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065 護衛依頼26


【?】


……もうすぐ……


……もうすぐ……


……もう少しでヤツに追いつくっ!


……もう少しでヤツのハラワタを引きずり出して……







【】

「盗賊の頭目にも矢をくれてやれ」


 軍務卿が的確に指示をだしていく。そしてそれに従順に応える兵士たち。アイネも周りに合わせて、矢を飛ばす。


「領主軍の左翼、列をそろえろ! 遅れているぞ!」


 軍務卿がまた、指示を飛ばす。慌てて隊長が直させる。


 そうしながらも討伐隊は徐々に、ようやくまとまった盗賊団へと近づいていく。領主軍も、ハダリー隊も、そしてゴドリー隊も全体の動きから外れないように、修正をしながら前進する。






【レクセイ】


 順調だ……


 順調だ……


 一時は我が領主軍に心配しかなかったが、みんなまとまって上手くやっている。このまま何事もなく、戦闘に持ち込めそうだ。戦いが始まってしまえば、あとは流れで何とかなるだろ?


 このまま順調に……


 順調に……




 その時、叫ぶ声がする。


「おい! アイツ逃げたぞ!」


声の発せられた位置から、そう言ったのは王都軍の兵士だ。ただし、逃げたのは王都軍の者ではなかった。


 俺が部隊の左の方に目をやると、剣も盾も捨てて逃げて行く領主軍の若い兵士の背中が見える。今すぐ捕まえてやりたいが、間もなく戦闘が始まるこの状況ではどうすることもできない。追いかければ隊列が乱れ、最悪崩れてしまう。


 するとすぐに後ろの方から、残酷ざんこくな指示が下される。


「逃亡者は射殺いころせ!」


とても端的で、的確な指示を出したその声は他でもない。軍務卿のものだ。







【アイネ】


軍務卿が言う。


「逃亡者は射殺いころせ!」


いきなりのことで、意味がわからなかった。だから聞き返してしまう。


「へっ?」

「へっ? じゃねーーーよ!! 命令に聞き返してどうすんだ! ……もう、いいからさっさとあの逃げたヤツをてよ」


ボクはまだ、みんなの言っていることが信じられないでいる。だからまた、「うん」と言ってその通りにすれば良かったのに、聞き返してしまう。


「えっ? だって仲間だよ?」


目の前の少年の顔はみるみる、そしてますます落胆に染まる。





【カンパ】

 いよいよ戦闘!


 ……というところで、またコイツがやらかしやがった!


 あの軍務卿の命令に、疑問を口にしやがった!


 兵士なら敵をヤることにイチイチ疑問を持っちゃいけない。そんなことをしていたらこっちがヤられるし、心が……重く……。


 ……とにかく、その瞬間にヤらなきゃいけないんだ。


 ヤればいいんだ。


 こいつのそうゆうところが、イラつかせる。だからオレは言わずにはいられない。







【】

「だ、か、ら、よお! もー仲間じゃねえんだ……」


まだ続けようとするカンパをブーバーが


「お前ら、ジャマだからどきな」


と言いながら、カンパとアイネの間に弓を割り込ませ


「嬢ちゃん、人を殺すことを迷っているようなら、戦場にはいらないぜ」


と、ブーバーはツルを押さえる手を後方へと引いていく。


Bang!(バンッ!)


軽快な音を残して矢はハダリー隊の間を飛び出し、薄暗くなった生い茂る草々の上を、ほとんど地面と平行に滑空かっくうしていく。そして振り返りもせず走り続ける若者の皮鎧のスキマ――体の腹側を守る前板と背を後板を皮ヒモでつないでいるだけの間隙かんげき――へと飛び込む。

 矢の鋭く加工された銅のヤジリはチェニックをその下にあるヒフと一緒に切り裂きながら肉を貫き、左肺の内壁を突き破って反対壁へと抜ける。


 若者は左脇腹に衝撃しょうげきを感じた直後、ふくれ上がる燃える痛みを知覚ちかくし、呼吸ができない苦しさに気づく。

 すでに走れなくなっている。


 ……何が……起こった?


 そう思いながら若者は、固い地面に倒れていく。






 自分の射撃の成果を見て、ブーバーがアイネに言う。


「こうやるんだぜ、嬢ちゃん」


そう言った彼の表情は、満足と皮肉でできている。



「全軍!」


腹立たしいブーバーの表情の後ろから、号令がかかる。


「止まれ!」


もうすぐ敵とぶつかる……というタイミングでのこの停止命令……。それにもかかわらず、兵士たちは立ち止まる。その冷静さと威厳にあふれた号令を発したのは、他でもない軍務卿ベナッジョによるモノだったからだ。

 軍務卿が続けて言う。


「軍の中央を開けろ!」


 これも普通ならおかしな号令だ。

 間もなく戦闘というところで、みずから弱点をさらすことになるからだ。でも兵士たちはいなもなく従う。他でもない、軍務卿の命令だからだ。

 兵士たちが中央を開けるのを見て、軍務卿がすぐ後ろの少女に言う。


「サジュ殿、よろしく頼みます」


それに対して、大きな杖を持った少女はこれ以上ないくらい短く応える。


「ん」


 宮廷魔術師ヴィクマが弟子、サジュは前に進みでながら、大きな杖を両手で腰の高さで保持する。その先30歩ほどのところには、盗賊たちがバラバラと、それでも心なしか固まっている。




 そんな彼らのはるか上空では、“夜”がほとんど“昼”をおおいつくしていて、残った隙間すきまから手を伸ばすようにわずかな光を彼らに届けている。






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