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053 護衛依頼14

    

 カンパは、盗賊との距離をつめている。残すところ10と数歩。


 しかしカンパは、盗賊が弓の向きを変えるのを見る。そしてその先には、ベーヤとアイネがいる。


 残り10歩ばかり。でもそれは今、この瞬間においては絶対的なへだたりだ。


 このときカンパの中で、とある過去と強い思いがフラッシュしてくる。


 その過去とは階段状の巨大建築物――神塔の上で殺されようとする女性の姿……


 強い思いとは、もう親しい人を目の前で失いたくはないという感情……


 しかし矢は放たれ


 放物線を描き飛んでいく




 カンパは叫んでいた


「ベーヤ! アイネ! 上だ!」



 周囲を警戒しながら慎重に進んでいたベーヤは


「わかっとる!」


と応えながら余裕を持って盾を掲げ、飛んでくる矢を見上げる。広がる青空に小さく細長い影をとらえる。

 ただそれは、見ている彼の頭を通り越しそうだ。そして少し左にずれていて……。


 ベーヤは力いっぱい驚愕きょうがくの顔で、右後を振り返る。


 そこには状況を把握しきれていないで、生い茂る草と格闘しながら進むアイネの姿が……


「嬢ちゃんっ! 矢が飛んでくるぞっ!」


「……へ?」


矢は勢いそのまま、放物線の頂点を通りすぎて、落下の加速を得ながらアイネへと直進する。


「アイネ! 上だって言ってんだろっ!!」


――彼女の名前を呼びながら、必要最小限の情報をサケぶのは少年の声――


アイネは勢いよく頭を持ち上げ、見上げる。真上を……。


落下の加速は矢の勢いをどんどんと増す。


――このとき矢の先端から、少女のヒタイまで10と数歩――


「上すぎだバカ女!」


 アイネは目的の近接する物体を探すために比較的ゆっくりと、しかし遅すぎない速度で視線を落としていく。


そうしながらアイネは思う。アイツのあの言い方、きっとものすごく怖い顔をしているだろうな。そしてきっとあとでなんか言われるはず……


 あれか!


アイネは草はらと青空の景色を背景に飛来する黒い影を見つける。


 めっちゃちか……


――その距離、残り5歩を切り始めていて――


 アイネはそれらを認識しながらも、体の重心を動かし始めている。後方の、やや右側へと。同時に、右手を持ち上げ始める。


――残りの距離は3歩を切る――


 アイネは重心移動の他に上体にひねりを加える。右手はさらに持ち上がる。


――残り1.5歩――


 アイネの体は矢の軌道からそれ、あげた手は顔の高さまで上がっている。


――残り0.5歩――


 アイネは勢いのまま上体をひねりながら、持ち上げた手を広げ……


……矢に伸ばし……


……矢をつかみ……


そのまま回転して、矢の勢いを殺す。



――矢は、アイネの手に握られている――




 このアイネの1連の動きの間、世界は時を進めることを忘れたようだ。

 なぜならベーヤは驚きの表情をさらなる驚きできざんで固まっていたし、カンパも歩みを止めて見ていた。そして盗賊の男でさえ、追撃するのも逃げるのも忘れてその女の子を見ていた。




 アイネは回転して止まる。


 静止の世界からは抜け出して、最初に行動したのはベーヤだ。彼はアイネに何か言ってやろうと思いつつも、すぐに最初の目的を思い出す。


「カンパ! そいつを捕まえろ!」



 呼ばれたカンパはハッとするが、すぐに行動し始める。すなわち、盗賊の方へと進みだす。

 盗賊の方もこれに気がつき、即、弓に新たな矢をつがえツルを引きながら矢の先を相手へと持ち上げる。

 しかし相手の少年は素早く、また右に左にランダムに動くので狙いが定まらない。


 そして最後の数歩、少年が視界から消えた……と盗賊は思ったが、少年は姿勢を低くして踏み込んだだけだ。


 気がついた盗賊は矢の先を下に向け、即座にツルをつかむ指の力を抜いていく。


 躊躇ちゅうちょなく突進するカンパの片手剣の先が、その矢先へと伸びる。


 とっさに剣先を矢の先に当てることは、並のことではない。毎日のように鍛錬たんれんを欠かさなかったカンパだからできることだ。


 矢は射出される前にその向きを変えられて、カンパの左側に飛んで行く。そして、剣の先は盗賊のノドへと突きつけられる。

 盗賊が弓を落としながら両手を上げて言う。


「……降参だ……」


「そのままさがれ」


カンパは盗賊を後ろに下げさせると、落ちていた弓を遠くの方にけ飛ばす。





 カンパが盗賊に剣を突きつけていると、ベーヤとアイネが草を踏みわけながらやってくる。


 カンパがそちらを見ずに言う。


「バカ女! ぼーっとしてんじゃねぇよ! もう少しで串刺しになるところだったじゃねえか!」


 串刺しの元凶になりそうになった矢をクルクル回しながら歩いてきたアイネは、それを聞いて驚いた顔をする。


「えっ? カンパはボクのこと、心配してくれたの?」


「……心配っていうか……その……なんだ……あれだよ、あれ」


アイネは落ちていた弓を拾いながら聞く。


「あれ?」


「だから……仲間だからだろ……。ん~~~なことは何でもいいんだよ! アブないことすんなっつってんの!!」


アイネは拾った弓を伸ばしたりして具合を確かめながら、何かを考えている表情で言う。


「……ということは……」


アイネは視線を弓からカンパに向けて続ける。


「……カンパはボクのことを仲間として心配してくれたってことか。ふーん、あのカンパがボクのことをね……」


「だからちげーって! あぶねーことすんなって言っ……」


カンパがアイネの方を向いて言い訳しようとしたところで、ベーヤが割って入る。


「よそ見をするなカンパ! あとお前は嬢ちゃんのことばっかり言うが、お前もたいがいアブなっかしいんだぞ。1人で追いかけて行きやがって。待ち伏せのワナだったらどうするつもりだ!」


「オレは大丈夫……」






【アイネ】

 あのムチャクチャなカンパでさえ、ボクのことを仲間として心配してくれている。


 それはボクにとって、とても意外なことだった。


 なぜならボクはこの人たちのことを仲間だとは思っていないからだ。そう、ボクにはその資格がない。ボクはこの人たちをだましているのだから……。



 目の前でカンパとベーヤが、言い争いを続けている。ただボクにはそれが、どこだか遠い場所での……例えば隣の国の向こう側あたりでのデキゴトのように思えてしまう……。




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