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080 護衛依頼41

       



 猛獣たちへと近づく討伐軍。元々は盗賊に対する討伐軍であったが、今は事実上、猛獣に対する討伐軍となっている。領主軍1個6人隊を先頭に、右後ろはゴドリー隊、左後ろにはハダリー隊が配置され、もつれ合いながら丘の斜面を転がっていった猛獣たち――巨大ヘビとそれに食らいつく筋肉ネコ――を追いかけて行進していく。




 丘の斜面に横たわるその長い影は、時々ピクリッと動くだけでほとんど動かなくなっている。


 筋肉ネコはしばらくそのまま、カミついたままだ。まるで死んでいてもまだ信用できない、といった感じで。

 しかし筋肉ネコはようやく、巨大ヘビのウロコを貫いていたキバを抜く。そして巨大ヘビを一心不乱に食らだす……ことはなかった。横たわる巨大ヘビの全貌ぜんぼうを見定めるように、2~3歩離れた場所からその亡骸なきがらを見て歩く。それもゆったり、ではなく、足早に。


 そして急に立ち止まる。それは巨大ヘビの腹のふくらんだ場所。他にも大きく膨らんだ場所があるが、そこは小さく膨らんだ腹の辺り。

 筋肉ネコはその小さな膨らみに近づいていく。1步1步、ためらうように、ゆっくりと。それはまるで、何かを強く探し求めていたが、それは同時に目にしたくない何か、であるかのように。





 領主軍のレクセイは、王都軍と領主軍で構成された盗賊討伐隊改め猛獣討伐隊の中にあった。そして行進しながら、思考を巡らす。


 状況は絶望的だった。


 が、好転した。


 なぜだかは知らないが、猛獣たちは殺し合い、そしてデカいヘビは動かなくなった。筋肉質なネコもナゼかはわからないが、大人しくなってヘビの周りをうろついている。


 なのでこのまま討伐軍が回れ右して領都に帰る……のであればよかったが、軍務卿は討伐隊の進路を曲げようとはしない。水が水路を下るのを定められているのと同じように、我々はなめらかに、残る猛獣、巨大なネコ科の筋肉のカタマリの方へと近づいていく。


 盗賊との戦いでは思いの他、領主軍の損害は少なかった。王都軍の練度や軍務卿の統率によるものだ、とレクセイは分析する。

 こういったモノが領主軍に1つでもあれば……とも、レクセイは思わずにはいられない。


 それはともかく……。


 レクセイが前方に目を向ければ、際立っていく次の強敵の姿。発達した筋肉が全身をおおい、中でも前肢ぜんしの肩の部分が異様に盛り上がっている。頭部を支える首も太く、アゴ周りの筋肉はどんなエモノでもたやすくカミくだけそうなほど発達している。

 そしてその巨大なケモノは目の前に長々と横たわる屍肉しにくに近寄ると食らいつき、食し始める。いや、食べている……のではない。引きちぎっているのだ。

 それはレクセイにとって、尋常ではないことだ。普通、生き物は食べるために他の生き物を殺すのだ。そう思うとレクセイは、エタイの知れない恐怖を感じ始める。

 猛獣の屍肉の食いちぎりは、初めはためらうようにゆっくりと、だったが段々と速くなっていき、シマイにはガムシャラな早さになる。


 俺たちはあんなものと戦って……果たしてブジでいられるのだろうか?





 筋肉質な猛獣の威容いよう、またはその奇行きこうにおびえる兵士たちが出始める中、討伐軍は軍務卿の指示でソレを包囲し始める。

 まず前列にいた領主軍が正面に張りつき、ゴドリー隊が右側から、そしてハダリー隊が左側から回り込んでいく。これは盗賊戦の時と変わらない。違うのは、このような大軍を相手に、少しも恐れを見せない敵だ。恐れないどころかムシするように、目の前の屍肉にムサボリついている。






そんな中、アイネが前を歩くカンパに言う。


「ねぇ、カンパ……」


少年は半分の半分だけ振りかえって言う。


「……あ?」


「……あれって……」


「何だよ」


「絶対ヤバいよね……」


カンパはタメ息をはきながら応える。


「だったら何だよ」


後ろの少女からは不安の声が続く。


「……だから……」


別な声が割り込む。


「大丈夫だ。心配するな」


そう言うのはベーヤ。彼は


「何かあれば、仲間が助けてくれる。それが仲間ってもんだ。たとえふだん、仲良くしてなくてもな。……だからカンパ!」


最後に厳しい声でカンパを呼ぶと、呼ばれた少年がフテクサレた声で


「……なんだよ……」


と応じると、


「仲間に、も少し優しくしてやれ」


とベーヤは優しい声で言うのだ。





 包囲が完成すると、軍務卿はゴドリー隊とハダリー隊の間に立って、その両隊に前進を命じる。真ん中にいる軍務卿も剣を抜いて進んでいく。反対側にいる領主軍はそのままで、包囲網をせばめていく感じだ。


 ここにきてようやく筋肉ネコが、その太い首に支えられた頭を軍務卿たちに向けたので、その表情があらわになる。

 口やホホに血がまとわりつき、ジャマをされたワズラワしさからか、その眼光は怒りに燃えている。そして……


GRRRRRRRR……(グルルルルルル……)


低い音が、取り囲む者たちに空気を通して伝わってきたかと思っていると……


GRRRRRRROOOOOOOOOWL!(グアララララララアアアアアアアア!)


衝撃が大気を、そして周囲の者たちの肌を、心を、魂を震わせる! 筋肉ネコが怒りに任せてウナり、そしてホえたのだ。


 周囲を取り囲む兵士たちの多くは顔を青ざめて、ヒヨコ豆みたいに縮こまってしまう。ただハダリー隊やゴドリー隊のメンバーは、すぐに冷静さを取り戻す。

 秩序を取り戻そうとしてか、ほとんどひるむことがなかった軍務卿が、そんな兵士たちに号令をくだす。


「ゴドリー隊、ハダリー隊は前へ! 対象への距離をめる! 領主軍はその場で待機して獲物を逃すな!」


 ゴドリー隊とハダリー隊の面々は、ためらいもなく指示通りに動きだす。アイネをのぞいては……。彼女も動くことは動くのだが、他の兵士に比べて1テンポ2テンポ動きが遅い。


 そんな彼女を見かねて、


「おい……」


少年が声をかける。アイネが彼を見れば、


「……心配すんな……」


アイネは聞き違いかと思い、続く言葉に耳を向ける。少年は照れ臭さをどうしても口から出さなければいけないから出す、といった感じで、


「……ちょっとデカイだけのネコが、ただホエてるだけだ……」


不意打ちの優しい言葉に、アイネは不思議そうな顔で彼を見る。


「ネコ?」


カンパはまだ、恥ずかしさを残したまま言う。


「そう、ネコだ」


「ネコ?」


「ネコ……」


「……ほんとにネコ?」


ついにカンパはいらだって、


「だからそうだって!」


と言うが、アイネは気にした風もなく、


「へー、あれってネコなんだー」


と感心した様子。アイネが“ネコ”と呼ばれた猛獣を見れば、それは近づく兵士たちに歯をむき出しにしてイカクしている。でもアイネは、


「……確かにそう言われれば、そう見えないこともないかも……」


とツブやく。顔の表情も体の緊張もとけているようだ。さらに


「……そしてこのネコを倒すことも、きっとミトばあさんとかのタメなんだ……」


と、決意するようにツブやき、手に持つ剣を強く握りしめる。


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