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084 護衛依頼45

         

 空では“夜”はまだ“昼”を隠していて、荒野はいまだにうす暗くなる前の暗さだ。軍務卿率いる盗賊討伐隊、改め猛獣討伐隊、改め戦利品輸送隊はそんな荒野を、丘などの隆起を避けながら進んで行く。



「……ボイニニンガ領都には、昼までにつけるかな……」


隊列のスピードからそう計算するのは、隊列の中央左にいる軍務卿ベナッジョ。


「また何かでて来なければ、ですがね」


と言うのは、隣を歩く奴隷商人ヴォネラム。


「ったく、さっさと休みてーぜ」


みんなが思っている不平を口にしながらアクビをするのは、奴隷商人の専属護衛であるジャンタープである。彼が大きくあけた口を閉じながら、羨望せんぼうの横目で見た先にいるのは、すでに疲労のピークを迎え荷車の上に乗せてもらっている宮廷魔術師の弟子のサジュだ。

 彼女は初め荷車の上でウツラウツラしていたものの、繰り返し訪れる睡魔すいまにアガラい切れず、ついに杖を抱えたまま巨大ヘビに寄りかかって安らかに眠っている。


 奴隷商人ヴォネラムが言う。


「まぁ、しかたないでしょう。あのままあそこにいて、安全を担保できるわけではありません。避けるべきは、損失。これは戦略的撤退なのですよ」


彼の専属護衛は、返事をする代わりに舌打ちする。





 そんな隊列の左前側面にハダリー隊があったが、その中の1人の少女が前を歩く少年に話しかける。


「ねぇ? カンパはやっぱり神殿教の神様を信じてるんでしょ? この前、神殿に行ってお祈りしてたし」


話しかけられで少年は、


 だってあの人は……


と思うものの、実際には興味なさそうに


「ぁあ? 知らねぇよ」


とだけ言う。対してアイネは


「ええ! 時々神殿に行って、お祈りしてるのにそれ?」


 ハハウエのように……


「オレはそーゆーんじゃねぇよ」


「それじゃ、どーゆーの?」


そこまで言われてカンパは黙ってしまう。


 だってあの人は……


 ハハウエのように


 なでてくれるから……


「なんでもねーよ………………それより、オマエはどうなんだ? オマエは神殿教国の出身なんだろ?」


「ボク? たしかにボクは神殿教国……というよりはその神殿の中で育てられたんだけど……神様もいいんだけど、それより女英雄サイネヴィかなぁ」


「はっ? 神殿で育てられた! ってことは、英才教育を受けて聖騎士団候補……ってわけじゃねえよな。こんなとこにいるってことは……」


アイネは照れくさい表情と気まずい表情を同時にして言う。


「…………なんか色々あったハズだったんだけど、イロイロあって抜け出してきちゃった……」


「さらっとトンでもないこと、言ってんじゃねーよ!」


と、カンパは言った後でボソッとツブやく。


「……オマエもナカナカ苦労してんだな……」


そんなカンパの話を聞いていたのかいなかったのか、アイネは何かを思い出して小さな声でカンパに言う。


「あっ、でもこのことはヴェイザにはナイショね」


「ん? なんでだよ」


「だってヴェイザから神殿教本部にバレでもしたら、イロイロたいへんなコトになりそうじゃん」


「……なんでオマエごときのコトで、そーなんだよ。まぁ、オマエごときのコトなんてイチイチ話さねーよ」




 この瞬間、神殿教神官ヴェイザは、新しい(でもまだ心が定まったわけではない)信者たちの話を聞いていたのだが、


「……いいことを、聞きました……」


と誰にも気づかれないように、誰にも聞かれないようにツブやく。





 このように彼らは、それぞれに割り振られた役割をおおむねまっとうしながら、1日にしては長い旅の倦怠感けんたいかんを押して、まだ道のりが長い帰路を進んでいく。

 イロイロとありはしたものの、そしてとても疲れはしたものの、そしてそして大きすぎる“ニモツ”はあるものの、何とかやることはやった帰り道、といった感じだ。


 異変が起こるのは、そんな時だ。


 最初に何かを感じたのは、アイネだ。目の良さ耳の良さを、自称するだけのことはある。“ニモツ”の周囲に多くの人間がいる中で、彼女が1番に振り返る。

 辺りはまだ暗い草々が広がる中、アイネがツブやく。


「……何か、来る……」


度重たびかさなる戦闘や強行軍がたたって警戒心が薄れていたこの部隊にあって、その小さな声を拾ったのは前を歩く少年、カンパだ。


「……ん?……あっ?……ああっ! おいっ! また何かヤッカイなのを見つけたのか!?」


「……ヤッカイって……。まぁ、そんなの……」


普通ではない空気を察知して、ベーヤが聞く。


「一体、何が来ると言うのだ?」


アイネは指で“それ”を指し示しながら、


「わかんない……。でも、あれ」


彼女の声を聞いた周囲の者たちが、彼女の指の先に視線を走らせる。


 そこは、およそ200歩離れた場所……


 草の深く茂った、暗い丘の斜面を……


 何かが草をゆらしながら近づいてきている。



 それを見て、カンパが言う。


「思ったよりチケーな、おい!」


一緒に見ていたハダリーが、みんなに警告する。


「何モノかが接近! 場所は左後方、180……160歩! っはやい!」


 それが兵士たちを臨戦体勢にさせるトリガーになる。彼らは武器を構え、多数がそちらを向き、何人かが他方を警戒する。

 ただ“ニモツ”は止まってしまう。押し手たちは突然の異変に、どうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。


「荷車を止めるな!!」


そう指示を飛ばすのは、軍務卿。彼は次々と指示を飛ばしていく。


「このまま進んで道までてる! 弓を持っている者は適宜てきぎ打ち込め! 他の伏兵にも気をつけろ!」


 集団は秩序を取り戻し、再び動き出した“ニモツ”に合わせて移動して行く。


 しかし追跡者の方が、圧倒的にはやい。


 ほとんど音を立てないわりに、大きな草の揺れはミルミル近づいてきて、不気味さを感じさせている。

 そして隊列はいまだ、背の高い草々に囲まれていて、前と後ろでお互いの状況が把握しづらい。



「来るぞ!」


と、誰かがさけぶ。


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