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073 護衛依頼34

         

 生き物たちが、戦っている。


 生き物たちとは、1つは角を生やした巨大なヘビであり、1つはヘビ程でないにしろやはり大きく筋肉質なネコであり、最後の1つは巨大でも筋肉質でもない、普通ともいえる人だ。



 筋肉ネコは、しなやかに身体を躍動させて右に左に上に下に動き回り、巨大ヘビを翻弄ほんろうしてカミつくチャンスをうかがう。


 巨大ヘビはそれにカミつかれまいと、激しく長い身体を波打たせながら、キバやシッポで威嚇いかくを繰り返す。ただしキバは毒をしたたらせており、その巨体から繰り出されるシッポも当たれば負傷をまぬがれない。


 そして“赤い人”はと言えば、その手に持つ棒でヘビを刺しネコを刺す。するとそのたびに、ヘビはシッポでなぎ払い、ネコはカミつこうとするが、“赤い人”はたくみに距離をとって攻撃をかわし、また筋肉ネコと巨大ヘビの争いとなる。




 そんな彼らを、離れた高みから観察する者がいる。彼は丘の上の暗い茂みの中で、城壁の1つのレンガにでもなってしまったかのようにじっとして見ている。


 そんな彼が思わずつぶやく。


「……すげーな、アイツら……」


その称賛しょうさんはやがて、1人の人物に向けられる。


「……ソートーつえーぞ、あのじーさん……」


 そう言いながらカンパは、自分の血が熱くなっていくのを感じていく。こういう感じになってくると、カンパはいてもたってもいられない。戦いたくなって、絶え間なくウズウズしてくる。


 行くか?


 ふと、そんな感情が芽生えてくる。「戦いに行くなよ」とブーバーが言っていたの思い出す。しかし、別な、誰のモノでもない声も聞こえてくる。


 ――そんなの関係あるかよ――


 ――あんな自分のことしか考えてないヤツの言うことなんか、気にする必要はない――


 ――お前は強くならなきゃいけないんだろ!?


 カンパは腰に吊るした剣のをギュッとニギる。


 そしてカンパは、立ち上がる。


 それはよりよく観戦するために……ではない。前に進むために立ったのだ。


 そしてカンパは、前に進みだす。


 すなわち丘をドンドンと下って行く。

 草々が左右に割れていく。迷いは置いて来てしまったので、今ごろ丘の上から盗賊たちの方へと転がり落ちていることだろう。

 カンパは丘の斜面を降りて、盗賊たちの残したタキ火の横を通り、“赤い人”の方へと向かって行く。


 戦うモノたちに近づけば近づく程、そのすさまじいブツかり合いの衝撃が伝わってくる。

 筋肉ネコがその発達した筋肉を隆起させて左右に動いてフェイントをかけ、巨大ヘビへと飛びかかる。

 巨大ヘビは巨体を素早く波立たせ、うねらせ、ひねりながら筋肉ネコをさける。かと思えば鋭いカミつきをお返しする。

 筋肉ネコはネコ科特有の低い姿勢からの跳躍ちょうやく、距離をとる。


 その巨大な争いを背景に、“赤い人”が頭だけをカンパの方に向ける。振り返った人物は黒い毛皮を体にはおり、毛先が慣性かんせいにゆらめく。毛皮におおわれていない部分の肌は、赤みがかっている。


「……誰かと思えば……」


その男がカンパに言う。


「“復讐ふくしゅうするオオカミ”ではないか」


かなりの歳を感じさせる声だ。カンパの頭の中では今宵こよいの夜空のように、いくつもの疑問がきらめく。カンパはその疑問を、言葉にしていく。


「復讐する……オオカミ?」


「……お前の、ことだ」


“赤い人”は大きな猛獣たちを警戒しながら、こたえる。


「? アンタは……誰なんだ?」


「ワシは……“探求する熊”」


「“探求する熊”? 名前はないのか?」


「それが……ワシの名だ……」


水をつかむような手応えのなさに、カンパは少しイラつき始める。


「……よくわかんねーけど、まあ、それはいいや。それで? なんで“なんとか熊”さんはコイツらと戦っているんだ?」


カンパがそう言いながらコイツらに視線を流せば、大きな猛獣たちはお互いに牽制けんせいし合い、次の1手を探している。


「……質問が多い、子だ……。しかし“探求する熊”は……好奇心を歓迎する……。……ただ……なぜ戦うか、とな? ……はて、なんでだったか……」


「とぼけんなよ! こっちは王国軍なんだぞ!」


普段のカンパなら、そんな肩書きは名乗らない。それが嫌いだから。でも今は、イラつきがそうさせる。対して“探求する熊”は、おだやかにこたえる。


「……そうイラつくな。……それは真理を、遠ざける。……理由は……お前たちのため、か」


「はっ!? オレたちのため? ふざけるのもいい加減にしろよ! なんであってもいないモノのために、命をかけて戦っているんだ?」


 筋肉ネコが巨大ヘビの毒のしたたるキバをかわして、頭から1/3あたりの胴体に飛びかる。そしてそのまま剣のように長くするどいキバを巨大ヘビのウロコに突き立てる。しかし、突き破れない、と思われたとき、筋肉ネコはアゴ周りの発達した筋肉でそれを押し破る。

 巨大ヘビは痛みにのけぞるが、すぐに毒のキバで反撃しようとするが、それを見た筋肉ネコは力で無理やりで肉を食いちぎり、び逃げる。

 そんな彼らを背景に“探求する熊”は、少しカンパの方を見て言う。


「……ふざけてなどいない。……お前は……この国を動かす、流れとなり……世界を動かす、流れとなる……サダメ。“大いなる精霊”が……そのヴィジョンを、見せた


「……何をワケのなからないことを言っている」


「……簡単に言うならば……お前たちを助けること……」


それを聞いたカンパの目つきが、いっそう鋭くなる。


「……オレに助けなんていらねーよっ! 死ぬのはそいつが、弱いからだ。オレに助けなんて必要ねーし、誰かを助ける必要もない。人のことなんて、放っておけばいいんだ」


“探求する熊”は少し驚いたような顔をして少年兵士を見たあと、笑いだす。


「ハッハッハ。……そう、それも真理!」


そう言って、“探求する熊”は前に歩きだす。


「……だが」


そればかりか、走り始める。“探求する熊”そのまま、大きな猛獣たちに向かいながら話し続ける。


「弱きを助けるのもまた、生きる者の真理!」


 その前方では、巨大な猛獣たちが対峙たいじする。戦況は筋肉ネコが優勢なようだ。筋肉ネコの攻撃が、巨大ヘビをキズつけている。


 “探求する熊”は筋肉ネコに近づいていく。それに気づいた筋肉ネコは、巨大ヘビに向けていたキバを“探求する熊”へと向け、


GROOOAAA!!(グルオオオアアア!!)


咆哮ほうこうをあげ、空気がビリビリとふるえる。

 カンパはそれだけで、気持ちがちぢみ上がりそうになるのを感じる。


 ものすごい威圧いあつ感だ……


 クソッ! 負けてられるか!


 カンパはそう強く思いながら剣を引き抜き、“探求する熊”のたどったアトを歩きだす。



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