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091 護衛依頼52


 ゴドリー隊長を始めとして、ゴドリー隊の面々は、先程の雪辱せつじょくを果たそうと、各々の武器を構えてその野生の暴力にそなえる。


 まずは1番若い兵士が、正面左から飛びかかる。彼は先ほどまで、ゴドリー隊の中で2番目に若かった。しかし猛獣が彼を向いてキバでイカクしてきたので、攻めきれない。


 もう1人のゴドリー隊兵士――3番目くらいには若かった――が、正面右から切りつける。その剣は猛獣の脚の表面を切り裂くが、それしかできない。分厚い筋肉は健在だ。


「カテぇな!」


 切りつけられた猛獣が反撃しようと、キズつけられた脚を素早く上げて、バネ仕掛けのように下ろす。兵士は後ろにねてかわす。しかし筋肉の巨体猛獣は、前脚を振り下ろしながら、2歩、3歩と迫る。


 縮まる距離……


が、こっそり横に位置していた年配のゴドリー隊兵士がやりを突き出し、その切っ先は猛獣の右目へと伸びる。年配兵士の目は、それを始めから狙っていたように狡猾こうかつに目標をとらえている。

 猛獣はとっさに首をひねってかわそうとするが、狡猾な槍の先は追いかけ肉をく。裂いたのは眼球ではなく、その上部の肉だけ。


 猛獣は後ろに跳ねて距離をとる。

 その右目に、キズから血が流れてきて……猛獣は思わず目をつむる。


 ゴドリー隊隊長がサケぶ。


「今だ! 取り囲め!」


それぞれの武器で切りかかる、ゴドリー隊の兵士たち。猛獣の背後からは、好機をさとった領主軍兵士たちも近づいている。

 しかし猛獣は、血のニジんでいない左目をムリヤリ見開いて、キバや脚のツメで牽制けんせいする。そうする間に前方からも、そして後ろからも近づく小さき生き物たち。こんな小さな生き物たちにこれ程までに手こずったのは、その猛獣の誤算だ。猛獣はこれらの小さき生き物たちを蹂躙じゅうりんするつもりだったのを一旦保留にし、“ニモツ”の上に飛び乗る。



 ソウだった……


 ワが子の苦しみを思えば


 こんなキズなど気にならない……



 猛獣は正面を見据える。

 そこには少し手強い小さき生き物たちが構え、その中に老練で狡猾なヤツ、そして小さいボスが。さらにその奥には、これら小さき生き物たちの、本当のボスがいる。


 小さき生き物たちは


 集まって大きな生き物のようだ……


 ……ならばその頭を


 カミ砕けばいい


 右目に伝って来ていた血は、激しい動きのうちに飛んでしまっている。


 猛獣は両目を見開く。


 怒りが、収束していく。


 筋繊維に、力が戻ってくる。


 猛獣は、“ニモツ”をる。巨体は蹴った力と落下する力で、“頭”に向かって駆け出す。



「来るぞ!」


 そう叫ぶのは、ゴドリー隊長。向かって来る猛獣を、ゴドリー隊が迎える。が、猛獣は殺気立った形相のまま勢いを緩めない。さすがのゴドリー隊兵士たちも左右に別れ、衝突をかわす。

 しかし年配兵士は体はよけながらも、槍の切っ先を猛獣へと向けながら狡猾こうかつな目は外さない。


 そして……。


 この老兵は猛獣の注意が外れたところで、片足で踏ん張って急停止、槍を猛獣の目へと突きだす。


 それは不意打ちだった。


 通常なら。


 しかし今回、猛獣は彼を……彼の狡猾さを警戒していた。まっすぐ進んで行くと見せかけて横に飛び、そしてその反動で老兵へと飛びかかる。槍の軌道はそれて、猛獣の顔の横、空をつらぬいてゆく。飛びかかる猛獣のツメは老兵の腹を裂こうとして、ひねってかわされ、代わりにその脚、モモを裂く。


 そしてその時には猛獣は、次のターゲットを捕捉している。この小さき生き物たち集団のリーダー、ゴドリー隊長だ。


 ゴドリーは猛獣が突進してくると、その進路を避けようと走りだす。が、そこには他のゴドリー隊兵士――現在1番若い兵士――が切りかかろうか逃げようか迷いながら突っ立っている。

 2人のいる場所に、衝突してくる巨大な質量。

 ゴドリーは


「ジャマだ!」


と言いながら、退路上にいる彼をナグり飛ばす。

 突き飛ばされた若い兵士はバランスをくずし、体を傾けているところに鍛え上げられた筋肉の塊である猛獣が激突。巨体の猛獣に比して、軽すぎる若者の体は、投げ出された平べったいパン生地のように宙を舞う。


 そのおかげか、ゴドリーは転がって猛獣をかわし切り、その後ろを若い兵士の体が飛んでいく。


 地面に叩きつけられてウメく兵士に、ゴドリー隊長が言う。


「テメー、ジャマすんじゃねぇよ」


その表情はあわれみなど一切ない、ミケンにシワを寄せた本気の憎悪ぞうおだ。それに対して若い兵士は、出ない声を絞り出して言う。


「……さ……さーせん……たいちょ……」




 猛獣は、ゴドリー隊を駆け抜けてなお、走り続ける。走る先にいたのは、かの奴隷商人。すなわちヴォネラム。彼は他人事のように


「あれあれ、これはマズいですね……」


などとボヤいているが、そんな無害な人物を猛獣は次の目標にとらえる。



護衛のジャンタープが大剣を平らに構えながらぶつかって来て


「大将はそこにもぐっとけ!」


と“ニモツ”の下に押し込みながら、大きな長剣の腹を外に向けてカバーする。


 そこに猛獣が駆け寄ってきて、2人もろとも踏みつけ……


 ……ようとするが、


BANG! (ガンッ!)


斜めに構えていた長剣が地面と荷車に当たり、盾となって猛獣のツメが2人を引き裂くのを防ぐ。


 難を逃れた奴隷商人ヴォネラムが言う。


「……ふうっ、なんとかやり過ごせましたね。これも普段からよいあきないを心がけているご利益りやくでしょうか」


そんな奴隷商人を、護衛のジャンタープはウサン臭そうな目で1ベツだけすると、剣の状態を調べ始める。


「……まだ使える、な……」



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