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056 護衛依頼17

   

 村人たちや領主軍が負傷者を助けたり壊れた残骸ざんがいをかたずける中、お金になりそうなモノを買いたたこうと物色していたヴォネラムは、男がハダリー隊に引きずられていくのを見る。


「おやおやおや! とうとう盗賊が捕まったようですね!」


そう言いながらヴォネラムは、彼らの向かう先を見て近くにたたずむジャンタープに言う。


「ジャンタープ、見てください。またおもしろそうなことが起こるかもしれませんよ! 行ってみましょう」


ジャンタープはめんどくさそうに、あるじの後ろをついていく。






 捕まった盗賊のガナリは、結局、ほとんど引きずられて村の広場につれてこられる。



「それで?」


 放り出されてはいつくばるガナリに、上から声をかけられる。


「お前の仲間がたちはどこにいる?」


 両脇にはガナリを引きずってきた2人の兵士が立ち、その周囲には兵士たちが取り囲んでいる。そしてそのさらに外周には、遠巻きに村人たちが様子をうかがっている。村人たちは、まるで世の中の盗賊が犯した罪はすべてこの男が原因だ、といった目つきで見ている。そして正面には、あの軍務卿と呼ばれる男が……。


 突然の衝撃しょうげきが、ガナリの左ホホに走り、彼は反対側に倒れされる。ガナリの左側にいたブーバーが殴ったからだ。その殴った人物が上から、大声をあびせる。


「てめえ、軍務卿の質問に答えろ!」


 ガナリは痛むホホを押さえて起き上がりながら思う。


 別に仲間たちをカバう義理も、道理もない。もともと行きずりの仲間たちだし、決してイイことをしてきたわけじゃない。だけど……こいつらにくっするのは、気に入らない。できるだけ抵抗してや……


 ガナリは今度は背中に衝撃を受け、うつ伏せになる。後ろから蹴られたのだ。ガナリは一瞬、呼吸ができなくなり、顔をゆがめる。


「黙ってねぇで、話せっていってんだよ!」


 押しつけられる言葉を聞きながら、ガナリは思う。これは思ったより早く、ダメかもな……。


 しかしそんな彼らに、制止の声がかかる。


「もう、いい」


 軍務卿ベナッジョだ。昔から川面かわもに沈んでいる石のように、とても静かな声だ。


「お前たち。下がっていろ」


そう言って彼は、剣を引き抜く。

 ガナリはこれには驚く。兵士たちは道案内が必要だから自分は殺されない。ただ痛めつけられるだけだ。そう思っていたからだ。


 軍務卿が剣を、かがんだガナリに突きつける。ガナリは自分に向けられた武骨ぶこつとがった金属を見ながら、こいつはオドシだ、と思うことにする。彼の顔の縁を、汗が流れる。

 彼はさらに、おどけて見せることにする。両手を前に出して


「……なあ、待ってくれよ……。俺は仲間たちがどこにいるか知らないん……だ……」


ガナリは、右手に違和感を感じる。指の先の方に、軽い何かが当たった感じだ。

 直後、痛みが爆発しだす。急速に知覚されていく痛みを感じながら、その痛みのモトに視線を向けていく。

 そして影が欠けている……。右手中指の第1関節と、両脇の指が同じ高さで消えている。ガナリはそれを認識すると、叫びながらそれを押さえてうずくまる。


 うずくまるガナリに、その指を切った人物が言う。それも、川面に沈み続ける石の冷たさで。


「仲間の居場所を教えろ。さもなければお前を、指のふしの長さごとにきざんでいってやる。……お前が知っていようと、いまいと構わずに、仲間の場所を言うまで、な」


『指の節の長さごとに刻む』とは何かの例えなのか? とか、本当に知らなかったらどうなる? とか、様々な疑問をガナリは浮かべる。

 しかし目の前に掲げられた剣と、地面に落ちた、さっきまで自分の一部だった肉片が、その答えを知らせている。


 ――目の前の男はマジで、お前を文字通り、切り刻むぞ――


 ガナリは体を刻まれていく痛みを想像して、強い恐怖を感じる。


 口が聞けなくなるほどに……


 ガナリは切られて流血する手を押さえながら、許しを求めようとするが声がでてこない。


 しかし軍務卿は、相手が恐れて声がでなくてもかまわない。言ったことを実行するだけだ。軍務卿が垂らしていた剣を振り上げる。


 と、ガナリは側頭部の辺りに温かみと、それから痛みを感じ始める。軍務卿がガナリの左耳を切ったのだ。元の持ち主のモモに乗って、地に落ちた肉片はだいたい指の1関節分。


 ガナリが新たな苦痛に、カスレたような声にならない悲鳴を上げる。そんなガナリに軍務卿が言う。


「どうだ? 何か話したくなったか?」


 ガナリは痛みに耐えるのに必死で、応える余裕はない。それにもかかわらず軍務卿がまた、剣を振り上げたとき


「ちょっと待って!」


と、やっぱりこの状況で、あの少女がまた軍務卿を静止する。

 これに一番あわてたのは、さすがにもうしないだろう、と高をくくっていたハダリー隊のメンバーたちだ。「バカヤロウ!」とか「アイツを取り押さえろ!」とか「何やってんだ、バカ女!」とか口々にいいながら、彼女の口や体を取り押さえる。

 アイネはそれを振り払いながらサケぶ。


「こんなこと……こんなこと……盗賊をしたからってカワイソすぎるよ!」


しかしアイネが心の内から叫んでも、彼女を取り押さえる手は止まらない。右腕をマレが、左腕をブーバーが、そして口をカンパが押さえる。これ以上、余計なことを言わないように口を押さえたカンパは思う。


 なんでコイツは、弱いヤツばっかり助けたがるんだ? 弱いヤツなんか、ほうっておけばいいのに……。


 そう思いながらもカンパは、素直に必死になれる彼女の表情に、心の中の何かが動かされている気がしてくる。そしてそれがまた、彼をイラダたせる。少年は、彼女の口を押さえる手に力を込める。


 ようやく騒ぎが収まりかけた頃、隊長のハダリーが彼らに命ずる。


「そいつを向こう側に連れて行け! 水でも浴びせて、頭を冷やさせろ!」


だがそれを止める者がいる。ハダリー隊長を止められる者。それは軍務卿だ。


「待て」


それは静かな静止だ。静かだが、絶対の静止だ。暴れる少女を連れて行こうとしたハダリー隊たちは手を止める。


「お前……また私の剣を受けてみるか?」


軍務卿ベナッジョのその問いに対し、アイネは思う。


 え、また止めればいいの?


そこに軍務卿が追加で言う。


「ただし、言っておく。今度の剣は……先ほどとは違うぞ」


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