表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/59

048 護衛依頼09


 軍務卿の後ろの方では、周囲の調査に向かおうとしていたハダリー隊が足止めを食らっている。

 理由はもちろん、何かに気づいた向こう見ずなサンゴ色の髪の少女が「ちょっといってくる」と言って、あの軍務卿にケンカを売っているからだ。


 いつもは冷静な隊長ハダリーが、強い口調でカンパに言う。


「カンパ! 行ってあいつを引きずってこい!」


「はっ? なんでオレが……」


カンパがそうふてくされると、ハダリーはプルプルしだし、ベーヤが「さっさと行かんかっ!」とどなったので、ヤバッと思いつつカンパはアイネの方へと歩きだす。


「しっかりと手綱を握ってないからこんなことになるんだよ!」


状況が悪化していることに気づいたカンパは、背後から聞こえるブーバーのヤジを置き去りにして、疾走しっそうしていく。






「エラい人は難しいことをイロイロと考えているんだろうけど……よくないよ。こういうの」


「……だったらどうする? その老人のために、私の剣を受け止めてみるか?」


「……いいよ。あなたの剣は朝見たし」


軍務卿ベナッジョは厳しい顔のままだ。それでもアイネには、それが笑ったように見えた気がする。


「あれを見てその自信、大したものだ。もっとも、それがただのハッタリでなければの話だが」


軍務卿はそう言いながら、アイネに近づく。剣は手に握ったまま、自然に下ろしている。だがアイネは知っている。もちろんアイネだけではなく、朝の軍務卿とカンパの試合を見た者はみな、彼がそのままの体勢で不意の一撃を放てることを知っている。

 そして軍務卿はすでに攻撃可能と思われる範囲まで、アイネに近づいていて……剣を振り始める。




【カンパ】

 初めは隊長に言われて嫌々、でも途中からはその場の雰囲気がガチなことに気がついて、急いで向かった。


 でも軍務卿は朝オレと戦ったときのように、剣を自然におろした状態だ。ただ朝と違うのは、彼が持っている剣は模擬戦用の木剣ではなく、人を斬るための真剣であるということ。


 そしてその剣は、目の前の少女に対して振られる。


 圧倒的に届かない、何もつかめない手が、思わず伸びる。



 そしてその瞬間に見えたのは……



 軍務卿の鋭い一振り。



 ただその一振りは、思っていたほどは鋭くない一振りだ。普通の兵士の剣戟けんげきよりは十分に速い一撃だが、朝に自分が対峙たいじした時に感じたほどではない。


 それでも何か違和感がある。普通の人が剣を振る時のように振りかぶってから降るのではなく、最短距離を通って、力を込めているようには感じられない一振りだ。

 ひょっとしたらソレが、オレが朝の試合で反応できなかった理由……。


 そしてその一振りは、正面の少女が掲げた剣によって受け止められている。



 ……なんでお前がそれを、防げるんだよ……






【アイネ】


 なんとか……間に合った…


 太い腕によって振られた剣と、ボクの首との間に、自分の両手剣を差し挟むことができた。そして両手剣は、城壁さえ砕きそうな強い衝撃をはじいた。


 第3者として見るのと、こうして対峙して見るのでは、印象が全く違う。カンパが「全く見えなかった」、と言っていたのもよくわかる。



 そのカンパの姿が、軍務卿の背後にちらりと見える。さっきまで緊張していたせいか、それだけで少し安心できる。ただその少年の表情が暗い気がする。こちらを見つめてくるその目つきも、心なしか鋭い。



「ほう……」


カンパについて確かめる間もなく、目の前の人物からカンタンがこぼれる。


「……これを防ぐか……」


アイネの前に位置する人物……。それはもちろんん軍務卿だ。


「先ほど潜んでいた“赤い人”を見つけたことといい、目がいいんだな」


軍務卿は相変わらず厳しい表情のままだ。しかし普段と違ってなぜか、口がよく回る。


「それだけではない、か。反応も素早い」


アイネは、軍務卿は厳しい顔をしているが喜んでいるのではないか、という気がしてくる。


「ただ1つ欠点を指摘するとすれば、剣は剣の腹で受けるものではない」


そう言って軍務卿は自分の振った剣を構えたまま、片方の手でアイネの剣の傾きを直す。そして言う。


「剣の腹……わかり易くいうと平な方で攻撃を受けていると、剣が折れてしまうぞ」


「……ぁぃ」


アイネは萎縮いしゅくした生徒のように返事する。それを聞き届けた軍務卿は1つ頷くと、


「お前のその受けに免じて……」


と剣を収めながら、アイネの顔を見て言う。


「今回の件は許す」


そして体を返しながらつぶやく。


「……似すぎているんだ。あの人に……」


「えっ? なんて……」


「気にするな。ただの……。……ただの陽炎かげろうだ……」


垣間かいま見えた軍務卿の顔はやはり厳しいままだ。ただアイネには、少しさびしいような印象だ。


 軍務卿ベナッジョが、すたれた大麦畑のようなさびしさを残して、離れていく。恐らくは領主軍が村の復旧するのを監督するためだ。


 入れかわるように騒がしいヤツがやって来るなり、ドナり散らす。というよりはむしろ、ドナり散らしながらやって来る。


「なにやってんだよオマエッ!!」


アイネはあまりのうるささに、両方の耳をふさぎながら言う。


「……だって……」


「勝手なこと、しってんじゃねーよ!! しかももう少しで殺されるとこだったじゃねーか!」


「……だって、おじいさんが危なかったんだもん」


「どこにいるんだよ、そのじいさん」


言われてアイネは振り返る。そこには誰もいなかった。落ち着けば、面倒事は避けるタイプの老人だったようだ。

 アイネが言う。


「えっ? そんなー! せっかく助けてあげたのに……」


「どうせ助けたってそんなもんなんだよ。そもそもあのじーさん、弱いくせにツッカかるのがいけねーんだよ。お前もお前で、オン着せがましいことしてんじゃねーよ」


「しようがないじゃん、あのおじさん殺されそうだったし……。それに、見たでしょ? ボク、軍務卿の剣を防いだよ」


「……まあ……そうだな……。だけどよ、ヘタすりゃ自分が殺されてたかもしれないんだから、それで死んでたら人を助ける意味ないじゃないか」


「? そうかな?」


「そうだろ。……それにもう見たくないんだ……」


その言葉の続きは、カンパの心の中でのみつづられる。



 ……もう目の前で女が殺されるのを見たくないんだ……



そんなカンパに、外から声が投げかけられる。


「何?」


「ん、なんでもねーよ」


続けてカンパがボソッと言う。


「……ただ……アイツを倒すのはオレだ……」


「えっ?」


「……なんでもねえって……」



 話しながらアイネとカンパは、ハダリー隊の方へと歩いていく。





 少し離れた場所で、奴隷商人ヴォネラムがその護衛ジャンタープに話しかける。


「見ましたか? あの娘、あの剣を防ぎましたよ!」


「……そうだな……」


ジャンタープは気のない返信を返す。しかしその目は言葉の素っ気なさとは裏腹に、ある種の熱を帯びている。ジャンタープの反応の悪さを一々気にしないで、ヴォネラムが言う。


「あの娘を手放したのは、間違いだったのでしょうか? んー、おしいことをしましたねぇ」


ジャンタープがめずらしく、まともな反応する。


「アイツがあんなに剣を使えるってわかんなかったんだ。しょうがねーだろ」


「それもそうなんですが……商人として、商品の真価を見抜けなかったことがくやまれるのですよ。まあ、いいでしょう。もう少し大人しくしておいて、逃した魚の大きさを見極めるとしましょうか」


そう言って奴隷商人ヴォネラムは、村を出ていくハダリー隊を見送りながらニヤリと笑う。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ