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030 Bird's Attack 12

  

 カンパは、空中を、飛んでいる。


 頭を左上へとね上げたオオニククイドリの姿が、少しずつ遠ざかっていくのをカンパは見る。それも、どうすることもできない浮遊の感覚の中で。


 やがてその恐怖に似た感覚は、カンパの体を加速度定期的に、地面へと引っ張る感覚へと変化しだす。


 迫る地面に、両足で着地。


 地面の固さが、脚、そして身体、内臓ないぞうへと同時に伝わる。

 殺し切れない勢いが、カンパを背中から地面に叩きつけたその瞬間、知覚できない痛みがカンパの意識を奪う。


 それでも殺し切れない勢い。


 カンパはもう1回転して、力なく仰向けに倒れて伏せる。


 後頭部と背中に感じる、地面の固さ。


 そして訪れ始める全身の痛み。


 カンパは思わずうめき声を上げようとするが、痛みがそれをさえぎる。



 オオニククイドリは、首にまとわりつく害虫をようやく振り払うことができて、暴れるのをやめる。

 ただその見た目は、傷ついていて弱々しい。

 呼吸もひどく苦しそうだ。胸をふくらませるたびに、首の傷口からヒューと空気を吸い込み、胸をしぼませれば、首から空気がもれ出て血が泡立つ。

 首の筋繊維が破壊されたことで、満足に首も持ち上げるのもツラいようだ。ただ頭を低くもたげたまま、どこを見ているかわからない虚空こくうの目で、周囲をうかがっている。


 そして見つける。


 自身に害をなした害虫を……。そしてそいつは、弱っている。とても食べやすそうな肉に見える。


 大きな鳥が、その体を動かす。


 決して速くはないが、1歩ごとに歩みを進める。


 傷つき、大量のエネルギーを消費した巨体は、その肉を強く欲している。






【カンパ】


 まだ……


地面に叩きつけられた衝撃が、ダメージと痛みとなって体に蓄積する。


 まだ……


それらの蓄積が、体を動かすことをさまたげている。


 まだ……だっ!


左手をあげようとする。徐々に持ち上がる手。指を開いて閉じて。ちゃんと動く。そして右手も。


 でも剣がない。……どこにいった?


 あぁ、あそこか。


記憶と意識と痛みとがぐるぐると混乱する中、目だけで辺りを探れば、ゆっくりと近づいてくる大きな鳥が見える。


 剣はアイツの首に、ぶっ刺さったままだった。


 体はぼろぼろ、武器もなし。仲間は……ほとんどダウンしている。


 それでも……まだ……だっ!


体を起こそうとして、背中に痛みが走り、動きを止めてる。苦痛にゆがむ顔。


 ……それでも……


 オレは……あきらめない……


ヒジを支えにして、なんとか上体を起こす。背中を打ったはずなのに、腹筋が引きつりそうになる。


 まだあきらめねえ……


前に起き上がれないので、体をねじるが、背中が痛みで警笛を鳴らす。それでも回転して、肘をつく。


 もっと、もっと戦って……

 もっともっと強くなるんだ……


左ヒザを曲げて、右足をつく。が、右足首に痛みが走る。痛みごと、踏みつける。


 体がぼろぼろだって?


 まだ動くだろ


 武器がない?


 手があるじゃないか

 そして足も口も頭もある


 仲間がいない?

 1人でも戦うことはできる


脚に力を込めて、立ち上がる。


 そう、まだ何も、終わっちゃいない!


フラツキながら、体の向きを変える。


 むしろ、これからだっ!


 これから、始まりだっ!


 やってやるっ!


 オレは、やってやるっ!


傷つき、武器もなく立つオレの目の前に、巨体が立ちふさがる。






【アイネ】

 ……あいつは、バカだ


ギハスロイには、ゴラが駆けつけているのが見える。

痛む足を引きずりながら、折れ曲がった剣を片手に、足早に進む。


 あいつは本当に、バカだ


 何でそんなに頑張れる?

 兵士だから?

 それとも誰かのために?


 なんにしたって、普通じゃない。

 あんなにボロボロになりながら、また立ち向かっていこうとしている。


 ……そんなの、ただの死にたがりだ


 でも、あいつは……


 ……そうじゃない


 何か別の……何かがある。


 だからきっと、誰かがあいつを抑えなきゃいけないんだ。そうやって、誰かがあいつを守ってやんなきゃいけないんだ。

 そして今、それができるのは……ボクしかいない。


 だから、もっと急がなきゃ。


 だから、もっと早く足を動かさなきゃ。


大きな鳥の動きも、ゆっくりになっているのが見える。そんなに引き離されることなく、追いかけている。


 でも……追いついたとして……どうすればいい?


近づく巨体の背後。そして思い出されるのは、さっきまでの戦闘でのコイツのタフさ。


 中途半端な攻撃じゃ、あの鳥はびくともしない。


 ナニかない?


辺りや鳥の体に視線をめぐらす。そして……。


 あれは……






【カンパ】

オオニククイドリが近づいてきて、そびえるように見下ろしてくる。


 こうして間近で改めて見ると、やっぱりデカいな。


首を上げることも満足に出来ないオオニククイドリだが、突きだすようにクチバシで食いついてこられると、こちらは逃げまどうので、いっぱいいっぱいだ。


 鳥がよたよたと――それでも大きな歩幅だが――近づき、クチバシがせまる。

 ただその動きは、首の傷のためか、さっきよりだいぶ遅い。

 ただ逃げるオレの動きも、だいぶ遅い。


 それでも体を反転しながらカワせば、吐息といきを感じれるほどの距離で、クチバシがカスめていく。

 足がもつれてバランスを崩し、前のめりになるが両手で地面をタタいて持ちこたえる。

 直後、背中越しにヤツを見やれば、もう繰りだされる次のカミつき。


 間にあわない……


そう思って思わず、前転する。


 クチバシは避けた。

 でも、それまで。

 回転したまではいいが、起き上がれない。

 起き上がる気持ちはあったが、起き上がる体力がない。


 オレは回転の勢いで立ち上がることができず、シリをつき、仰向けに倒れる。

 寝っ転がっても、胸は激しい膨張ぼうちょう収縮しゅうしゅくを止めない。

 止めることはできない。

 止めたら死ぬ。

 死ぬまで生きていたら、の話だが……。

 そして汗だくだ。


 そんな正しい考えができなくなっていたオレに、頭の方から、死の影がノシかかる。巨大な影だ。


 ヤツの大きな頭が近く。

 ヤツは目が、顔の横についているからか、中心をずらして横顔を近づける。

 ボサボサの毛に、目をふち取る赤い肉。その中央には、存在感のある、どこを見ているともわからない目。


 オレを見ているんだろ……


 勝者のヨユウってやつか……


 でも、悪かったな……


そう思いながら、息を整える。


 ……オレは、まだアキラめてないんだぜ……


 ……さて、この状況からどうすっか……


 ……せめて、剣さえあれば……





【アイネ】

 初めにこの巨体を見たとき、あまりの絶望に動けなくなった。


 それでもギハスロイの思いや、アイツの言葉でここまで戦うことができた。


 そして今は、アイツが危ない……


 助けてあげないと、いけない……


 でもこの巨体相手に、どうすればいいかわからなかった……


 でも見つけた


 可能性のある1点を


 ボクはその1点に、足を引きずりながら向かう。



鳥が足を止める。

鳥の足の間から、倒れてボロボロなアイツが見える。


 急がなきゃ……


 もう、時間がない……


今まで以上に、痛む足を引きずるピッチを上げる。

近づいてくる、狙いの穴。


カンパに近づく、クチバシ。


鳥の背後の下側……にある狙いの穴。

普段は無意識に閉じられている、それ。

それが頭上にきたとき、ボクは痛くない足で飛び上がりながら、曲がった両手剣をその中へと、片手で力いっぱい突き立てる。






 曲がっている、アイネの両手剣。

 曲がった剣は、曲がっている。

 それゆえに、突き刺したときの軌道きどうも曲がる。

 アイネが突き刺した剣は、肛門こうもんと呼ばれる神経が集中した排泄器官の出口を傷つけながら、腸を突き破り、肉を切り裂いていく。

 今までは多少の攻撃ではびくともしなかったオオニククイドリでも、突然訪れたナイーブな場所の激痛に耐えれなかったようだ。

 両翼を広げて奇声を上げる。



 仰向けのまま、どうしようか考えているカンパ。やや右から目の前に迫ったオオニククイドリのクチバシが……突然大きく開き、大音量の奇声の叫びを上げた。


 カンパは思わず体の激痛もそっちのけで音源に背を向け、体を丸めながら耳をふさぐ。


 アイネは剣を突き刺したあと、引き抜こうとしたが穴の筋肉が収縮し、抜けなかったので手放して地面に落ちる。


 大きな鳥は、下から差し込まれた痛みからのがれようと尻を上げる。つま先立ちになり、前傾する体。もちろんそれで、抜けるはずもない。


 アイネは着地の衝撃をやわらげるため、ヒザを柔らかく折り曲げてかがむ。それでもやっぱり、左足が痛み倒れる。

 剣はと見上げれば、剣を差し込まれた尻が浮き上がり、この足ではもう届きそうもない高さ。

 何か届くものがないかと、辺りを探す。そして左手に触れているモノに気づく。それは古びた丸い形の……盾だ。

 それは先ほど、止まっていたアイネを動かそうとカンパが投げてアイネの剣に当てたモノ。

 アイネはすぐにその盾を勢いよく、頭上の刺さった剣へと投げつける。


 つま先立ちになっていたオオニククイドリは、傷ついた尻への追加の衝撃に耐えきれず、


Guueeeeeeeeee!


と大声で鳴きながら、さらに飛び上がろうとする。が、脚は伸びきりツマ先立ち。足は空をり、体をひねりながら前方へと倒れていく。


 アイネはゆっくりと倒れていく巨体を見送る。が、その向こうに傷ついた少年が倒れていることに気がつく。


「カンパっ!」


 言い終わる前に、大きな重い音と共に、地に打ちつけられる巨体。


 アイネは不安で両手を口に当てたのもツカの間、すぐにオオニククイドリの頭の方――カンパが下敷きになっていると思われる方へと走りだす。

 片足を引きずりながら。

 可能な限り以上の速さで。


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