047 護衛依頼08
【?】
暖かなヒカリ
安心できるバショ
そしてネている愛おしいワガ子
ワレと同じ4つのアシ
ワレと同じキバ
すべてが小さく、愛おしく
コの子が起きる前にエモノをとらなければ……
立ち上がり離れようとして、振り返る
最近、近くで嫌なニオイを感じたが、ワガ子を残していって大丈夫だろうか?
愛おしい存在は、木の根元の巣で無邪気な寝顔で眠っている
ここなら大丈夫だろう
カンタンに見つけられるバショではない
ワレは歩き出す
アセりがアシを早める
【】
被害にあった村人ブグロの案内で、領主軍と王国軍の混成による盗賊討伐軍はその村にたどり着いた。
到着するだいぶ手前からそのくすぶる煙が、もっと近づいてからは燃焼の残滓と死の香りが指標となっていた。
村の中に入ると、焼けたニオいに加えて死の匂いが強烈にこびりついてくる。
いくつかの家は、燃やされていた。葦でできた家はよく燃えたらしく、わずかな燃えカスと黒く変色した地面しか残っていなかった。
村のあちこちに、人型のものが転がる。いくつかはまだ生命のあるもので、多くは生命のなくなった者たちだ。生命のある者たちがなぜ地面に転がっているかというと、体や心に大きな傷を負っているからだ。
村の中で聞こえる泣き声はない。それらはすでに最後の1滴まで搾り出され、空虚しか残っていなかった。
討伐隊の中から
「オレの村が……」
と言う声が上がる。この村が盗賊に襲われた時に逃げ出し、領主の町まで伝えにきたブグロだ。彼は彼を支える何かを失ったようだ。彼はそのまま、その場に座り込んでしまう。
神殿教神官ヴェイザがこの景色を見て、
「なんということでしょう。こんなこと、許されていいはずがありません……」
と言うと、奴隷商人ヴォネラムが
「まったく、ひどいものです」
と、気持ちが入っているかわからない言葉で追随する。軍務卿ベナッジョが
「国王の民にこのような仕打ち……許すわけにはいかない」
と言って拳を固く握りしめる。
アイネは目の前の光景にぼう然となって、立ち尽くしている。そして一言だけ言う。
「こんなの……ひどい」
それに対して、カンパが言う。
「盗賊が来たんだ。こんなもんだ」
アイネは反抗するかのように返す。
「それでも……ひどい!」
カンパはそれ以上、何も返さない。
領主軍の兵士たちの多くは、目の前の現実に言葉を失くしてしまったようだ。ただ、その中の1人レクセイの反応は少し違う。
もっと領主軍がしっかりしていれば……。
そう、切実に思う。
領主軍や王国軍が来たのを見て、村人たちは初めは遠巻きに見ていた。警戒するような目つきで見ていたり、隠れていたり。
それでも攻撃してくる様子はなく味方のようだとわかると、村人たちは少しずつ近づいてきだす。
ホホにあざを作った老婆が「クワを突きつけられ脅されてコブタを持っていかれちまったよ!」とうったかと思えば、体の大きな男が「抵抗したら3人に袋叩きにされたんだ」と泣きながら言ってくる。赤子に止まってしまった乳をやりながら女が「旦那を殴り殺された! 子供もいるのにどうやって暮らしていけばいいのか」と敵に対するのように言ってきたかと思えば、年老いた男が「うちの娘が……うちの娘が……」とずっと繰り返している。
ヴェイザが自然な動きで、ゆっくりと前に進み出ると
「私がお話をうかがいましょう。軍務卿、よろしいでしょう?」
と言って軍務卿ベナッジョにたずねる。軍務卿は
「ええ、とても助かります」
と言ってから、領主軍と王国軍の兵士たちに指示を始める。
「領主軍の兵士は村の被害の確認と応急的な救援を行え。ゴドリー隊とハダリー隊は村の付近を捜索し、盗賊たちの痕跡を探せ。何か見つけても深追いはするな。盗賊の討伐は、討伐隊全軍で行う。何か質問は?」
各隊から質問の声は上がらないのを見ると、軍務卿は「行け!」と号令を出す。
ブグロは何を取られて何を取られていないのかを確認しに、自分の家に戻ることにする。
それぞれの隊がそれぞれの活動に向かっていくと、1人の老人が軍務卿に向かってくる。そして小声でも十分に会話ができる距離まで近づくと大声で話し出す。
「なんで今ごろ来たんだっ!」
周囲にいた人たちが、何ごとかと振り返る。だがその老人は周囲の反応など気にせずに続ける。
「今ごろ来たってわしの家族は殺されてしまったわっ!」
これに対して軍務卿が前に進み出て、答える。
「……それは申し訳ない。王の民たちをムダに死なせてしまった」
周囲の人々は位の高そうな軍人が素直に謝ったことが意外に思った。だが老人はさらに怒りを込めて言う。
「王? 王だと? 王様は高い税を取るだけで、わしらを守ってくれやしないじゃないか!」
この言葉には軍務卿は表情を厳しくする。
「国王を侮辱することは許さん」
軍務卿ベナッジョは腰の剣に手を伸ばしながら、老人に近づく。先程まで威勢のよかった老人も、2、3歩後ずさりする。周囲に集まっていた村人たちも、体が危険を拒むようにじりじり後ずさる。
老人がおびえながら言う。
「オドシか! オドシてワシら農民を黙らせようってコンタンか!」
さらに近づく軍務卿は、一切のためらいなく剣を引き抜き、そして言う。
「オドシではない。我らが王をあざ笑う者に、容赦はしない」
「ま、まってくれ! ちと言いすぎた! そんなつもりじゃなかったんだ」
言い訳する老人は、もうほとんど泣き出している。そんな老人に、軍務卿は最後の言葉を投げる。
「言い訳はいらない。覚悟しろ」
軍務響が剣を振り上げる。老人は力が抜けて立っていられなくなっている。
そのとき、軍務卿の背後からかけよってくる人物がいる。その者は軍務卿の横を駆け抜けて、軍務卿と老人の間に入っていく。サンゴ色の髪をたゆませて。
そして割り入った格好のまま、軍務卿をニラむ。
軍務卿は厳しい表情のまま、小さな乱入者に問う。
「お前は……。……どういうつもりだ?」
アイネも負けじと目に力を込めながら、軍務卿ベナッジョに言う。
「エラい人は難しいことをイロイロと考えているんだろうけど……よくないよ。こういうの」
見返す軍務卿ベナッジョの目つきは、極寒の地の氷のクレバスのように厳しく、そして冷徹だ。
少し離れたところからアイネの様子を見ていたヴォネラムは、ジャンタープに話しかける。
「おやおやおやっ! これはこれはっ! ジャンタープ、見てください。面白そうなことが始まりそうですよ」
この村で起こっている何事にも興味を示さないで突っ立っていたジャンタープは、自分が何者かやっと思い出したように反応する。
「あっ? ああ、本当だ。面白いことになりそうだ」
「そうでしょう、そうでしょう」
そう言いながら2人は、助けることもなく観戦することにしたようだ。




