071 護衛依頼32
【ホホにキズのある男、ジンジャ】
マズイな……。
兵士たちを相手に戦う盗賊たちに指示を飛ばしながら、ふと状況を客観的に見てそう思う。俺たち盗賊はジワジワと押されている。ケガ人も増えてきている。ケガ人ならまだましで、死者も多い。
そして1番まずいのは……敵がこっちらを包囲しようとしていることだ。
その包囲を防ごうにも、戦えるヤツはダイタイ前線を維持するために戦っている。余分な戦力は、足りないほどない。
「敵は疲れてきてるぞ! 中央に圧をかけろ! 中央は手薄だ!」
それでも虚勢を張り上げる。そうしなきゃ、やってらんない。コイツらを保てない。
だいたい「手薄だ」といっても敵の戦列はおおよそ2列はある。こっちはなんとかかんとかで、ようやくの1列を、奇跡的に維持できているにすぎない。
なんとかしねーとな……
そう思っているうちにも、また仲間が1人、地面に倒れていく……。
【】
アイネは、ハダリー隊の1員として行動している。抜き身の両手剣を持ってベーヤの後に続いて行く。
そしてハダリー隊は、盗賊たち肉薄して戦っている領主軍左翼のそのハジの方へと移動していく。なぜかといえば、軍務卿が盗賊たちの包囲を指示したからだ。一方のゴドリー隊は、反対の右翼側から包囲するように展開している。
いうなれば領主軍を本体として、右腕のゴドリー隊と左腕のハダリー隊を伸ばして盗賊たちを抱え込もうとしている状態だ。
そして領主軍最左翼の兵士の背中を回り、先頭にいるマレが「うおぉぉぉ!」と叫びながら盗賊たちの側面に張りつき斬りかかる。領主軍兵士にケガを負わせた盗賊がかろうじてその剣を受ける。勢いで剣を押しつけるマレ。こらえる盗賊。
ベーヤが短く言う。
「ワシに続けアイネ! ボゴタ! ワシとお前で彼女にケガをさせないようにするぞ!」
ベーヤはそう言いながらマレの背中から左側に躍り出て、マレの剣を受けている盗賊の脇腹に剣を突き刺す。
それを見ながら、歩く速度を加速させながら、アイネは思う。
次はボクの番……
そしてこれは、ミト婆さんのためなんだ!
アイネは走りだす。ベーヤの背中を右に見ながら、その左側へと回りこみ、躍りでる。サンゴ色の髪を振り回しつつ、手に持った両手剣もしなるほど背中から左回しで振り回しながら。
彼女の視野に入ってくるのは、味方がいない領域。
前線を必死に維持しながら戦う盗賊たちの裏側。
アイネは振りかぶった両手剣をそのまま、ベーヤによって脇腹に刺された剣を振り払って奮闘する盗賊の後頭部へとたたきつける。
驚愕に染まったベーヤの顔を背後に置き去りにして、アイネは次のターゲットへと向かう。
それは若い男。ケガをしたために前線の後ろに下がって手当て――キズついた右腕に盗んだ衣類を巻きつけている――をしていたが、アイネに気がついて地面に落ちていたスキをあわてて手に取る。
が、遅かった。
しゃがんだ彼の首に、アイネの両手剣の切先が突き立てられる。
若い盗賊は苦痛に顔をゆがめながら、反射的に突き立てられた剣をつかむ。傷口から血が噴き出し、彼の服と地面を染めていく。
その光景の残酷さが、まばたき1つする間、アイネの力を消失させてしまう。そこにあミト婆さんの姿が浮かんできて、気持ちを上書きしていく。
ボクは……決めたんだ
ミト婆さんのために戦うって!
アイネの剣を握る手に、力が宿る。アイネは剣をもう1段押し込み、イロイロなものを振り払ったとき、
「おい! こっちにも敵がきてるぞ!」
男が2人、アイネに近づいてくる。1人は剣、1人は長い柄(持ち手)に鉄の先をくくりつけたオノを持っている。もちろん盗賊であり、そして敵でもある。
オノを持った男が先に近づいてきて、オノを振り下ろす。荒く鍛練された鉄部分は、それでも当たれば死ぬほど痛そうだ。アイネは色々振り切った剣を振り上げて、頭に向かってくるそれを止める。しかしオノの先端は突き出している。オノの先端は、アイネの鼻から指2本分で止まる。アイネが剣で受けたのだ。
そしてそのまま力まかせに、オノを押しつけてくるオノ男。アイネも押し返す。が、オノ男の後ろから剣男が向かってくるのが、彼女の目に入る……。
【アイネ】
どうしよう……。
いろいろ考えていると、ふと、アイツとの模擬戦をしていたときのことが浮かぶ。それはボクが初めて兵士として働いたときのこと。
ボクがアイツの剣を剣で防いだとき、あいつをもう片方の手を使って、盾でナグってきた。
でも今のボクには盾がない。
でも長い両手剣がある。
その両手剣は敵の攻撃を防ぐために横向きになっていて、目の前に剣の持ち手を守る突起がある。
……ボクはミトばあさんのためにも、負けるわけにはいかない!
アイネが考えるのにかけた時間は、マバタキ2つ分。
アイネは横にずれながら剣の切っ先を後ろに傾ける。すると押しつけられたオノが剣に沿って、ナナメ後ろに逃げる。オノを持った盗賊は慌ててオノが逃げないよう、押しつける向きを修正しようとする。がその瞬間、アイネは握っていたツカの突起を、力任せに相手の顔の中心に叩きつける。
金属の突起物を叩きつけられた盗賊の男は、急な鼻のつけ根への打撃によって後ろ向きに倒れていく。
倒れゆくオノ男をかわして、近いた剣男が剣を振り下ろす。が、アイネも剣を振る準備はできている。アイネはさっきまでオノを防いで横になっていた両手剣を、そのまま新しい乱入者に叩きつける。
剣男が思っているよりも早く、そして上段から水平に叩きつけられたそれは、剣男の剣に当たりながら切っ先はホホにまで届き打ちつける。
オノ男は上体をひねりながら、回転するように後ろへと倒れていく。
アイネは返す剣を振り上げて立ち上がりかけているオノ男の首筋に叩きつけ、はね飛ぶ鮮血に構わず、寝転ぶ剣男の背中に両手剣を突き立てる。
2人が動かなくなったところで、アイネが荒くなった息を整えながら言う。
「……これも……ミトばあさんの……ためっ……」
そういう彼女の顔には血の飛沫が点々と走り、瞳には強い決意の光がある。
そのとき、サンゴ色の髪の1房がほつれ、垂れ下がる。




