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085 護衛依頼46

    

 隊列はいまだ、背の高い草々に囲まれていて、前と後ろでお互いの状況が把握しづらい。


「来るぞ!」


と、誰かがさけぶ。


 直後、隊列の左後方側面にいる領主軍兵士の目の前の草を、何かが飛び越えるように飛来する。


 それは、巨大な影。


 影は、そのまま正面の兵士におおい被さる……


 否、前脚で踏みつける。


 巨大が飛び出した勢いそのままで踏みつけたので、足の下の兵士をこすりつけながらすべっていく。勢いは止まらず巨大な影はその先にあった荷車に激突、重い荷物を載せている荷車をゆらし、傾けさせている。


 訂正。


 猛獣は、激突したわけではない。


 筋肉質な前脚を突き出し、巨体が激突するのを防いだ形で止まっている。反対の前脚の下には若い兵士が倒れているハズだが、そこに人が生きるのに必要なスペースはもはやない。ツブれている。


 そして……


 それは……


 その巨大な影は……


 あの猛獣――筋肉ネコ


 巨体は、全体的に筋肉質なフォルムが闇の中で潜みつつも存在感をカモし出し、野生的で荒れた黄金色の体毛からは、膨大な筋肉が生み出す熱気を絶え間なく闇夜に放出し続けている。その猛獣は、荷車を押して傾けさせている。


 そして荷車は、衝突しょうとつ衝撃しょうげきで運び手が手を離してしまったことによって、また荷重が増したことによって、荷車の進行は止まってしまっている。


 筋肉ネコが前脚を荷車から乱暴に離すと、傾いていた荷車は慣性の速さで地面の上に戻り、反動にきしみ、その荷が揺れる。


 そして筋肉ネコはゆっくりと――この場の支配者が当然自分であるかのようにゆっくりと――荷車の上の“ニモツ”に食らいつき、引きずり下ろそうと力を込める。暗闇の中、猛獣の発達した体中の筋肉が引きしまるのが、見る者たちにわかる。見ている者は、「さすがに筋肉が異様に発達した猛獣でもそれはムリだろう」と思うが、“ニモツ”が動き出す。


 その時、1人の兵士が、


「ぅ……ぅう、うおっ……」


意味を成さない声を発っし、剣を手に猛獣に向かって歩き出す。手に持つ剣を徐々に持ち上げ、足の運びも速まっていき、


「……ぅぅうおおおおお!!」


声は叫びとなる……。





【レクセイ】

 猛獣の足の下にいる若い兵士は……ついこの間入ってきたばかりの新入りだ……


 そして……


 奇声を発して駆け出したのは……そんな彼を可愛がっていた先輩の兵士だ。いつも本人には厳しいことを言うくせに、周りの人間には「アイツも頑張っているんすよ」とかばっていた。


 そして……


 その駆け出したソイツは……


 俺が目をかけていたヤツだ……


「っまてぇぇぇ!」


 思わず出た俺の制止も、ソイツには届かない。脚がふるえているにもかかわらず、後ろも振り向かないまま、目の前の巨大な猛獣へと向かっていく。


 もはや……


 彼が向かっているのは……


 巨大にそびえる、暗い絶望にしか見えない……


 なんて……恐ろしいんだ……


 そして俺は……


 ……動けない……



 近づく小さな彼を猛獣が横目でとらえるのが、俺にもわかる。それでも猛獣は、“ニモツ”から離れない。兵士が近づき、剣を突き刺そうとした時、筋肉ネコは前脚を素早く持ち上げて彼の上に下ろす。


 重い音がヒビく。


 彼は、面倒を見ていた若い兵士と重なるようにうつ伏せにされ、その背中を覆い被せるように猛獣の大きな足がのる。


Crack !(ゴキッ)


軽く低い音が、その猛獣の足元で鳴る。


 俺は動けない……


 本当なら……


 怒りに任せて切りかかりたい……


 でもどうせかなわないという理性が


 そして何より圧倒的恐怖心が


 俺の体を氷つかせてしまっている……





【】

 そんなレクセイの横を、まっすぐ猛獣に向かって、走り抜ける者がいる。


 彼は荷車、続けて“ニモツ”の上に飛び乗り、目を覚ましたサジュが隠れているヘビの間を飛び越えて、暗闇にそびえる絶望へと走っていく。


 他のハダリー隊メンバーも、彼に遅れまいとするかのように続いて行く。アイネも「そうしないといけない?」といった感じで、彼らについて行く。


 レクセイはそれらを、見ている。見ていることしか、できないのだ。他の領主軍兵士たちもそうだ。


 ただ、ゴドリー隊は違った。“ニモツ”を挟んだ反対側で、ゴドリー隊も回り込みながらツめていく。


 小さな生き物たちの反撃に、ついに猛獣もカミついた“ニモツ”を口から離し、彼らに向き直る。ただしその顔は……目の前に群れる小さき生き物たちに、その不敬さをばっするように威圧的にニラみつける。

 そこにり込まれている怒りは、最初の対面から少しも薄らいではいない。むしろ、濃縮されている。こうしてタイジしている間にも、濃縮され続けてさえいる。


 そんな猛獣に飛びかかるのは、小さな生き物たちの中でもさらに小さな兵士。カンパだ。


「っオレがぁ、いっち番のりだああぁ!」



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