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067 護衛依頼28


【ホホに傷のある男、ジンジャ】


……周辺に煙が立ち込めていて……


……周りがどうなっているのかわからない……


…………そして何が起こったのかも……


 光る小さな何かが飛んできて、まぶしく光ったと思ったら押し飛ばされ、背中が固い地面にぶつかっていた。


 意識はモウロウとしている


 ミミ鳴りがうるさくて……何も聞こえない……


 他のヤツらは……どう……してる……






【レクセイ】

 王都から来た魔法使いの魔法によって、恐ろしいコトが起きた。

心さえさぶられるようなバカでかい音と、“昼”そのものみたいにまぶしい光が盗賊たちの間で起こった。


 邪神戦争時代の話でも聞いたことがある。

 ヒューマロイの解放軍には魔法使いがいて、邪神の使徒でさえ1撃でほうむる魔法を使えるらしい、といった与太話ともとれる話だ。


 俺自身も大人になってからは尾ヒレのついた話だろう、ぐらいに思っていた。こうして目の前で実物を見るまでは……。


 王都軍はこんな力まで持っているなんて……。

 ヒューマロイがこんな力を持つなんて、ひょっとしたら邪神より恐ろしいことなんじゃないか?







【アイネ】

 なんてことだろう


 たくさんの人の間で爆発が起きた……


 確かにあの人たちは盗賊かもしれないけど、少なくない人が死ぬだろう。


 土煙が下降していって、ようやく爆発の惨状さんじょうがあらわになり始める。


 ボクの目の前で、たくさんの人が爆発で粉々に吹き飛んだ。


 これは……怖い夢なの?





【カンパ】

 あの小さな女……サジュがやった何か……。

 たぶん、魔法ってやつだろうけどスゲーヤツだ! 光と煙で何が起こったかわかんねーけど、なんだかスゲー。

 デッカイ音が鳴ったと思ったら、スゴイ風が来たぞ。領主軍のヤツらはほとんど尻餅しりもちをついてやがるくらいだ。


 これで生きてる盗賊はいるのか?





【ガナリ(捕まっている盗賊)】

 なんてことだ……


 なんて恐ろしいことなんだ……


 まだ何が起こったかよくわからないが、俺の仲間たちに恐ろしいコトが起こった……


 これも口を割ってしまった俺のせいなのか?


 俺たちはとんでもないモノを敵にしているんじゃないか?






【】

 土煙が収まってくると、盗賊たちの状況が見えてくる。

 まず見えてきたのは、地面に横たわる彼らの姿。

 ほとんどの者が土をかぶっていて、訳が分からない内に過ぎていった衝撃しょうげきのダメージにうめいている。他にも体の1部を欠損していたり、血を流していたり。

 言うなれば、彼らは満身、心身ともに傷病兵だ。

 そして彼らのいる中央部分には、大人1人がつかれそうな大きさのクレーターが口を開けている。



 そんな様子が見えてきた中、冷徹れいてつな命令がくだされる。


「突撃!!」


 これもやはり、軍務卿によるものだ。

彼の後ろでは宮廷魔術師の弟子サジュが、疲れたように杖にもたれていて、同行してきたヴェイザが優しく包むように支えている。

 それはともかく、『突撃』だ。兵士たちは一瞬でその号令の意味を思いだし、


「う? うう……うおおおおお!?」


少しお互いに様子を見ながら進み出していく。

 そんな状況の兵士たちにとってさえ、傷病兵と化した盗賊たちを捕らえることはいとも簡単な仕事だ。


 とある男をのぞいては……


「ぅ……ぅ……うおぉ……おおお!!」


自分をふるい立たせながら、ホホに傷のある男が立ち上が……る!

 ヒザに手を置き、歯を食いしばる。そうしていなければ、すぐにでもウズくまってしまいそうになるからだ。


「……テメ、ぇら……」


そして彼は仲間たちに呼びかけるが、思ったように声が出ない。


「……テメエらっ!」


今度はムリに声を出そうとして、セキ込んでしまう。しかし彼はあきらめない。


「テメエら! 立ち上が……れ! なんのために……いや……なんで俺たちは盗賊をやってこなきゃいけなかったか……思いだせよっ!」


 なんで盗賊になったのか?


 盗賊たちにはそれぞれ理由があるだろう。オノレの欲望のためか、あるいは貧しさとか成り行きでとか。どちらにせよ、ジンジャの言葉は彼らにひびき、何人かが起き上がる。


 ……これだけか。全然足りねーぜ……。ホントに大将がいてくれりゃあよお……


そう思いながらジンジャは、チラッと後ろを振り返る。


 ……あのデカイヘビみたいなやつが来ないってことは、大将はまだ生きていて戦っているということか……


ホホに傷のある男は、正面に迫る兵士たちを見すえる。


 ……だったら俺も、負けてられないな……


ホホに傷のある男は、覚悟を決めたように大きく息を吸い込んで言う。


「テメエら! ここが正念場だぜ! キバれや!!」


 何人かがようやく、といった様子で答える。今、この瞬間に限って言えば、彼らのリーダーはそれだけでも満足だ。


 やってやる! 


 生きのびてやる!


 そうしなきゃ……あの大将に顔向けできねぇ!


ホホにキズのある男は、ウナリながら完全に立ち上がる。






 横1列に並ぶ領主軍はすでに、突出した盗賊の所まで到達している。そこの盗賊たちは魔法による爆発の前、兵士たちの前列にあいた間隙かんげきに突撃しようとしていた盗賊たちだ。

 彼らは爆発の被害をほとんど受けなかったものの爆発後の混乱から抜け切っていない。


 1番先頭にいた盗賊の若者は、武器を持って立ち上がったはいいものの、どうすればいいのかわからない。その内に討伐隊の最前列が肉薄し、破れかぶれに斬りかかるも盾を掲げた兵士に防がれ、左右から別の兵士たちに剣を突き付けられて崩れていく。

 最前列の兵士たちは無意識に彼の体をよけていったが、前方しか見ていない後続の兵士たちは次々と彼の体を踏んでいく。しかし彼はもう、ピクリとも動かない。


「1人は生け捕りにしろ!」


 兵士たちの後ろの方からそう叫んだのは、ゴドリー隊の隊長ゴドリーだ。普段、粗暴そぼうな彼がそう言ったのは慈悲じひと呼ばれるものによってではない。情報を聞き出すためだ。


 ただ、言うのが少し遅かった。すでに倒れていた2人目の盗賊が手にかけられていた。

 3人目の盗賊の命は助かる。そのかわりしこたまなぐられて、武器と自由を奪われてしまう。そしてそのまま、ゴドリーのところまで連れて来られる。


 ゴドリーは、おびえる目で見上げてくる彼を、アイサツ代わりに1発ぶん殴って聞く。


「おい! あの丘の向こうで何あった?」


「ヒィッ……コ……コロさないで……」


ネズミをシメた時のように絞り出された甲高い言葉は、ゴドリー隊長のお気に召さなかったようだ。彼は顔面を剣の柄で殴られ、鼻血がドバドバと流れ落ちる。

 ゴドリー隊長はもう1度、今度は相手がよくわかるように髪をつかんで相手の顔を上に向けたあと、自分の顔を近づけてゆっくりと大きな声で言う。


「お前たちが来た、あの丘の向こうで、何が起こったんだ?」


「……し、し、使徒だ! 邪神の使徒が現れたんだっ!」


ゴドリーが軍務卿の方を見ると、軍務卿はゆっくりとうなずく。そして軍務卿は誰にも聞こえない声でつぶやく。


「……使徒か……」


それはいまひとつ信じ切られないような、それでいて懐かしく誰かに再会するような声色だ。しかしすぐに各隊に指示を出す。


「ハダリー! ハダリー隊から2人を向こうの丘の上に向かわせろ。そして向こう側の状況を報告させるんだ!」


「はっ!」


「ゴドリー! ゴドリー隊は少なくなったハダリー隊をカバーしろ! 両隊で領主軍を援護・・し、さらに情報を集めろ」


「はっ!」


 ハダリーは自分の隊員を一べつして言う。


「ブーバー! それと……カンパ! 偵察任務だ。盗賊の後ろにある丘の向こう側を見てきて、すみやかに軍務卿まで報告してくれ」


ブーバーがこたえる。


「あいよ!」


カンパもこたえる。


「……ああ……」


ブーバーが誰かにいうともなく、


「それじゃあ、ちゃっちゃとすませちまおうか」


と言いながら歩き始める。カンパもすぐにそれを追おうとして、少しためらいつつもベーヤに近づいて言う。


「……ベーヤ……アイツのこと……頼むな……」


しかし周囲はおごそかな宮殿内、というわけではない。歯切れの悪い声量のない声は、相手に届かない。


「えっ? なんだって?」


そうしている内にも、ブーバーはどんどん進んでいく。それを見てカンパはアセって言う。


「アイツ……アイネのこと、見ててくれ!」


しかしその意味するところまでは、相手に伝わっていない。


「あ? 何でだ?」


時間がなくイライラしてきたカンパははっきりと、それでもあの少女に聞こえないように言う。


「アイツ……アイネは人を相手にしたヤり合いは初めてなんだよ! だから……ちょっと気にしておいてくれって言ってんだよ!」


 かの少女はといえば、前方で繰り広げられている戦闘から目を離せないでいる。表情は明るいとは言えず、余裕がなさそうだ。


 ベーヤは、ニヤリとして言う。


「ホッホー。わかった! 任しておけ!」



 ブーバーとカンパは隊を離れ、用心のため盗賊たちを大きくウカイして、その奥にある丘へと潜みながら、進んで行く。

 そうする間にも、カンパはたびたび後ろを振り向く。誰かを心配するような、表情をして。


 周囲には暗い世界の中で静かに生い茂る草原くさはらが広がっている。


 そしてカンパが最後に振り向いたとき、かの少女がこちらを向いている。


 視線がふれ合う……


 それはほんの些細ささいな時間のことで、言葉にするにははかなすぎる事象にすぎない。


 でもカンパは、確かにそんな感触を感じたのだ。







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