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058 護衛依頼19

 


「……それはまさに、我らが聖女サイネヴィのように! ……あなたも彼女のことは、よくご存じでしょ?」


「……それは……」


その言葉は軍務卿ベナッジョ心に、ただ“ベナッジョ”と呼ばれていた日々の光景を呼び覚ます。




【ベナッジョの追憶ついおく



 今では邪神と呼ばれる者たちがこの国を支配していたとき、俺はそいつらに従って城壁を作り、橋を作り、神塔とかいうバカでかい物を作る工夫だった。


 父も祖父も、祖父の祖父も、ずっとそうしてきた。俺たちが石を積み上げるたびに、城壁は段々と高くなり厚くなっていった。


 俺に転機が訪れたのは、そんな日常が当たり前だと信じていた、ある日のことだ。同じ工夫にバルガさんという人物がいることを知った。そして彼を支えるコスキン師匠。そしてコスキン師匠に師事し、バルガさんの親友とも言えるデブリネさん。


 彼らはそんな“支配される当たり前”の中で、希望と呼べる何かを持っていた。俺はすぐに彼らと一緒に行動することにした。仲間は段々と集まった。それでも、この集団に何ができるのか? 俺たちはまだ、その答えを知らなかった。


 その答えを知っていたのは、サイネヴィという女性だった。


 彼女はこの世界で初めて邪神の勢力から独立した神殿教国というヒューマロイの国から送られてきた使者だった。

 サイネヴィさんは俺たちのところにチョクチョクやって来てはバルガさんに、ヒューマロイが独立し自由を勝ち取るべきだ、と説いた。しかしバルガさんは


「やだよ」


とムゲに断れば、サイネヴィさんは食い下がって、


「人々の助けを求める声が聞こえない? 彼らは搾取さくしゅされている弱者なの。毎日、労働を強制されながらその対価はほとんどないのと一緒」


バルガさんが黙ったままなので、サイネヴィさんはまっすぐにバルガさんを見つめながら話を続けた。


「奪われてるのは労働力だけじゃない。財産であったり、時間であったり、あるいは自由であったり。限られた人生の中で、代わりのない日々の中で、余裕を持って暮らし生きる人生を奪われているんだ。本当だったら素敵な誰かとすごす時間とか、本当なら成しとげたかった何かとか、本当なら建てれたかもしれないすき間風の入ってこない家とか。そういったかけがえのない、多くのモノを奪われているんだ。でも多くの人たちは、その事実に気がついていない。奪われていることに、忘れてしまっている。代々そうしてきたことで、それが当たり前だと思っている。だから、彼らには自由が必要なんだ! だから彼らを啓蒙けいもうしなければならない! 導いてやらなければならない! そして! 自由を勝ち取るための戦いを起こさなければならない! なぜなら、弱き者たちが、救いを求めているのだから!」


話しているうちに力が入ってきたサイネヴィさんは、最後の方になると1言ごとにバルガさんにつめ寄った。バルガさんは後ずさりしながら言う。


「……おっ……お前の言いたいことは、わかった。……で、でもよ、何で俺なんだ? なんで俺がそんな面倒臭えことしなきゃなんねえんだ? 他にも誰かいるだろ?」


「なんであなたを選んだか、と言われれば、それはあなたには人をひきつける魅力があるから」


「……そんなことねぇ……」


「そんなことある! 私は見た! あなたの周りには、いつも人が寄ってくる。仕事をしていれば工夫たちが、露店街を歩けば露天商たちが。そしてあのギハスロイたちでさえ、あなたに心を許すものもいる。あなたは一見、怖そうだけれども、すぐにみんなはあなたが素敵な人だとわかる。なぜなら……」


「待った、待った、待った!!」


止まらないサイネヴィに、バルガがストップをかけて言う。


「……ったく。……わかったよ!」


「わかった、って何が?」


「やればいいんだろ、やれば! その代わり、お前、ちゃんと手伝えよ」


サイネヴィはニッコリとホホえんで言った。


「もちろん! よろこんでっ!」


そうゆう彼女の笑顔は、ユリの花のように美しかった。




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