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061 護衛依頼22

 

【?】


 どこ!


 どこにいる!


 ワが子はどこにいる!


 ワが子を食ったヤツはどこだっ!!



ワレは、ヤツがはったアトとニオイを追いかけて、ドンドンと駆けていく。


 しかしあの子も、ヤツも、見つからない



 ハヤく……


 ハヤくヤツを見つけだし


 腹を引き裂いて


 ワが子を助けなくては……


 だから


 どうか……


 どうか……


 ブジでいて……






【??】


……4つ足の子を食らったが、まだ足りない


 まだエモノが、ヒツヨウだ



 何だ?


 このうまそうなニオイは何だ?


 肉のニオイと


 クダモノのようにアマいニオイ


 このニオイのする方へ行ってみよう……







【】

 今日も1日中輝き地上を照らし続けた“昼”を休ませるため、“夜”がもうすぐそれを覆い隠そうとしている。そんな空の下で、盗賊たちは終わりどころのないうたげを、まだダラダラと続けている。

 バグはそんな彼らとは少し距離をおいたところで、次々と流れゆく雲のように考えを巡らせている。


 ガナリのヤツ、帰ってくるのが遅くないか?


 昇る“夜”の高さとともに、バグはそんな不安を感じている。


 騒ぎ散らかしたせいか酔ったせいか、あるいはその両方か、1部の盗賊はもうすでに寝始めている者もいる。そんな彼らは色あせてしまったナニかのように、バグの目には映らない。バグは再度踏みしめるように、自分が踏んだ手順を確認する。


 ガナリがヘマを踏んだか?


 いや、領主軍はいつだって腰が重い。


 何かがあったとは考えにくい。


 じゃあ、何で遅い?


 ここから逃げたほうがいいのか?




 他の盗賊たちは、これから訪れる“夜”に不安を覚えるかのように、その多くが自然とたき火の周りに集まってきている。

 話題は昨晩の襲撃で得た良い思い出の自慢から、今度はどこを狙うべきかという話になる。


「でもよ、今度狙うとしたらどの村がいいんだ? 毎回ウマくいくとは限らねえだろ」


「今の領主軍ならどこでも大丈夫だろ。自分の領土の村が襲われたってのに、てんで顔を見せないじゃないか」


「それだったら次に襲うのはボイニニンガ領都でいいんじゃないか? どうせ臆病者の領主軍は、ビビって逃げだすだろ」


笑い声が散発し、領主軍へのヤジが飛び交う。

 笑い声が冷めてきたころ、年が高めの1人が、その年齢でもって得られる尊敬を再確認しようと思ったのか、


「そう考えるとこの領に住んでるヤツらは、邪神様の時代の方がましだったかもしれねえな! 少なくとも殺される心配はなかったんだから」


と言う。何人かがまた嘲笑ちょうしょうの笑いをにじませる。それに対して、誰かが言う。


「じいさん、そんなこと言ってるとまた邪神が生き帰ってきてヒドイ目にあうぞ」


「ふん、邪神なんか怖くないわい。昔はヤツらと散々戦ったんだからな!」


老いた男は悪酔いも手伝ってか、とても強気だ。


「じいさん、散々戦ったって言ったって、1度会戦に参加しただけってこの前言ってただろ? しかも散兵として、列の端っこにちょっといただけだったとか」


“じいさん”はほろ酔いで昔話を語りいい気分になっていたが、正しいことを言われていきどおる。


「お前ら若いやつらは、邪神や使徒たちを見てないからそんなことが言えるんだ。あいつらは、本当におっかねえんだぞ! 向こうが1匹でこっちが大勢で攻めたって、カタッパシからバンバン殺されていくんだぞ! そ、それもみんな血まみれの粉々になってな! ワシの前にいたヤツはいきなり体にでっかい穴があいて死んだし、隣にいたヤツは頭がふっとんで死んだわ!」


“じいさん”の話し方はだいぶ酔っているせいか決して流暢りゅうちょうではなかったが、必死に当時のヒサンさをうったえる様は、その真実味を聴衆たちに伝えたようだ。冷やかしていた者たちも、口をつぐんでいく。1人の若い盗賊がつぶやいた言葉が、彼らの心情を物語っている。


「邪神とか使徒って……ヤベえなぁ……」


“夜”が太陽にかかりはじめ、辺りは急速に暗くなっていく。

 風が周りの草むらを、ざわつかせる。


 不安と気まずさが織り成す、偶然訪れたわずかな沈黙の中で誰かが言う。それはまだ顔に幼さの残る、この盗賊たちのリーダーの弟であるラグだったかもしれない。


「そういうことならもし……今俺たちが……その邪神とか使徒とかってヤツに出会ったら……ヤベえってことか?」


それに応えたのは彼の兄、バグだ。


「邪神は殺された。使徒も徹底的に捜索されて殺されたんだ。残っているはずがない。いたとしたら眷属けんぞくの残党ぐらいなものだろ」


バグはいつの間にか焚き火の周りの、みんなが集まっている辺りまで来ていた。彼はみんなを見渡して言う。


「それぐらいなら俺たちで殺せるだろ?」


 彼の言葉は自信でできている。そしてその自信は、話を聞いていたみんなにも伝染していく。


「それだけじゃねえ! ひょっとしたら使徒だって殺せるかもしれない! だから……領主軍なんて恐れるに足りない!」


 暗くなる景色の中、彼の姿は焚き火に照らされて浮かび上がって見える。


 話を聞いていた者たちは、彼の自信がすっかり伝わって眷属も使徒も領主軍も殺せる気になってくる。一部の者は、今なら邪神も国王さえも殺せる気になっている。


「俺たちは決して! のけ者なんかじゃねえ!!」




“じいさん”何か遠い過去に忘れてきた熱いモノを思い出したのか泣いている。


「あんたはあの時の王だ!」



Crack!(バキッ!)


 盗賊の誰かが物音を聞く。


「なんか物音しなかったか?」


Crack! Crack!!(バキバキッ!!)


 その音は盗賊たちを取り囲む草むらの、1方向から鳴っている。おびえた盗賊が言う。


「あそこだっ!」


思っていたより、3倍は大きな声だ。

 それを聞いた他の盗賊たちの中で、さっきまであった自信が粉々に砕けて散っていく。バグだけはおびえず、同時に3つのことを考える。


 領主軍か?


 それならガナリは捕まった?


 でも領主軍にしては早すぎるだろ?



 しかし音はますます大きくなっていく。


Crack! Crack!! Crack!!!(バキバキバキッ!!!)



 “夜”が太陽にかかり始め薄暗くなりだした果てなき荒野で、開けた場所に集まった盗賊たちが警戒しながら、音の鳴った方に注目する。静まる彼らの中心で、たき火がバンッとはぜる。



 乾いた植物を押し分けながら、巨大な“それ”はゆっくりと姿を現し始める。


 まず現れたのは、頭部だ。ハチュウ類特有で、かつとても硬そうなウロコで覆われたそれは、大きな男の上半身くらいはある。頭の左右には、光る眼球と射すくめるような縦長の漆黒の瞳が。両目の間には、大きな角がそびえる。

 体を左右にうねりながら、頭をゆっくり、まっすぐ、揺らさずに持ち上げていく。


 頭を支えるのは、木の幹のように太い体。太く長い体がドンドン草間から現れては、その頭部をグングン持ち上げていく。


 そしてゆっくり、着実に、その巨体は近づいてくる。


 まだ離れて見ているはずの盗賊たちは、すでにそれを見上げ始めている。そして恐怖に負けた、彼らの内の誰かが叫ぶ。



「しっ、しっ、使徒だっ!!!」






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