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069 護衛依頼30

    


 討伐隊と盗賊の本隊が、ついに激突する。


 闇夜に振られた金属が、毛でおおわれた物体にたたきつけられる。金属とは兵士によって振られた剣であり、毛に覆われた物体とは盗賊の頭部である。

 剣の刃はヒフをぱっくりきながら、その下にある頭蓋骨にヒビを入れた。被害者の男の頭は、剣にはじかれて脳震盪を起こし、一時的なブラックアウトを起こして膝から崩れていく。

 その彼に一撃を与えたものがサケぶ。


「相手はひるんでいる! 数でおせ!!」


それはレクセイだ。


レクセイは討伐隊の最前列に位置する領主軍の2個6人隊に指示を出しながら、自ら剣を振るっている。


 軍務卿率いる討伐隊は散在していた盗賊たちを飲み込みながら、混乱を取り戻しつつある盗賊の本体にぶつかっていた。討伐隊の内、最初に戦闘するのは前列に位置する領主軍だ。本格的な戦闘に不慣れな彼らも、背後を味方の王都軍に抑えられているので前に進むしかない。こうして彼らは、死にもの狂いで戦っている。


 一方の盗賊たちはと言えば、突撃しようとしていたところに魔法の攻撃を受け、混乱しバラバラになっていた。が、盗賊の1人の男――ホホにキズのある男ジンジャ――が体勢をなんとか立て直し、兵士たちによる突撃をかろうじて耐えている状況だ。

 魔法による攻撃の前は20人近くまでいた盗賊たちが、今では10人ぐらいまでに少なくなっている。規律も兵力も訓練もない盗賊たちだが、ここにきて意外なしぶとさを発揮している。


 なぜかと言えば、彼らはそうやって戦う以外に助かるスベがないと本能で理解しているからだ。



「右翼! もっとつめろ!」


 叫ぶレクセイに、古びたクワが振りおろされる。レクセイは盾をそれにブチ当て、剣を敵の腹に突き立てる。

 その右隣にいる盗賊が、盾のなくなったレクセイの胸元にサビた剣を突き立てようと剣を引いたところで、レクセイの後ろの兵士にヤリをノドに突き立てられ、血をまき散らしながら背後に崩れていく。が、彼の体は後ろにいた盗賊に押されてレクセイの隣の兵士にぶつかる。

 その様子を横目で見ながら、レクセイは思う。


 今、何人ヤられた?


 この戦いは、あとどのくらい続くんだ?


 この戦いが終わるまでに、あとどれくらい知っている顔が命を落とすんだ?


 様々な思いが次々とレクセイの思考の表層にでて来るが、敵は命がけで攻撃する手を休めない。


 仲間がヤられたことに怒りを覚えた盗賊が、怒りに任せて両手で剣を振り下ろす。そのサビて欠けた剣は、レクセイの隣にいる若い兵士の皮鎧ごと胸を裂く。盗賊は傷口を広げようと、さらに押し込んでいく。


 レクセイは盾で左と前方を守りながら、その盗賊の腕に剣を振り下ろす。


 あちらこちらでヒメイやウメキ声が聞こえてくる。叩く音や刻む音が、火花のように生まれては消えていく。






【アイネ】

 なぜボクたちは、あの人たちを殺さなければならないの?


目の前の戦いを見ていて、そんな疑問が立ちふさがる。


 なぜボクたちは、猛獣たちでさも殺さなければならなかったの?


猛獣たちは猛獣たちで、その日その日をヒッシに生き延びようとしていただけじゃないの?


 ボクたちの剣は……


 だれかの命を奪うためのモノなの?



「ねえ、カンパ……」


 その呼びかけは、“夜”の草原くさはらに並ぶ兵隊さん達の間に消えていく。それはこんな時、何でも話せるあの少年がいなかったから……。


 そういえばアイツ、テイサツに行っちゃったんだった……


暗闇に消えていった、アイツの姿が浮かぶ。


 最後にこっちを振り向いたその姿を、サビしく感じるのはなんでだろ?


「嬢ちゃん? 大丈夫か?」


 やさしい声で話しかけてくるのは、ベーヤ。ベーヤがおじいちゃんみたいな顔で、のぞいてくる。


「……うん」


 本当はイロイロあるんだけど……そう、こたえてしまうのはなぜだろう。


「……そうか」


 ベーヤはそう言って、さらに聞いてこない。


 その時、みんなを統率とうそつするあの声が号令をかける。


「これから敵を包囲する! 領主軍の左翼と右翼は前につめろ! 領主軍の陣形が整い次第、ゴドリー隊は右から、ハダリー隊は左からまわり込む! 準備しておけ!」



 ……こまった……


 このままいけば、ボクが戦うことはないだろう……


 ……そう思ってた……。


 ……まだ……


 ……まだ、ボクには……


 ……誰かを……するには……


 …………


 何かが足りない……





「嬢ちゃん」


 ハダリー隊と一緒に移動しだすと、あの優しい声で呼ばれる。もちろんベーヤだ。


「嬢ちゃん、戦うのが怖いか?」


ボクは頭を横に振る。


「そうか。……それじゃあ人をアヤめるのに抵抗があるのか?」


ボクはベーヤの顔を見る。優しい眼差まなざし。


「……よくわかんない……。……でもそうかも……」


ベーヤは「そうか、そうか」と、納得したようにうなずく。不思議に思った僕が聞く。


「なんでわかったの?」


ベーヤが、こっちを向いて言う。


「ワシもそうだったからだ」


「そうなの?」


「そうだ。ワシだけじゃない。カンパやハダリー隊長もそうだし、あの軍務卿だってきっとそうだ。誰しも人を相手にするとき、ためらうもんだ」


「グンムキョウも? それはちょっと想像できないかも」


「同じ人を相手にするんだ。同じように考えたり感じたりするヒューマロイをな。だがな……」


ベーヤはボクの目をまっすぐに見て、語りかけるように続ける。


「世の中には悪いヤツもいる。だから誰かがそいつらを倒して、捕まえなきゃいけない。我々の仕事は、まさにそれなんだ。そうすることによって、みんなが安心してらせる世の中になるんだ」


「みんなが?」


「そう。みんながだ」


“みんな”といっても、絵が浮かばない。なので聞いてみる。


「みんなって……たとえば……ミトばあさんとか?」


「ミト? 婆さん?」


「あのデッカイ鳥を倒したときの村の」


「……ああ! あの婆さんか! そう! そうゆうことだ! 我々が盗賊を倒すことで、ミト婆さんみたいな人が盗賊から危害を加えられない世の中になるんだ」


くらがりの中で語りかけてくるベーヤの声は、ミト婆さんの姿を浮かばせる。

 冷たい地面の上のくらい草の家の中で、1人でいるミト婆さん。そんな後ろ姿が。そんなミト婆さんが、もし盗賊にでもおそわれたとしたら……。


 そう考えるとボクは、どうしようもない気持ちになってくる。


「……ボク、やるよ……」


「あん? なんと言った?」


ボクの声は小さく、ベーヤまで届かなかったようだ。覚悟を決めたボクは、ベーヤの顔を見ながら言う。


「ボクは、戦うことにする! いやっ、したんだ!」


固まった気持ちはまだ、うまく言葉にならないが、かまわず続ける。


「……だって! ……だって! ……それが……ミト婆さん……」


……だけじゃない……


「……とかそういった人たち……のためになるんだから!」


ボクは、そう言い切り、肩から下げた剣を握りしめる!

 けれどもボクの決意を聞いていたはずのベーヤは、ボクの後ろを走って横切るデッカイ鳥でも見たような顔をして言う。


「……そんな単純なことでは……いやっ……そう! そうか! わかってくれたか!」


そう言って笑うベーヤの笑い声は、何かが引っかかっているみたいにはぎれが悪い。


 そう感じていたとき、


「ゴドリー隊とハダリー隊! 先ほど指示したとおり展開しろ!」


と大きな声が。グンムキョウだ。


 ボクは剣をより強くにぎる。


 ボクは、戦う。


 ミト婆さんや、そんな人たちのために!


 そう、思っていたとき、



GRROOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAaaaaaar!!(グルオオオオオオオオオアアアアアアアアアァァァァァァ!!)



 盗賊たちの後ろのはるか先の方から何かの……きっと猛獣とかそういったモノの恐ろしいホウコウが聞こえてくる。そのホウコウに戦っている人たちも、一瞬、手を止めたように静かになる。が、すぐに戦い始める。


 ボクは思わず、ホウコウのした方に向かっているはずの少年の名を口にする。


「……カンパ……」



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