086 護衛依頼47
【?】
なぜこの生き物タチは
ワレのジャマをする?
なぜこの生き物たちは
ワレを殺そうとする?
ワレはただ……
ワレはただ……
ワが子を助けたいだけなのにぃ!!
【】
憤る筋肉ネコに、1番初めにアタックしたのはカンパだ。彼は“ニモツ”の上から、地上で様子をうかがう筋肉ネコに、剣を振り上げながら飛びかかる。
「っオレがぁ、いっち番のりだああぁ!」
カンパの動きは、射られた矢のように速く、そして機敏だ。だがそれに反応できない筋肉ネコではない。
かの猛獣は他の兵士たちを警戒しながらも、それが落ちてくるのを待ち構える。そしてタイミングを合わせ、ほとんど水平ぐらいに口を開きながら、巨体を跳ね上げる。
カンパの落下方向に広がる、赤い口内と鋭いキバ。
「チッ」
カンパは舌を打ちながら、振り上げた剣の先を猛獣に向ける。そしてカミつかれる直前、剣を突き出して猛獣の下アゴのハグキに当て、脚で猛獣のホホをケる。
止まるカンパの落下の勢い
そして閉じられる猛獣の口は、カンパの目の前で
カンパは盾を猛獣の鼻にタタきつけ、押し込み、反動で猛獣から少し離れて着地する。
筋肉ネコはすぐに目の前の少年に飛びかかろうとするが、
「こっちだっ!」
と後ろから声が。筋肉ネコが瞬時に振り向けば、剣を振りかざした兵士――マレの姿が。
筋肉ネコはそれを認めると、横に跳ねてさがる。
それを見てからマレがカンパに言う。
「飛び出しすぎだ」
少年が言う。
「すいませんね、先輩」
その間にもハダリー隊のメンバーが次々と駆けつけ、距離を取って並ぶ。が、その時
「ジャマだっ!」
という声と共にカンパが押しのけられる。押しのけたのは、ゴドリー隊の隊長ゴドリーだ。
彼は“ニモツ”の反対側にいたので、隊列の後ろを回ってきたのだ。他のゴドリー隊メンバーも、ゴドリーに続いて来たり、“ニモツ”を乗り越えてきたりと、次々と戦列に並ぶ。
チッ。カンパは舌打ちだけして、イラダチを抑える。
「いくぞオマエら!」
ゴドリーはそう言いながら飛び出す。続くゴドリー隊メンバー。
しかし筋肉質な猛獣は不利とみたのか、身体をひるがえし、さっそうと背後の草むらに消えていく。
「待て、このヤロー!」
とゴドリー以下、ゴドリー隊が追跡しようとするが、
「待て!」
と威厳ある声が止める。軍務卿だ。彼が続けて言う。
「この草の中に逃げられたのなら、そうそう追いつけん! 追跡は断念する!」
軍務卿に言われたのでは、さすがのゴドリー隊も従うしかない。仕方なしに戻って来るゴドリー隊のメンバー。それを認めた軍務卿がさらに言う。
「道に出るのを優先する。移動だっ! 準備しろっ!」
1団はそれぞれがそれぞれの準備を進めて、再び移動し始める。
移動し始めた軍務卿率いる1団は、まだ薄暗く草の茂る平原を進んで行く。その進みは先ほどまでより、明らかに速い。
足運びが早いのは、“ニモツ”を押す盗賊たちや奴隷たちに限らない。周囲を取り囲むように配置された兵士たちもだ。
誰もが追撃者の威圧感を感じている。それも、それぞれの肌で。風のそよぎが、草同士のこすれが、荒野にある無数のオウトツや草の影が、あの野性的で暴力的な恐怖を想起させる。
ただそんな状況にもかかわらず、この集団の指揮官である軍務卿は、「“ニモツ”を置いて行こう」などとは言い出さない。
このようにして道に出ようと移動している内に、またあの猛獣による急襲があった。今度は隊列の右後方への襲撃だ。
これによる被害は、草むらからおどりでた猛獣の突進で領主軍兵士が1人跳ね飛ばされ、目の前にいて“ニモツ”を運んでいた盗賊をツメで引き裂き内臓を露出させ、その前にいたギハスロイの男にカミつきくわえると、さっそうとモト来た草の中へと消えていったことだ。その後ろ姿は、ヒューマロイがチキンをくわえてちょっと出かける、といった軽々しい感じだった。
道にたどり着く前に、さらにもう1度襲撃があった。今度は隊列右前の、ゴドリー隊が狙われた。
何の前触れもなく崖を転がるようない勢いで草むらから飛び出してくる巨大な猛獣だったが、ゴドリー隊のメンバーたちはよく反応して、それぞれ脅威から距離をとった。しかし若い兵士が立ち去る筋肉ネコの後ろ足のケリを受けて荷車に激突、背骨を折って息絶えた。
草をかき分けて進む彼らには、いつ猛獣が現れて襲われるかという死に直結したプレッシャーが、常に彼らの心を押しつぶそうとしている。
特に領主軍兵士たちはそうだ。もう3人も被害者を出している。
“ニモツ”を運ぶ盗賊や奴隷たちはほんの少しだけマシともいえる。なぜなら外側にいる兵士たちが守ってくれる、という物理的な位置関係から安心感を得ている。
ハダリー隊は、まだ猛獣を相手に犠牲を出していない。むしろ猛獣に対して、奮闘している。軍務卿に対してポイントを上げているためか、隊長ハダリーの表情は明るい。なのでハダリー隊メンバーたちも周囲を厳しく警戒はしているものの、そこに悲壮感はない。
ゴドリー隊は、そんなに穏やかとも言えない状況だ。なぜなら隊長の顔つきが、穏やかではないからだ。ゴドリー隊長はモトモト厳しい顔つきだが、今はいっそう険しくしている。ゴドリー隊から犠牲者が出たことを気にしているのだろうか。
そんなこんなで、ようやく彼らは道にたどり着く。領都まで続く道だが、その風貌は老いた農夫の荒れてフシクレ立った細長い指のようだ。そんな道でも、道は道。草をかき分ける必要がなくなった一行は、ペースを上げて進んで行く。
兵士たちも、奴隷たちも、そして盗賊たちも、加えて言うならば奴隷商人や神官でさえそう思っていた時、とある号令が下される。
「止まれ!!」
みんなが何事かと思って声の主を探せば、そこには軍務卿が。彼はみんなの視線など、どうとでもないといった感じで続きを言う。
「各自の配置を変更する。諸君も知っての通り、また猛獣が襲ってくるだろう。なので指示通りに速やかに移動してもらいたい」
軍務卿ベナッジョは、みんなが話を聞いているのを確認すると続ける。
「よろしい。それでは盗賊と奴隷の諸君、荷車を中心にして3歩外側に移動してくれ。兵士諸君はその逆、荷車の方に3歩近づいてくれ」
1部の理解できない者も、お互いに教え合うことでようやく軍務卿の望む形に並び替えることができる。
「よろしい! それでは兵士諸君、荷車を押してくれ。他の者はそのまま進んでくれるだけで構わない」
これには奴隷も盗賊も、兵士たちでさえ戸惑う。しかし兵士たちにとって、軍務卿の命令は絶対。多くの者が戸惑いながらもやがて荷車が動き出し、他の者たちもそれに続いて移動し始める。




