052 護衛依頼13
狩人クズレの盗賊ガナリは、自分たちで襲撃した村を見渡せるような、少し小高くなっている草の茂みの中に身を潜めていた。盗賊たちのリーダー、バグから襲撃した村を見張っておくように言われたからだ。みんなが酒を飲んだりしている中での見張り役ということで損な役回りだったが、バグからは分け前に色をつけると約束されたので引き受けた。
彼は茂みの中にこもってこれといった変化のない村の様子を見ていたが、やがて驚くことになった。
バグが可能性の1つとして言っていた通り、領主軍が来たからだ。それもだいぶ早くに。
少し高い草の陰から村を見ていると、何人かの兵士が村の中から出てきて辺りを捜索しだした。距離も遠かったので、その兵士たちが何をするか見極めてから報告に行けばいい、と盗賊は思い、用心深く身を潜めていた。
彼らは2つに分かれて、1つは村の向こう側へ、そしてもう1つはこちらへと歩いてきた。しかし彼らは村の周囲を回っているらしく、盗賊ガナリはそのままいけば潜んでいることにする。
しばらく見ていると、何かを見つけたらしい彼らは集まっていた。
かと思っていると、1人の少女がこちらの方向を指して腕を伸ばしている。
盗賊は一瞬、ドキリッとした。
見つかった? そんなバカな……シドン川の川幅くらい離れているんだぞ。絶対に見つかりっこない。きっと別の何かを見つけただけだ。
それでも彼は身をできる限り低くして、草が密集している間から用心ぶかく見守った。
こちらの方向を指した少女は、まだ腕を上げ続けているばかりか仲間たちに何かを伝えている。その状況を認めて、盗賊は思った。
そんなバカな……見つかったのか? 念のためズラかるか。幸いに距離は十分すぎるほどに離れている。たとえ走ってきても、追いつけはしないだろう。
そう思ってゆっくりと下がりだした。しかしその時、彼は目にする。兵士たちの仲間のうちの少年らしき人物が、ものすごい勢いで1直線にこちらに向かってくるのを。
かなり……はやい!
盗賊の男は、急いで撤退することにすると、悪態をつきながら動きを1段階早める。
「くそっ! 遠くから見てりゃ、絶対に見つからないって言われたのによ!」
姿勢を低くしたまま草の間を進み、丘の頂きを越えて相手から見通せなくなったところで一気に駆け出す。
こっちは草に隠れていたんだ。俺の存在を確信した訳じゃない。だからこのまま隠れれば、あきらめて帰るはず……
盗賊はしばらく行ったところで止まって草かげに隠れる。今度はさらに慎重に、草が何重にも折り重なった隙間から様子を見る。
すぐに最初にかけてきたあの少年が丘の上に立つのが見える。少年は丘の上に立つと、顔を右に左に巡らせて自分がどこに向かうべきかを探しているようだ。それを見て盗賊は思う。
ずいぶん早かったが、迷っているようだ! こっちは何度も隠れてエモノを狩ってきたんだ。そう簡単に見つかってたまるか!
少年はそれでも丘を降りてくる。盗賊が隠れている場所とは、ズレた方向へと。
それでいい。そのまま見当違いの場所を探していろ!
さらに少したつと、少年の仲間の男がやって来るのを盗賊は見る。それなりの歳の男が、先行している少年に呼びかける。
「カンパ! このバカ野郎! ワナだったらどうすんだ!?」
「そん時は逆にやり返してやるっ!!」
それなりの歳の男は、遠くから見ても明らかに落胆している様子だ。それでもなんとか持ち返して、会話を続ける。
「……それでいたのか?」
「ダメだ! 見つからない! そもそも盗賊の姿を見てない! 本当にいたのか?」
それに対して、それなりの歳の男は両手を上げて肩をすくめる。しかしさらに遅れてきた少女が、丘の上から下に広がる景色を1目見回して言う。
「カンパ! そっちじゃない! こっち!」
盗賊の男は生い茂る草が深く重なる隙間から目だけをのぞかせて、その少女の行動を見ていて信じられない気持ちになる。
なんでこれだけ広い景色の中で、すぐに俺の居場所がばれるんだ?
盗賊の男は、草を踏み分けて近づいてくる音で、少年の兵士が近づいてくるのを理解する。また丘の上にいたそれなりの歳の男と少女も斜面をくだり、近づいてくるのを視認する。
このままでは、まずいな……
盗賊の男はツルを張った弓を自分の体に通していたが、細心の注意を払って物音を立てないようにそれを取り外す。取り外すと矢を矢筒から2本取り出し、1本の先端を右手の小指と薬指で握り、もう1本を弓につがえる。
盗賊の男はそのままじっとして、聞き耳を立てる。離れた位置から
「カンパ、あせる必要はない。ワシらが行くまで待っていろっ!」
といういらただしげな呼びかけが聞こえる。盗賊は思う。
これではない。もっと近くの……
盗賊がさらに耳をすませていると、隠しているようで隠しきれていない草を踏み分けて進む音が聞こえてくる。
これだ……
盗賊は姿勢を低くしたまま無音で、矢をつがえた弓を引きしぼる。腕に強い反発を感じる。
さらに待つことしばし。
盗賊はさらに弓を引き絞りながら、おもむろに立ち上がる。
開ける視界。
そして目標となる少年の姿。
その距離、25歩。
盗賊はそれらを認識するとほぼ同時に、緊張しているツルを押さえる指の力を抜く。それはこの盗賊が、今までにいく度も獲物を狩る時にしてきた行為。
抑えを失ったツルは鋭く風を切る音とともに、矢を弾き飛ばす。
Twang!(ビーンッ!)
弓を保持する左手に弾性の反動が残るころ、盗賊の男は
当たった
と確信する。
Bamng
が、盗賊は見たものは進んでくる少年の姿と、彼が前面に掲げた木の丸い盾と、それに突き刺さった矢の光景。そして少年が盾とは反対の手で持つ、殺傷能力を持った武器。
盗賊は、瞬時に思う。
もう1本……
そう思いながら右手に持っていた矢をつがえ、引きしぼる。しかし矢の延長線上にいる少年は盾を前面に構え、いつでも左右に飛べるように慎重に歩いている。
盗賊は
それならば……
と、自分の不利を少なくするため1人でも多く削ろうとターゲットを変える。向きを変えた弓の先にあるのは、サンゴ色の髪のあどけない顔をした少女。盗賊は思う。
彼女が持っている剣は両手で持つタイプの大きな剣で、盾を持っていない……
盗賊は彼女のやや上方に狙いをつけたまま、弓の最後の余力を引きしぼり……放つ。




