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070 護衛依頼31

        

【カンパ】

 やっぱり、なんだかんだ言って、アイツのこと心配だ。


 暗闇の中を進む仲間のブーバーの背中を追いながら、そんなことが気にかかってシカタがない。


 あんなヤツ、ほっとけよ。


そんな気持ちもわいてくる。


 ……でもやっぱり気になったり……


敵を前に剣を振るのをためらって、逆に切られてしまうアイツの姿……ふと、そんなモノが浮かんでは、暗い草々に消えていく。


「クソッ!」


「ぉぃ、静かにしろっ」


思わずコボれた悪態あくたいがブーバーに聞こえてしまったようでタシナメられる。

 いつものブーバーならあと2言3言小言を言われるはずだったが、今は任務中。ブーバーはすぐに進みだす。オレも後に続く。


 盗賊たちとの遭遇そうぐうを警戒して、大きく迂回うかいしながら、その背後にある丘の上を目指して丘の中腹をすぎた。

 丘の頂上まで、間もなく。


 そんなとき……。



GRROOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAaaaaaar!!(グルオオオオオオオオオアアアアアアアアアァァァァァァ!!)



 獣の……と言いうよりは猛獣の鳴き声……と言うよりサケび声が、丘の向こう側からひびいてくる。その声はとても恐ろしく、怒りに満ちているようで、どこかに悲しさのある叫び声だ。

 思わず不安になって、ブーバーと見つめ合ってしまう。ブーバーが聞く。


「……なんだ今のは……」


「……さあ……な……。……使徒ってヤツか?」


「……そんなわけ……あぁ、それを確かめに来たんだ。……しかたねえ。行くか」


「……ああ……」


 オレたちは慎重しんちょうに、でも急いで、丘の上へとかけ上がって行く。






【丘の向こう側】

 “昼”と呼ばれる天体は、“夜”と呼ばれる天体にすっかりおおわれている。それゆえ、地上に降り注ぐはずの光は今は遮断され、かすかな星明かりがそそぐばかりだ。


 そんな“夜”空の下、ヒューマロイたちが争っている。一方は軍隊で、他方はまとまりのない集団だ。戦局は軍隊の方が有利に進めている。


 そしてその戦っている場所から丘を挟んだところでも、戦うモノたちがいる。こちらの戦いでは、ヒューマロイは1人しかいない。“探求する熊”と自称じしょうする、黒い毛皮を身にまとう赤い肌の老人だ。


 そしてそれに対するのは、大きなハチュウ類。見た目は大きなヘビのようだが、大人の上半身ほどある頭部にイビツな角を有している。


 そしてもう1体。


 新しい生物が草原くさはらから姿を現し始める。

 1言で言ってしまえば、それは大きな猫のようでもある。ただしその大きさは異常だ。

 高さは大人の頭を越え、幅は大人2人分はある。前足の肩の筋肉が異様に発達し、体側面からそこだけ飛び出している。そしてその隆起りゅうきして最も高い位置にある肩の筋肉の曲線を首の方にすべっていゆけば、この生物を特徴づける頭部にいたる。

 顔立ちは、長く太い口周りを除けばネコとそれほど変わらない。左右の口の端からむき出た一際の存在感を放つ大きなキバをのぞけば。そのキバは上アゴから生え、口の中に収まらず、半日刀のような突き出したキバがむき出しになっている。

 その獣は自身の怒りを現すように、キバやその他のとがった歯をむき出してノドを鳴らしている。それだけではなく目は見開かれ、エモノを……毛皮の男、ではなく巨大なヘビをニラんでいる。


 そして……


GRROOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAaaaaaar!!!(グルオオオオオオオオオアアアアアアアアアァァァァァァ!!!)


 ……ケモノが咆哮ほうこうをあげる。


 それは悲しみと怒りで練り上げられた咆哮だ。

 まるで我が子のカタキをとる母親の叫びのような咆哮だ。


 ケモノはえた後、目の前にいる存在たちに目を向ける。毛皮の男は、ヤリを両手で持って構える。巨大ヘビも体の向きを変えて構えている。


 キバのケモノは、ゆっくりと歩きだす。






【バグとラグ】


 バグとラグがその咆哮ほうこうを聞いたのは、かつて盗賊たちがき火をしていた広場を離れ、限りなく暗闇と暗い草原が広がる大地の中を急いで歩いているときだ。


 その咆哮ほうこうに2人同時に振り返った後、ラグが言う。


「……大丈夫かな……あのじいさん……」


バグはラグの肩に手をかけて言う。


「あのじいさんなら大丈夫だろう」


しばらくそのまま2人でかすかな焚き火の明かりをながめた後、バグが言う。


「行こう! ラグ! あのじいさんが言っていたみたいに、俺たちは俺たちの生きる道を探すんだ!」


「……あぁ、そうだね……」


ラグが歩きだす。続いてバグも、焚き火の方を少し見て、歩き出す。


 2人の前には、暗い草原が限りなく広がっている。






【丘の上】

「……いったいどうなってんだアレは……」


 丘の上の草陰に隠れて、ブーバーがつぶやく。それに対して、一緒に偵察に来ていたカンパがこたえる。


「……さあな……」


 彼らのいる丘の下では、3体の生物がにらみ合っている。1つは毛皮をまとった赤い肌の男で、1つは巨大なヘビで、1つは巨大で筋肉質な猫だ。


 カンパが彼らを見下ろしながら続ける。


「……ただ、使徒ってヤツには見えねーな」


「だな。詳しいことはわかんねーけど、あれは猛獣とかなんとかだろ。話に聞く使徒じゃねえ」


「それとアイツって……軍務卿が見つけ出そうとしていた“赤い人”じゃないか?」


「……あぁ? そうか……」


そう言いながらブーバーは考える。


 これからここで見たことを報告しなきゃいけない。

 ここに残っていても、いつあの猛獣たちが飛びかかってくるかわかったもんじゃない。

 それに逃げ出した盗賊たちにいつ背中を刺されるかもしれない。


「よし! カンパ」


「あ?」


「お前はここに残れ。俺が軍務卿に報告しに行く」


カンパはじっとりとブーバーを見つめる。ブーバーが聞く。


「なんだよ?」


「いや、ブーバーが自分から行動するなんてめずらしいからな。何かたくらんでるんじゃないか?」


「そっ……んっ……なわけあるかよ! 狩人かりゅうどをしていた俺の方がまだ隠れて行動することに慣れている、ってだけだよ!」


「ふーん。まあ、いいや。あいつらを見張っとけばいいんだろ」


「そうだ。何か異常があったら何とかしろよ。じゃあ、頼んだぞっ」


「異常とか何とかってなんだよ」


「それくらい自分で考えろ。じゃあ、頼んだぞ」


そう言って、ブーバーは草カゲに隠れながら戻っていく。そのカゲを見送ったカンパは、姿勢を戻す。もちろん丘の下のモノたちを監視するためだ。


 彼らはまだケンセイし合っていて、特に大きな動きはないようだ。“ケンセイし合っている”とは言っても、その手順はだいたい決まっている。大ネコが大ヘビにカミつこうとするが、大ヘビは毒があると思しきキバのある口を開けて威嚇すれば大ネコは離れる。その間に“赤い人”は可能であれば、どちらかを攻撃する。


「なんで逃げないで戦ってるんだ、あのじいさん」


その人物の防具は毛皮をまとっただけ、武器は先が尖っているであろう木の棒だけで戦っている。それにもかかわらず巨大ヘビや巨大筋肉ネコの攻撃をケンセイし、交わしかわしたりして防ぎつつ、攻撃を入れている。


 しばらくその様子を見ていたカンパの口から、カザリのない感想がもれる。


「……ソートーつえーぞ、あのじーさん……」


そう言いながらカンパは、自分の血が熱くなっていくのを感じる。


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