――の肉薄!
カンパは再び飛ぼうとするが、体勢が整わない。
食わ……れる……
その時カンパの脳裏に浮かび流れるのは、
あの巨大建築物上の母親処刑の光景と……
復習を果たすべき男の顔……
そしてなぜか
『カンパ……』
悲しげな表情で呼びかけるサンゴ色の髪の少女の顔……
なんで……アイツの顔が……
【アイネ】
アイツが“デカイだけのネコ”に乗っていってしまった……。
ネコと戦っているときにボクは、ちょっと他のことが気になっていたんだけど、気づいたらアイツがネコの背中に乗って草ムラの中に消えていってしまった。
バカはほっとけばいい
……それはそうなんだけど
…………でもあいつは無茶をするから
…………やっぱりほっとけない
猛獣の背中に乗ってアイツが消えていった後に、グンムキョウが「準備をしろ! すぐに出発する!」といったのを聞いたとき、ボクはもうどうしようもなくなって、走り出していた。
ベーヤの止める声が聞こえた気がしたけど、とにかくボクは走りだしていた。
はっきり言って、あいつは勝手なやつだ
…………でも1人にはしておけない…………
だって……
だって……
アイツが1人ボッチになっちゃうから
……1人ボッチっていうのは、さびしいから
だから誰かが、アイツの近くにいてあげないと
だからボクは、走る。
しかし、アイツを乗せたデカネコは、まだ草の原っぱの先にいる。追いつくには、もう少しかかりそう。
【】
カンパに迫る、猛獣の口。それは野性的、かつ暴力的な、大きく開かれた巨大な口だ。
食わ……れる……
カンパがそう確信したとき、突然、
GROOR!(グラォウ!)
猛獣が突如うめき、横によろめいてカンパの前を過ぎ、そのまま草の上に倒れ込む。
ナニゴトかとカンパが起き上がりながら見れば、巨大な獣のカタワラに小型の獣……否、毛皮をまとった“赤い人”がいる。
しかもしばらく前に、巨大ヘビと巨大筋肉ネコたちと戦っていたあの“赤い人”だ。
その“赤い人”――カンパは彼が“探求する熊”と名乗っていたのを思い出す――、“探求する熊”が、木の棒――槍と思われる――を突き刺さしている。しかも左前脚つけ根の深手を負っていた場所に。
その彼が槍を抜きながら、カンパを見て言う。
「“復讐するオオカミ”よ! ……走れるか?」
“探求する熊”はそう言いながらカンパの方に向かってきて、
「……逃げるぞ……」
と通り過ぎながら言う。
「はっ?」
状況が理解できないながらも、カンパには他に選択肢がない。彼は“探求する熊”を追って、走り出す。
「何がどうなってんだよ!」
「おい!」
ヒッシに追いかけているカンパは、草の間を抜けながら前を走る“探求する熊”に呼びかける。しかし“探求する熊”は、そのまま走り続ける。
「おい! ……ええっと、“ナンとか熊”さんよ!」
するとようやく“探求する熊”は、走りながら一瞬だけ振り返る。そして言う。
「……そのまま話せ。あの“4本脚の兄弟”に捕まればただでは済まない」
カンパは、また疑問が増えたと腹立たしく思いながら、1番の疑問を口にする。
「アンタ何者だ? 何でここにいる?」
「ワシは“探求する熊”……」
「それは知っている! オレが聞きたいのは、つまり、その……どこの“探求する熊”さんなんだってこと」
「どこの……とな」
“探求する熊”はそう言ってから少し間をあけて続ける。
「どこの、というならばナパック族の“探求する熊”だ。ただし……部族にはもう数十年……帰っていないがな……」
ナパック族……
カンパはまた聞きたいことができたが、それはとりあえず置いといて優先することを聞くことにする。
「……それで、その“探求する熊”さんはなんで、こんなとこにいるんだ?」
「なぜいるか、と問うならば……」
そう言いながら“探求する熊”はしばしの沈黙。カンパは
この“熊”オヤジはイチイチ黙んないとしゃべれないのかよ……
と思っているうちに、“熊”オヤジが続きを語りだす。
「……“大いなる精霊”の導きによってきた……」
カンパは思う。
またワケわかんねーことが増えた
そんなカンパに、“探求する熊”が容赦なく続ける。
「……お前たち、“復讐するオオカミ”と“異形なるウサギ”を助けるために」
“異形なるウサギ”ってだれだよ……
カンパはもう、アキラめた顔をする。




