029 Bird's Attack 11
オオニククイドリの背中にいたカンパは、急に前進する体に振り落とされまいと、しがみついている。そして鳥が前傾したセイで、その背中から両手剣を持った少女にクチバシがセマるのを見る。
「逃げろおぉぉっ!」
でもクチバシに食われようという瞬間、ある影がアイネの体をハジき飛ばす。
飛ばされたアイネは地面に投げ出される。
が、代わりにハジき飛ばした影……ギハスロイの体がクチバシにハサまれている。
【アイネ】
目の前に垂れ下がるのは、青と紺の織り成すガラの、所々に突起のついた、ナタを持つ腕。その腕をたどっていけば……クチバシに挟まれたギハスロイがいる。
そんな……
受け入れがたい光景を、頭が認識しだす。
ボクのせいだ……
ボクがヘマをしたから……
……ちがう……
そうじゃない
そもそも、ボクが兵士になると言わなければ……
そもそも、ボクが神殿を抜け出さなければ、こんなことにはならなかった……
すべてのコトが、急速にイヤになっていく
すべてのことが、どうでもよくなっていく
理想も、現実も、急速に色を失っていく
いっそのこと、ボクがあのクチバシに食われて、死ねばよかったんだ……
「たつ……んだ……」
聞こえてくるその声は、小さくても、すぐそばから聞こえる気がする。……思わず上がる視線。
視界に映るのは、こちらをまっすぐ見る、2つの瞳。ギハスロイの目だ。
彼はまだ、死んでいない……
ギハスロイがこちらを見ながら、何か口を動かそうとしている。その声は弱々しかったが、その目には凄まじい力が宿っている。
「立つんだ……そしてコイツを……殺してくれ……」
そういう彼をハサむクチバシのスキマに、光る何かを見る。それは見覚えのあるシルエット……。
ボクの剣だ……
何であんなところに?
……そっか。
突き飛ばされた反動で、手放した剣が残ったんだ。そしてそのまま、クチバシがハサんだからつっかえ棒になった……。
理由はわかっても、現状を打開できない。彼の命をつなぎ止めた剣は、今にも曲がり折れてしまいそうだ。
ボクにはそんな力は、もうない……
「うおおおおおお!」
頭の上から聞こえてきたのは、あの少年の声……
【カンパ】
オオニククイドリとかいう鳥がムカつく
ムカつくくらいに、めっちゃタフなヤツだ
ギハスロイがムカつく
バカな女を助けるために、勝手に、自分から食われに行きやがった
…………
……でも
……1番ムカつくのはアイツだ!
まるでこの世の悪いこと全ては、全部が全部自分のセイだ、みたいな顔しやがって!
そうじゃない……
そうじゃないんだっ!
悪いのはなあ……
その……
テメエの……
弱さだ!
「カッテにっ! アキラめんなあっ!!」
オレは走り出す。もちろん鳥の背中。
「うおおおおおおっ!」
高い場所で危ないとか、足場が悪いとか、そんなこと気にする間もなく。
そんなモノは一瞬で過ぎていく。
オレには時間がないっ!
腰の剣を引き抜きながら、狙いを定める。
それじゃあ、弱いヤツはどうすればいい?
どうでもいいときに、とでもいい疑問が浮かぶ。
知らねーよっ
近づいてくる、目的だったもの。
そんなの気にしないで……
ガムシャラに突っ込めよっ!
硬そうな羽毛で覆われたそれ、鳥の首は、近づけば近づくほどその太さを実感させる。……それが意味することは、羽毛の下に隠された、人とは比較にならない程の筋肉の存在。
両手で剣を脇腹の高さに固定し、狙いへとまっすぐに足を繰り出す。
「うがらああああああっっっ!」
うがらああああああっっっ!
カンパが体重をかけて突き刺した剣先は、オオニククイドリの首の表面にある羽毛を押し分け、皮膚を切り裂き、頸椎にいたる。が、止まらない勢いは剣先でその骨を削りながら頸椎をそれて進み、筋肉を裂きながら気道にまで達する。
そしてカンパの体も勢いのまま、弾力のある塊に激突。
GGRRRYUUUUUAAAARRRRR!!! (ギギュュュュアアアア!!!)
オオニククイドリは大声と共に訪れた首の後ろの激痛に、くぐもった悲鳴を上げる。
悲鳴を上げたことで、クチバシから解放されるギハスロイの体とアイネの剣は、静かにこぼれ落ちる。
殺せなかった勢いは、カンパの体を骨ばったオオニククイドリの首に激突させ、そしてハジく。
空中で踊る、カンパの体
カンパは反射的に剣を握る右手に力を込め、投げ出された左手で羽毛をつかみ取る。上体が回転して離れていく体を、腕の力だけで引きつける。剣に力がかかることで、広がる鳥の首の傷口。
巨大な鳥の首にほとんど抱きつくようになりながら、カンパは周りの状況を一瞥する。
座り込んだ少女と、カタワらに倒れ込んだ青と紺色の模様の体。
抑えがたい感情が口から吐き出る。
「立てっ! 女っ!」
オオニククイドリが首にまとわりつく、痛みの元凶を振り払おうと暴れだす。
「まだ戦いは終わってないぞっ!」
カンパはそう叫びながら、落ちまいとしがみつき、剣を上に下に力強く小刻みに動かし、押し入れていく。流れ出る血が手に付着して、剣を持つ手が滑る。
オオニククイドリは暴れても離れないカンパに、いら立つままいっそう激しく体を動かす。長い首が縦に、斜めに波打つ。
それでも必死にしがみつき、離れないカンパ。しがみつきながら
「おまえはっ!」
オオニククイドリは体を右下へ傾けていき……
「……英雄になるんだろお!」
オオニククイドリは全身のバネを使って、頭を左上方へと跳ねる。
カンパの足が離れて、体が外に向かって浮く。
「おっ?!」
左手でつかんでいた羽毛が抜けて、左手が浮く。
最後に剣をつかんでいた右手も、鳥の首から出た血で染まり、スベってすっぽ抜ける……。
カンパの身体は完全に、空中に投げだされている。
「お~~~あ~~~」
【アイネ】
目の前に、ギハスロイが横たわっている。
彼はうつ伏せから、ようやく顔だけを上げて、
「……たのむ……」
と絞りだした。
なにを? ……かは、さっき聞いた。
『立つんだ……そしてコイツを……殺してくれ……』
ギハスロイはまだシボりだす。
「……あの人の……」
彼の息は、荒い。
「……ために……」
彼の顔は、悲痛な苦しさでいっぱいだった。
誰のため?
顔はわからないが、大麦の畑に立つ女の人の姿が浮かぶ。優しそうなフンイキの、女の人だ。
上の方からも声が降ってくる。
「立てっ! 女っ!」
それは、聞き覚えのある声。
言い方が粗野で乱暴なことハナハダしいが、不思議と力をもらえる声。
「まだ戦いは終わってないぞっ!」
そう……
立たなくちゃいけない……
いつもの5倍くらいは重い上体を、なんとか引き上げる。
「おまえはっ!」
足を引き寄せ、痛いほうの足も静かに引き寄せる。
「……英雄になるんだろお! おっ?! お~~~あ~~~」
投げ飛ばされていくカンパが見える。
大丈夫?
でもっ!
そうっ!
ボクはあの日……あの場所を抜け出したあの日から、英雄サイネヴィみたいになるって決めたんだっ!
人々のために戦い、人々を導いたあの人みたいになるって決めたんだっ!
ゼッタイ、ゼッタイ、なるって決めたんだっ!
こんなところでじっとしていて、いいハズがない!
立てっ!
立つんだ、ボクっ!
これが、あの人に、続く、道なんだっ!!
乾燥して固い地面を押して、片方の脚で立ち上がる。
ちょっとよろける……
でもびっこを引きながら、剣を拾う
折れ曲がった両手剣を……




