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087 護衛依頼48

   



「これはいったいどういったことですか?」


 進み出した集団の中で、奴隷商人ヴォネラムが軍務卿の横並んで声高にたずねる。その声は“ニモツ”を運ぶ兵士・・や兵士たちの外側を歩かされている盗賊や奴隷たちの注目を集める。


 軍務卿ベナッジョが言う。


「どういうこと、とは?」


「『どういうこと、とは?』ですって!? そんなの兵士と奴隷が反対になっていることしかありえませんよね。いったいとうゆう……ご配慮はいりょなんでしょうか? まさか奴隷や盗賊たちが疲れたから交代させてやろう、とかではないでしょう?」


軍務卿は笑って


「なぁに、簡単なことですよ。彼らを入れかえたワケは……」


と言いかけたところで、神官ヴェイザが割って入り


「……兵士を温存するため、でしょうか」


と言い、軍務卿は


「そう、その通りです。ヴェイザ殿」


と返す。

 奴隷商人はホッホーとある種驚きを込めたような感嘆かんたんをはき、神官は頭を振ってから軍務卿に言う。


「そんなこと、あり得ません!!」





【ガナリ】

 なんてクソったれなんだ!!


 俺は兵士たちの大将の話を聞いて、そう思う。そう思わざるをえない!

 だってそうだろ? こいつは俺たちを、あの猛獣のエサにしようとしているのだから。


 俺がそんなイキドオリを感じている間にも、神官ヴェイザ様と軍務卿ヤロウ、そして奴隷商人の話は続く。


「これはいくらなんでもやり過ぎです。武器も持たない彼らを、猛獣の矢面やおもてに立たせるなんて!」


と言うヴェイザに奴隷商人ヴォネラムは


「私としても心が痛みますな。奴隷とはいえ、彼らは私の所有物。死んでしまえば、それは損失ですから」


と言い、軍務卿は


「猛獣が現れたとき、兵士諸君がすぐに駆けつけますよ。武器の扱いは、彼らの方がなれているし奴隷や盗賊たちに武器を渡すわけにはいかない。ヴォネラム殿も先ほど「王に損失を出させるべきではない」と語っていたではありませんか。彼ら兵士を失うことこそ、王国、ひいては我が国王の損失。まぁ、万が一、奴隷が死んだ場合は私が補償ほしょういたしましょう」


と言う。それに奴隷商がこたえ


「……補償してくださる、と言うのであれば私は問題ありませんよ」


と折れてしまう。いよいよ我々の命は、神官ヴェイザ様1人にかかってくる。彼女が言う。


「問題あります! このやり方は非人道的です!」


しかしその言葉に説得力はない。もはや彼女は人道にうったえるしかないらしい。軍務卿に寝返ったヴォネラムが言う。


「しかしヴェイザ殿、戦う兵士がやられてしまえば誰が戦うと言うのです?」


「……それは……」


軍務卿が言う。


「お優しい神官殿の気持ちも、分かります。ですが、今はこれが最も最適なやり方なのですよ。他に何か良い方法があれば、提案してください。それまではこの方法でゆきます」


「……ですが……」


神官ヴェイザはまだ食らいついてくれた。でも俺や他の盗賊たち、そして奴隷たちも気がついた。もう、この状況はくつがえらないんだと。






【】

 結局、ガナリたち盗賊と奴隷たちを外側にさせたまま、集団は草の生い茂る中の道を進んで行く。“ニモツ”は彼らの代わりに、兵士たちが押している。


 このように配置が変わる前も変わった後も、“ニモツ”を押していない奴隷商人の護衛、ジャンタープが自分の主人を呼びかける。


「……なぁ、大将……」


奴隷商人はかったるそうに集団について歩く自分の護衛の方を向く。それを確認したのかしていないのか、ジャンタープは話を続ける。


「……大将、あんた本当は奴隷がムダに死んでいくのが好きじゃなかった……」


奴隷商ヴォネラムは人差し指を立てて相手を止めながら周囲をうかがい、あまり目立たない声の大きさでジャンタープに言う。


「確かに……ムダに私の商品が……苦労して仕入れて運んでようやく売れた商品が、ゴミのように浪費されていくのは好きではないですね。ただ……」


ヴォネラムは、この集団を率いている人物を静かに見る。


「……あの方は、私の商品をそのように浪費しているわけではない。むしろこのいう状況において、その商品価値を最大限に利用して使っている。……そうは思いませんか?」


「っは? 知らねえよ! ……俺はただあんたが……」


「ならば、そうなんですよ。あの方のやり方は。一見無駄のように見えて超合理的。彼らの限りある命を、最も有効に活用する手段と言えるのです。素晴らしいと思いませんか?」


「だから俺に聞くなよ。俺はあんたがよけりゃ、それでいい」





 ハダリー隊は荷車の、左前側に張りついて押している。その中にはもちろんカンパもいて、もちろん彼も荷物をしていいるのだが、そんな彼に並んで歩く者がいる。宮廷魔術師の弟子、サジュだ。

 彼女は荷車に乗っていることにアキたのか、あるいは若い内に運動しておこうという人生設計のためか、はたまた“ニモツ”の冷たさに嫌気がさしたのか。ともかく誰かに言われることもなく、彼女は歩いている。それもカンパのすぐソバを。

 カンパが彼女に声をかける。


「……オマエ、もう歩けんのか?」


対しての彼女の返事は短い。


「ん」


カンパは少し待っていたが、それ以上は何もない。“ニモツ”を押す者たちやその周囲を歩く者たちの足が運ばれていくだけだ。


「……そう言えば、何でさっき魔法をウたなかったんだ? 猛獣がきたとき」


「……エネルギー切れ……」


「えね、るぎー? それがないと魔法がウてないのか?」


彼女は重そうに、自身の身長ほどはある杖を持って歩いている。


「……そう……うてない……」


「なんだか魔法って、便利そうで不便だな」


カンパがそう残念がっていると、後ろから声が。


神器しんきもそうだよ」


カンパが振り返ると、そこにはサンゴ色の髪を持った少女アイネがいる。彼女は片手で“ニモツ”を押しながら言う。


「神殿教国にある神器も、使いすぎるとエネルギーが足りなくなって使えなくなるらしいよ。先生が言ってた」


「しんき? 何なんだよそれは」


「神器って言ったら、神様が作った武器とかのことだよ」


魔術師の弟子のサジュが舌ったらずな口調で、イロイロ足りないところを補足する。


「……神器……は、邪神戦争の時に……神殿教の主神が作り出したとされるヘイキ……。……で、実際に多くの使徒をホオムったとされてる……」


カンパは感心した様子で


「へー、スゲーんだな。オレも魔法とかシンキとか使えるようになりてーなー。……って、おい!」


話していたが、アイネに呼びかける。


「テメー、何片手で荷車を押してるんだよ。ちゃんと両手で力を込めて押せよ」


アイネが言う。


「ダイジョブだよ。ボク、こう見えてケッコウ、力が強いんだ」


「なるほどな、確かにそれなら……って、そういうことじゃねーんだよ!」


「ん?」


アイネはそう言いながら、草々の茂る荒野の方に振り返る。


「『ん?』じゃねーんだよ……って、また何か見つけたのか?!」


アイネは草々の茂る中を見ながら言う。


「くる!」




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