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078 護衛依頼39

  

「猛獣だ! このデカヘビともう1匹! 筋肉質なデカイネコが潜んでる! 気をつけろ!!」


 丘の稜線りょうせんから現れた少年が警告する。


 盗賊たちはその巨大な影におののく。なぜなら先ほど逃れたはずの悪夢に、再び追いつかれたからだ。しかし今度は逃げることはできない。捕まった野ガモのように、縄で拘束されているからだ。


 その巨大な影を初めて見た兵士たちも多種多様におののく。が、逃れることはできない。軍務卿が逃げろ、と命令していないからだ。




 警告しながらも、カンパは走り続ける。丘を駆け上ってきてからの、この駆け下り。脇腹が悲痛な声で、過重労働を訴えている。しかし彼は止まらない。こう思っているからだ。


 こんな面白そうな戦い、誰にも渡さねぇ!




 カンパの説明にもかかわらず、状況にすぐに対応できた者は少ない。そんな中、ベーヤがさけぶ。


「どういうことだ、カンパ!」


「オレにもわっかんねぇ! けど! コイツは筋肉ネコにイタぶられて、たまたまこっちに逃げてきたんだ!」


丘の頂上を通過した巨大ヘビは、タメらうことなく斜面を下りていく。まるで地上にいる小さな生き物のことなど意に介さないように。

 その様は普段、猛獣とかかわらない者にとっては耐え難く恐ろしい悪夢そのもの。


 軍務卿が叫ぶ。


「領主軍の1個6人隊は盗賊たちを確保しておけ! 他の者でアレをむかつ! 前列に領主軍1個6人隊、右後列にゴドリー隊、左後列にハダリー隊で横隊をつくれ!!」


さっきまでは動揺どうようしていた兵士たちだったが、この命令が下されると、それぞれがすぐに動き出す。




 巨大ヘビが、丘を降りてくる。

 姿勢を低くして巨体をできるだけ草ムラにひそめつつ、左右に体を蛇行し、草々の間を押し分け、兵士たちが並んでいる方へとやってくる。

 毒をしたたらせるキバを潜ませた口から、シタを高速で出し入れしながら、どんどんとその大きさ実感させていく。

 その巨体が1つ蛇行するたびに、兵士たちが受ける威圧感が増していく。


 しかし兵士たちに、逃げ出す者はいない。その理由の1つは軍務卿であり、もう1つは自分たちは盗賊たちを倒した高揚こうようと自信である。



 巨大ヘビはそんな彼らのことなどまったく気にすることなく、ミルミル近づいてくる。人が急いでいる時に、虫のことなど気にしていられないのと同じ感じだ。そして兵士たちの前列から20歩ほど離れた小高くふくらんだ場所までくると、体を左右に揺らしながら頭を夜空へと登らせてゆく。

 空には“夜”によって遮られた“昼”が、“夜”の周囲に円形のおぼろげな光のを形作っているが、巨大ヘビの体はそれに届きそうな感じだ。


 兵士たちは見上げていくことしかできない。何人かが、ツバを飲む。


 巨大ヘビは何も、目の前の小さな存在を威嚇いかくするために、そうしたわけではない。もっと他に恐れる何かがあったからだ。実際、巨大ヘビは体を持ち上げると、自身がたどってきた後方をシキリに警戒している。



「構え!」


軍務卿がそれの攻撃を予測して、号令をかける。兵士たちは盾を持つものは盾を掲げ、剣を持つものは剣を、槍を持つ者は槍を、弓矢を持つ者はそれらを構える。

 そんな中、臨戦態勢の兵士たちを止める者がいる。



「待て! アイツが来るぞ」


そう叫んだのは、巨大ヘビと並走しながらが丘を駆け下りてくるカンパだ。彼が指差しているのは、巨大ヘビを挟んだ反対側の草むらの闇の中。

 カンパが警告の続きを投げつける。


「筋肉ネコだ!」


 カンパが指さした辺りを、兵士たち各々(おのおの)が注視する。と、闇の中に巨大ながら静かに、しかし素早く動く影が。

その影は丘の斜面の上から周り込んでくると、巨大ヘビの手前で踏み込んで……


 足と全身の筋肉を最大限に発揮して跳躍ちょうやく


 その高さは、巨大ヘビの頭部あたりにまで達し


 “夜”の周囲に“昼”がおぼろげに光るのを背景に


 巨大ヘビのクビに食らいつく。


 剣のように長いキバは容易たやすくヘビのウロコをつらぬき、アゴの筋肉がさらに隆起して、上下の口がクビを圧挟しロックする。そのため、巨大ヘビが頭を激しく振っても、筋肉ネコは離れない。むしろ巨大ヘビの肉が、キバによって引きはがされていくだけだ。巨大ヘビは体をのたうち回っているため、兵士たちも近づけそうにない。



 そんな状況のおり、カンパはようやく仲間たちと合流する。


「ったく。オマエはいっつも何かとたわむれておるな!」


開口一番、ベーヤにそう言われたカンパは、


「知らねーよ! 向こうから勝手に寄ってくんだから」


と、返す。隊長ハダリーが言う。


「カンパ! アイツらはどんなヤツらなんだ? 説明しろ」


カンパは“アイツら”を一目見て、隊長の意図を察して周囲に聞こえるように手短に言う。


「……あの巨大ヘビは、キバに毒を持っているようだ。あとシッポをムチのように使ってくる。……そしてあの筋肉ネコは、剣見たいなキバが2本。それに見た目どおり、ムチャクチャ筋肉があって、それに素早く動く。あとツメもするどい……」


“アイツら”を見ながらそう説明したカンパは、少し間をあけてから続ける。


「……そしてなんでかはわからないがあの筋肉ネコは、あの巨大ヘビのことをとても憎んでいるようだ……」


ハダリーは軍務卿の方を見る。カンパもつられるように、そっちを見る。


 軍務卿は視線を水平からやや下げ、何か考えているようである。おそらく、カンパの報告を聞いて、どう対処するべきか考えているようである。

 軍務卿ベナッジョはすぐに顔を上げて、兵士たちに指示を出す。


「アイツらを包囲ほういする。ゴドリー隊は右回りに、ハダリー隊は左回りに回り込む! あばれている猛獣たちに近づくな! 猛獣が襲ってきても無理に戦うな! 数で消耗しょうもうさせろ!」


 兵士たちは動き出す。すなわち、領主軍はそのまま前進、ゴドリー隊は右回りに、ハダリー隊は左回りに動いて包囲網を完成させていく。

 その中には合流したばかりのカンパも、もともといたアイネも含まれている。アイネは前を歩くカンパに話しかける。


「遅かったじゃん……戻ってくんの……」


カンパは少し振り向いて言う。


「……ああ……またせたな……」


そう言いながらカンパは、アイネの顔色をうかがう。そしてつぶやく。


「……もう、大丈夫そうだな……」


「っえ? なに?」


「なんでもねーよ」


少年はそう言いながら、他の兵士たちにあわせて進んでいく。



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