079 護衛依頼40
兵士たちが展開する間にも巨大ヘビはノタウチ周り、それでも筋肉ネコはカミついたまま離さない。何人もの兵士たちが、そのしがみつきに執念を感じとる。
そして兵士たちは巨大ヘビのノタウチ周りに巻き込まれないように、距離をとりながら成り行きをうかがう。
巨大ヘビは、離れない筋肉ネコに対してマスマス激しく頭を振り、胴体を上下させ、尾を振りまわす。筋肉ネコはアゴにより力を込めるので、長い犬歯とそれ以外のキバがウロコに食い込んでいく。巨大ヘビの血がより1層と流れ出て、筋肉ネコの口からしたたり散っていく。
灼熱の大地に出てしまったミミズみたいにノタウチ回る巨大ヘビの動きに合わせて、兵士たちは時に大きく後退しなければならなかった。
それでも急に来るものは、避けられない。巨大ヘビが体をひねった反動でシッポが振れ、領主軍兵士3人を弾き飛ばした。ハジかれた3人は盾を掲げていたためか、それとも防具のためか、打ち身程度ですんだ。それでもケガの程度が重いものはイッタン後退して他の者が穴を埋め、復帰できるものはすぐに参列する。
巨大ヘビは振り払うことをアキらめたのか、自分の頭を地面にまで降ろして筋肉ネコを地面にこすりつけ始める。1回、2回、3回と巨大ヘビは全身をひねりながら何度も筋肉ネコを自分の体重をかけて地面にこすりつけるが、筋肉ネコはキバをカミしめ脚のツメをメリ込ませて離さない。
猛獣たちを囲う隊列の中に、サンゴ色の髪の少女と“夜”色の髪の少年が並んでいる。アイネとカンパだ。
猛獣を注視しながら片手剣と盾を構えるカンパが、隣で両手剣を構えるアイネに言う。
「ボサッとすんなよな。オマエはトロいんだから」
少女は、隣の少年に顔を向けて言う。
「はぁ? なにそれ!」
「いいから猛獣たちが近寄ってきたら離れるぞ!」
「そんなのわかって……」
アイネがカンパに向かって反論しようとしたとき、カンパが叫ぶ!
「ほらきた!!」
えっ
アセりつつアイネが猛獣たちを見れば……
回転し続ける巨大ヘビのシッポが伸びて、あたり一帯に向けて横薙ぎに迫っていて……
迫りつつあるシッポの先端が見える
が、アイネは引くべきかカワすか防ぐべきか、選択肢がいくつも頭に浮かんで来て選びきれないでいる。
そんな彼女に素早く近づく小さな影……
はカンパのもの。
彼はアイネを頭から押し倒しつつ、自身も身を倒し、渾身の力で盾を前方に振り上げる。盾はその表面でウロコにおおわれたヘビの大きなシッポに当たり……わずかにその軌道を上げる。
上がったシッポは風を切りながら、カンパとアイネの頭上をこえていく。
彼らの後にはボゴタがオノを振りかぶっていて
「ふん!」
ボゴタは迫るシッポに合わせてオノを振りおろす。
一瞬、ボゴタはからぶったように思う
が、目のはしに飛んでいく物体が切り離されたシッポであることにすぐ気づく。振られたシッポの勢いと、ボゴタの力いっぱいのオノの振りおろしでキレイに切れたため、からぶったとボゴタは思ったのだ。
カンパが猛獣たちを警戒しながらアイネに手を貸して引き起こしたとき、ベーヤのドナリが聞こえてくる。
「ボサッとしてないでかわさんか!」
カンパが舌打ちしたとき、ハダリーの指示が飛ぶ。
「早く列に並べ! 包囲を維持しろ!」
今の巨大ヘビのシッポの一振は、幸いにもハダリー隊にケガ人を出すことはなかったし、代わりにボゴタがその先端を2步分ぐらい、ウリを台所で切るように切り離した。しかし巨大ヘビは首筋にカミつく筋肉ネコを引きはがすことに必死なようで、大事な尾が切られても特に反応することなくもがき続けている。
このままいつまで待てばいいのだろう?
猛獣たちを囲い込む兵士たちがそう思い始めたとき、状況が動き出す。
もがく巨大ヘビが、首に筋肉ネコをつけたまま、丘の斜面の高台から転がり始めたからだ。
「よけろー!!」
兵士たちの誰かが叫んだ。叫んだのは、兵士たちみんなだったのかもしれない。
とにかく巨大なリングが転がるように、巨大ヘビが転がり始めている。振り子の重しのように、首に筋肉ネコをつけたまま……。斜面の下に布陣していた領主軍は、左右に別れて転がるように逃げていく。
初めはリングのように転がっていた巨大ヘビもすぐにその円環を崩し、終いにはゴロゴロと斜面を転がるヒモのようになっている。そんな状態になっても、筋肉ネコはカミついったアゴを離さないで一緒に転がっていく。
兵士たちはちょっとした混乱におちいるが、すぐに厳格な号令がかけられる。
「猛獣を追いかける! 各隊、移動しながら横列に並べ! 前列に領主軍、右後列にゴドリー隊、左後列にハダリー隊で列を作れ!」
その号令を出したのは、もちろん軍務卿。兵士たちは最初はバラバラと、そして次第にまとまって、列を形成しながら斜面を下っていく。
巨大ヘビはあともう少しで斜面の1番下、というところでその長い体を伸ばしている。その場所は列を作りながら降りてくる兵士たちと、猛獣討伐には向かわずに残った捕らえられている盗賊たちとその見張りの兵士たちその他がいる場所のダイタイ中間あたり。
残留組はもちろん前進などせず、同じ場所にとどまって様子を見ている。
盗賊たちはあの恐ろしい、使徒かと思った猛獣のようなモノがもう1匹増え、それが近づいて来ることに本気でおびえ始めるが、捕縛されていて逃げることもできない。
彼らを囲む領主軍の兵士たちも恐ろしくはあったが、自分たちの仲間が何とかしてくれる、という他人任せの自信がある。
そんな彼らのかたわらで、奴隷商人ヴォネラムが言う。
「あれあれ! とうとうヘビが動かなくなりましたよ! 猛獣対決はネコの勝利でしょうか!」
その発言に反応したのは、神殿教神官のヴェイザ。
「何をユウチョウなことを言っているのですかっ! まだあの恐ろしい猛獣が1匹残っているんですよ。それを倒すのにいったいどれ程の被害がでるか……」
ヴォネラムは少しもカエリみた様子を見せることもなく言う。
「それにしてもあのヘビの皮と、ネコの毛皮。なかなかいい値がつきそうですね。できるだけキズつかなければいいのですが……」
「あなたって人は……」
ヴェイザがあきれていると、2人の後ろから魔術師の弟子のサジュが近づいてきて言う。
「魔法なら……当たれば、倒せる……かな?」
ヴォネラムはそれを聞いて、心底嫌そうに言う。
「うーん、それはヘビ革も毛皮もダイナシになってしまうんで、ごめんこうむりたいですな」
ヴェイザは1つタメ息をつくだけで、もう何も言わない。




