045 護衛依頼06
町の様子を見に行っていたヴェイザが戻ってきてカンパたちと合流し、まだ何が起こったのかわかっていない、という状況を聞いている。一緒に町にくりだしていた魔術師の弟子サジュも、無言で話を聞いている。
軍務卿の元に、ボイニニンガ領主が歩いてくる。先ほどの奴隷を買った男や傷ついた男、そしてヴォネラムも一緒だ。
ボイニニンガ領主は近づいてくると、軍務卿に話し出す。本当は話したくないが色々見られているし仕方なく、といった表情だ。
「……軍務卿殿、実はですね……その……少々厄介なことが」
軍務卿ベナッジョは不動のまま言う。
「何だ?」
「……恥ずかしながら、我が領土に盗賊が出ました。これから討伐隊を編成して、対処に向かわせます」
『盗賊』という言葉を聞いて、軍務卿は顔の表情を少しも変えない。
ただゴドリー隊の隊長ゴドリーは盗賊を打ち殺したときの手柄を想像し、ハダリー隊の隊長ハダリーはそれを計算する。
アイネは「へー、盗賊って本当にいるんだ」などと、嬉しいような声でつぶやいている。
カンパは話を聞いているようで、聞いていないようでもある。
領主の報告に、軍務卿がたずねる。
「盗賊の規模と武具などの様子はどうなんだ?」
「ええっと……」
ボイニニンガ領主が言いよどむ。それもそのはず、彼は事件現場を知らない。先ほど奴隷を買っていた男が前に進みでて言う。
「私は被害のあった村で村長補佐をしている者です」
その身なりは多少の豊かさを感じさせるが、顔を鉛みたいな色にしてロウバイしている。
「私も盗賊が来たところには居合わせていないのですが、このブグロが村にいました。 おい、ブグロ、盗賊に襲われたときのことをお話ししろ」
村長補佐がそう言って呼びかけたのは貧しい身なりの農夫で、頭髪から左ほほにかけて流れた血が固まり、左肩から腕にかけても同じようなドス黒い色彩がうかがえる。
ブグロと呼ばれた男は、その傷ついた左腕をかばいながら口を開く。
「っへ! 俺ですかい!?」
村長補佐がたしなめる。
「他に盗賊に襲われた状況を知っているヤツがいるのか? なんでもいいから見たことを話せ!」
「……あい……わかりあした……」
ブグロは少しの間沈黙する。思い出すのに時間がかかるようだ。1ヶ月前にしまったものを探し出すように。
「……あいつら……いきなりきたんです。何人だったかな。10人以上はいたんだ……」
【数時間前、ある村】
「本当にこれでよかったのかな、バグ?」
「シカタねーだろ、ラグ」
並んで話すのは、2人の若い男だった。その前には傷ついて倒れる無数の男たちやうずくまる女、立ちつくしてむせび泣く子供たちがいた。
「じゃなきゃ……死んでいたの俺たちだ」
「……そうだけどさぁ、バグ……」
並んで話す2人の左前方には、火がかけられ燃え上がる葦の家があった。
「……ここまでやる必要あったか?」
燃え上がった家の明かりが、村の惨状を照らし出した。
「いいんだ!」
バグは弟の方へ顔を向けてさらに言った。
「じゃなきゃ、餓えて死んでいたのは俺たちだ! そしたら……そしたらオレたちは、何のために生きているのかわからねえ!」
後ろから声がかけられる。
「おかしら!」
バグが振り向くと、そこには仲間になった男が身なりは貧しく薄汚れてはいたが、若い女の腕と首を捕まえていた。
「この女、好きにしていいんだよな?」
ハンはいらただしげに言葉を投げつけた。
「手短に済ませろ!」
ハンは笑う男の声と絶望の悲鳴を置き去りにして前に向き直り、略奪されつくした村を見ながら言った。
「俺たちは今まで、ずっと奪われてきたんだ。だから今度は……」
途切れた言葉に、カンは兄の方を見たところで、言葉は続けられた。
「今度は俺たちが奪う番だ」
その言葉は葦の家がパチパチと燃える音を背景に、悲しい顔をする弟の耳まで届いた。
【】
軍人のように的確な報告に慣れていない村人から、ようやく欲しい情報を聞き出した軍務卿ベナッジョはすぐに盗賊の討伐隊を編成する。
編成はハダリー隊、ゴドリー隊、それに領主軍の6人隊を2個、合計24人の4個6人隊を主体とする。領主に領主軍で最も強いとお墨付きをもらっているレクセイもここに含まれている。
そこにアイネとサジュの2人が加わり、彼女たちの護衛兼討伐隊の指揮官として軍務卿ベナッジョが加わり、合計27名。
さらに奴隷商人ヴォネラムが、
「盗賊というのは我々商人の敵です。絶対に許せませんね」
と言って護衛のジャンタープと一緒の参加を主張し、その上神殿教神官のヴェイザが、
「傷ついた人がいるというのならば、そこにはきっと神の癒しが必要となるはずです」
とカタクなに言って同行を許可され、討伐隊は総勢30人プラス荷物を運ぶ奴隷たちとその護衛となる。
出発前、話す機会があったカンパがヴェイザに、
「なんでお前まで来るんだよ。戦えるアイネとかサナならまだ大丈夫だろうけど、お前は戦えないだろ」
ヴェイザは
「これでも戦いのたしなみはあるので、心配には及びません。そこに神を求める人々がいるならば、救いの手を運ぶのが私たちの務めなのです」
と返し、優しい目でカンパを見て
「心配してくれるんですか? カンパは優しいんですね」
と言う。カンパ照れくさそうに、
「そ……んなんじゃねーよ」
と言って顔を背ける。
結局のところ、軍務卿ベナッジョが逃げてきた村人ブグロから聞き出したことは、盗賊は農具などで武装した男たちが20人ほど。ただし他の場所にも盗賊がいたかもしれないが、それはわからない。
そして盗賊たちは村人たちが寝静まったころ、村に侵入してきたらしいということ。
家々は片っ端から次々と、侵入してきた盗賊たちがなだれ込み、税を納めて残った命をつなぐための食料や、貧しい農民たちにはそうそう買えるものではない服など、貴重なものが奪われていった。
抵抗する者や不平を言う者は、年寄りだろうが女だろうがたちまちなぶり殺しにされたそうだ。
ブグロという村人は、賊が侵入してきたのとは反対側であったため騒ぎに気づいて起きだし、気づかれないように物見やぐらから塀を乗り越えて村を抜け出してきた。頭の怪我は塀を乗り越えて落ちたときにできたもので、腕の傷は暗い中を逃げているうちに植物か何かに引っかけてできた傷らしい。
こうして準備を整えた彼らは、ボイニニンガ領都の門を後にする。




