093 護衛依頼54
ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……
聞こえてくるのは、規則正しい獣の息づかい。……そして体を通して伝わってくる振動を感じながら、カンパはそれを聞きいている。そして……
カサカサ、カサカサ……
シュル、シュル、シュル……
カンパを運ぶ猛獣は、永遠と続く草々をかき分けて進んで行く。そして草々が視界の端にボヤけるままにしながら、カンパは思う。
ひょっとすると
ヒューマロイの人生って
この草々のようなモノじゃないか?
他人たちがスレ違って、どこかへ行き、あるいは死んでいく
たいした関わりもないままに
……もしそうすることがヒューマロイであるなら
……オレは
何者なのだろう……
ガチガチガチ
かみ合わせが悪いのか、バランスが悪いのか、口を開いたり閉じたりする音が聞こえてくる。
カンパは、現在の状況を確認する。今の彼はあの“ニモツ”から猛獣の背中に飛びついたままの格好でしがみついている。あるべきはずの、剣がない。暴れる猛獣にしがみつくのに必死で、いつのまにか落としてしまっていたらしい。
盾だけは、しっかりある。腕に革を通すタイプのモノで、手でしがみついていたから抜けなかったようだ。
カンパは思う。
……これ……落ちたらクワれて死ぬな……
猛獣が草ムラに逃げ込んだ時に飛び降りるべきだった、とカンパは自分のバカさ加減に今さら気づく。
ハッハッハッ
猛獣は規則正しい呼吸をしながら、草の間を進んでいく。
……このまま張りついていれば、執念深いこの猛獣のこと、また討伐隊の所に戻るかもしれない……
カンパは、そんな気さえしてくる。そこで疑問がワいてくる。
なんでコイツは、こんなに執念深いんだ?
腹がメチャクチャ減っている?
いいや、そんなんじゃない
そういえば、あのデカヘビを気にしていたぞ……
なんで筋肉ネコがデカヘビを気にする必要があるんだ?
いろいろな考えがカンパの頭を通り過ぎ消えていくが、しっくりくる答えは見つからない。なんとはなしに少し身を乗り出して、猛獣の様子をうかがう。
猛獣は相変わらずの、たくましい体躯をしている。しかしながら、これまでの巨大ヘビや兵士たちとの戦闘でできたであろう大小様々なキズが、体のあちこちにできている。
特にヒドイのは、左前脚のつけ根にあるであろうキズ……ベーヤが猛獣の視線をかわしてつけたキズだ。カンパからは直接見ることはできないが、その辺りから血がながれ前脚を伝い、地面に黒いシミを作っていく。まるであふれでた怨念が、地を染めるように。
その時、ふと、猛獣が立ち止まる。
そして猛獣は前にあった首を……
後ろ上方にひねる。
それは言うなれば、4足歩行の動物が自分の背中を見る動作。猛獣の目が、カンパの目と合う。
【カンパ】
猛獣の目からは怒りがあふれすぎて、体を突き抜けて行くような感覚!
ヤッチまったっ!
筋肉ネコは筋肉がたくさんある。それにたくさんケガをしたりしていたから、オレくらいの重さの違和感に気がつかなかっただけだったんだ。……あと怒ってたし……。
それなのにオレが動いたから気がついた……。
やっベーな。殺されっ……
そう考えているときには、コイツが暴れだす。草ムラの中を上に下に、右に左にハねて、背中に居すわるヤツを何が何でも振り落とそうとしてくる!
オレは猛獣の体毛を強く握りしめ、猛獣の体に張りつく足に力を入れる。それでもコイツが跳ねれば体が下にタタきつけられ、下がれば体が浮く。
……ゼッタイに……ゼッタイに……はなさねえ!
猛獣の体毛を握る手に力を込めながら自然オレの口から思いがこぼれだす。
「オレは……」
そして浮かぶのは、あの光景。
「オレには……」
その光景は、あの日の、段々な三角形の巨大建築物。その上部に位置する祭壇を、まだ幼かったオレが見上げていた。
「オレには、まだ……」
見上げているだけじゃない。祭壇のフチでヒザマヅきコウベを垂れる母上のモトへと駆け出しそうになっているのを、3つ上の姉が抱きついて必死に止めていた。「カンパ! 止めなさい!」
「オレにはまだ、やることが……」
母上の隣には、幅広の剣を掲げた斬首人が立っている。そして、それらのカタワラに、ヤツがいた。
「オレはまだ!」
その人物とは母上を斬首に追い込んだ元凶、ウガ国国王バルガだ。
「アイツらに復讐を果たしていない!!」
猛獣は決して浅くはないキズを負っているにもかかわらず、背中のカンパを引きハがそうと激しく跳ね回っている。しかしそれも、終わりを迎える。
突然動きを止めた猛獣に、カンパはついにアキラめたかと思うが、すぐに異変に気づく。体が傾いているからだ。それもそのはず、猛獣が右側の脚を折り曲げて傾いている。
カンパは猛獣の背中にしがみついたまま近づく地面を見るが、傾きは止まりそうもない。そのまま猛獣の体は地面に接地、カンパは傾きとその反動でつかんでいた手がはずれてしまう。
振り落とされるカンパ……。
「いったい、なんなんだよっ!」
それでもカンパはとっさに手と足をついて地面への衝突を緩和させる。
「ッくそっ!」
しかし視界の端に、迫る物体が映る。それは巨大な物体――猛獣の巨体だ。猛獣は体を傾けて地面についたあと、その勢いのまま横に1回転、ローリングしていたのだ。そしてその回転する方向は、カンパのいる方向。
――目の前に、回転してくる猛獣の背中が迫る――
「っツブす気かっ!」
カンパは着地で曲げていた4肢を伸ばして自身の体を跳ねさせて草をナギ倒しながら回転、それだけじゃ距離が足りないともう1回転。カンパは片膝をついて、首を振り向けながら立ち上がる。
そこには――
――筋肉をまとった巨大な猛獣が、腹這いから4つ脚で立ち上がっている。
そんな絶望的な光景を目にしながら、カンパは思う。
さすがに死んだか……これ……。
巨獣に比べて小さすぎる彼の手には、まだ外れていない盾しかない。その盾を目の前に掲げながら、カンパはツブやく。
「……けどよ……」
盾はカンパの顔の前まで掲げられる。
「オレはまだ……」
カンパの瞳は、掲げた盾の後ろからニラみつける。
「復讐を果たしていないっ!」
そんな彼のニラみつけるのは、目の前の猛獣か、はたまた他の誰かか。その眼光は、アキラめた者のモノではない。
※物語の整合性をはかるため、バルガたちが邪神たちと戦ったのを10年前から18年前に変更いたします。もし修正できていない箇所を見つけたら、教えて頂ければ幸いです。




